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四十:蓑虫と化す胸の内


 さっきの小太陽と同じ大きさ、だが、内包されたエネルギーは比べ物にならない。

 そうだな……ざっと50倍はある。

 速度も、だ。



 だが、最早俺の敵ではない。

 「電光石火(黒)」を使い自分自身の分身を()()する。

 創作したことによって「スキル付与(創作時)」の発動条件が満たされる。



 付与するスキルは、「挑戦権」。

 ちなみに、今の俺だと「挑戦権」「光礫」「虎狼痢」の3つの付与が精々だ。



 だから俺は、「挑戦権」を選ぶ。



 創作した分身は、どれも俺の95%の身体能力を付与することしかできない。

 それにあくまで集中した場合がそうなので、こういった切迫した事態には40%まで出力が下がる。



 だが、それを全部()()に回したら?

 いや、正確には、ある程度はスピード、パワーを残した状態でほぼ全てをガードに使えば?

 ん?もちろん自分自身で作り出した分身は自分で調整できるさ。



 さてさて、単純計算で、ガードだけは俺と全く同じ、100%再現の分身の出来上がりだ。

 そして、おそらく「挑戦権」付与による上がり幅は最低でも1.5〜2倍。



 そして、ここで「黎明」に「電光石火(黒)」を纏わせたのが生きてくる。



 つまり、俺が刀を振ると同時に、分身の生成かつ刀を振る速度の上昇が恒常的にかかる、ということだ。



 もう1度「射的」を発動。

 今度はあの小太陽の、右上に効果を作用させる。



 そう、そもそもあの小太陽は、俺の頭上に現れた方の小太陽が8個集まった物を6個、そしてそれを束ねたものだろう。ほら、「魔砲キャノン」の砲口を見てみろ。6つに分かれているじゃないか。



 おそらくはそろそろ分散してくる。



 え?時間の流れが遅い?



 それは、まあ、こういうことだ。

 「脳」とスピードが相互に作用しあって、体感時間・思考余裕・攻撃見切、の増加の補正がかかったんだ。



 つまり、俺は自分の意思でそれなりの幅で体感時間の調整ができる。



……はてさて、対策も練ったことだし、行くか。

 とりあえず一旦体感時間を元に戻す。



 そして、いかにも「魂後刀」を持って、で先と同じことをする……と、思わせる。

 実際に持っているのは「黎明」だ。



「かかったね!分散デストレビューテッド!」

──まずは6つ!

 予想通りだ!



 おそらく到達まであと1秒。

──そして俺は発動の準備を整える。



 さあ、俺は「回避」というスキルがあるんでな、少しの隙間があれば、()()()()()

 そして、相手も俺が攻撃を避けてくると、予想している……()()()()()



 だが、決して不審がられては行けない。

 相手の行動を見てから行動するようにする。



 隙間に向かって俺は駆ける。



──その瞬間、彼女の拳が開かれたのを、俺は見逃さなかった。



 指が開き……それと同時に小太陽もさらに8つに分解される。



 流石に今の俺のガードではHPを0にしてしまう恐れがある──「蘇生リサシティション」が使えることは、できる限り隠しておきたい。



 まだ到達までは時間がある。

 体の体勢を整え、さらに発動の準備を進めることができる。



 ふと、下を見ると、指が溶けていた。



「は?」

──待て待て待て、まだ分裂(デストレビューテッド)してから0.5秒経ったばかりだ。



 なら、これは何だ?

──おかしい!いや、それよりも、まずい……発動までの時間が足りない!



 直後だった。



ドガアァぁァあああアアアンン



 余裕からくる致命的なミス。

 絶対的自信によって引き起こされる取り返しのつかない事実。



 彼が死んだのは、誰から見ても明らかだった。



「よっし!これで()れたかな〜?」

 そこから生まれる油断は、彼の1()()を許してしまう。



 低く、喉を擦るような、ただ息を吐いているだけのような、声が響く。

「1歩1歩1歩1歩1歩1歩………………」

 不気味に呟くその姿は、最早ヒトではない。

 いや、ヒト比べることさえ憚れる、まさに悍ましさの権化であった。



 彼女の笑みが固まる。

「──え?」



 そこから歩み出たのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 明らかに即死だ。



 そう。「蘇生リサシティション」は、即死には効果がないのだ。

 他の人が魂を意図的にどこかに溜めてたりしていた場合を例外に発動しないのだ。



 そして、彼は()()()()()



 一拍おいて、彼の身体中に空いた穴からドロリとした白い液体が溢れ……時間が巻き戻るかのように体を再形成する。



「さぁ……第2ラウンドヲ、始メヨウカ……」



 そこから発せられる声は、根源的な恐怖を呼び起こす。

 彼女の腰が抜けるのも、時間の問題だった。



「ひっ」



カラン

 と金属特有の高い音が響く。

 なるほど、魔砲を落としたのか。



 1歩ずつ

 1歩ずつ

 1歩ずつ

  ・

  ・

  ・

 1歩ずつ



……ああ、声に出ていたようだ。

 まだ声帯が治りきって無かった。

 意識が回り切らないが、これで体の大部分の修復は完了だ。



 なぜかは知らないが、俺は、あれを乗り切ったようだ。



 さあ、戦いはまだ、終わってないぞ?



「立てよ」

──その口に浮かぶのは、どこまでも吸い込まれていくような、三日月。

 歯が、さらにその不気味さ、忌避感、生理的嫌悪を引き起こす。



 絶望の時は、近い。



 手を振り上げ、エネルギーの塊を投げつけるように俺は構える。



 左手には「遊場ゲーム廻転ローテート」を発動し、「虎狼痢」の発動の準備をする。

 左手は、まるで「虎狼痢」の発動を待ち侘びるかのように疼き出した。



 空いた右手をスッと前に突き出し、襟首を掴む。

「きゃっ……」

「黙れ」



 そのまま顔が俺自身の顔の目にくるように持ち上げ、改めて彼女の顔をまじまじと見る。



 まず目に入るのは線が整っていて綺麗な鼻。

 そのまま視線を上に持ち上げ、双眸そうぼうを覗き込む。

「……っ」

 彼女の体がビクッと震える。



 その彼女の瞳は左がコバルトブルーで右がバーミリオン。

 相反する色を持つオッドアイは、まさに冬と夏を連想させた。



 瞳を覗き込むとき、前髪が少しかかった。

 顔を上げ、頭を見る。

 頭頂はブラウンだが、放射状に広がるにつれサーモンピンクに変わっている。



 なるほど、なかなかの美少女ではないか。



 息がかかるのを感じた。

 唇は真っ青になり、歯はあからさまに震えている。

 再び双眸を覗き込むも、やはり恐怖しか見えなかった。



 彼女が着ていた洋服は、布のようにも見えるが、急所には金属──それもかなり硬くて軽いもの──が付けられ、「彫刻」されている。



 短いおかっぱの髪から連想し、服はかなりボーイッシュで動きやすいようなデザインになっている。

……おっと、思わず感心してしまった。



 さて、もう()()()()



 殺すか。

 手を翳すように前に持ってくる。



 左手でゆっくりと彼女の首筋に触れる。



(ん?匂いがするな)

 彼女は、失禁していた。

 口からは泡を吹いている。

 だが、意識だけは保っているようだった。



 そして、皮膚と皮膚の接触が行われる──1歩手前で、彼女の姿が消えた。



 新たな声が響く。

「ごめんなさい、遅れました」

 もう、終わりだと思っていた彼女は、知らぬ間に温かい腕の中に抱かれていた。



「どんな理由であれ、私の連れに手を出したことは死ですら生ぬるいですよ……?」

 ()()()()()()()、怒気を孕ませるその容姿はまさにフェニックス、そして、その威厳こそ《王》の象徴であった。


⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥


side:エアリ


 目の前にある物は、()()()()()()

 まるで、世界が自分を否定しているような……。



 感じ取れるのは、大地の鼓動、靡く風、響く稲妻の音。

 あと大雨。

 でも、体には降って来ない。

 なぜなら、消えてくから。



 私は……誰だろう。

 自問自答する。



 私は……何でこんな所にいるんだろう。

 答えが見つからない。


 私は…………ああ、そうだ。



──師匠を探しに行かないと。



 あの日から、もう何日経ったのか、見当もつかない。

──そうか、師匠がいなくなったのか。

 心に穴が空いたような気分になるが、それもまた、とてもいい。



 待ってて、師匠。



 絶対に見つけ出すから。



 私は歩き出す。

 ここが、どこかも知らずに。

 背中に、パイプが繋がっているのにも気付かず、目の前に大量の死体があることもわからずに。



 私はただ、歩き出す。



「ほぉ……想像以上だな。我々の命令を聞きすぎることは難点だが、コードで何度も命令すればいい」



──どんな声がしても、何があっても、私は、歩くだけ。



 彼女、エアリは気付かない。

 自分の心の殻が、最早びくともしない、誰にもこじ開けることのできない檻になっていることに。



 その歩く姿は、まさに破壊神。

 いや、神話の()()()の再臨であった



 彼女は、恍惚とした笑みを浮かべる。


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