三十二:高みを望めば阻まれる
主人公が再登場するのはもう少し後になりそうです……。
side:レンジュア
この大男、古の巨人、戦士でZランクのレンジュアが並々ならぬ気配を放っている。
相対するはその女、美貌の店主、悲哀のエルフィーネ、灼炎の鎚のフェスタ・G・リアディア。
このどうともつかぬ雰囲気から空気が振動する準備を始める。
もう30ヒンは経った。
その方向を見つめれば、レンジュアが早速口を開く瞬間だ。
そして呟かれるは衝撃の真実。
カクゴ族が崩壊した元凶に対し言葉を放つ。
「おい、フェリアと言ったか?違うだろ。貴様の名がフェスタ・G・リアディアな訳ないからなぁ。」
そう言って巨人は憎しみの籠った目、殺意を宿したその瞳で女を見つめる。
「貴様、我らが王、《不屈王》を暗殺した……いや、違うな。貴様は堂々と殺したんだな。サンリオス・ギマグゴチーニ=サミニリア」
『秘密を暴露された女は、高らかに笑い出す』……確かもう亡くなった昔の喜劇作家が作中で主人公に吐かせた台詞だったはずだ。
「ふふ、ふ、ふふふふ、ふはは、ははははハハハハ、ハハハハハハハ!」
巨人は少し訝しみながら言う。
「貴様、何がおかしい」
女は、それこそ傑作だというようにさらに声を上げる。
ひとしきり笑った女は……口を三日月のように大きく曲げ、目に企みの彩りを持った冷たい灯を灯す。
「いやぁ……まさか、あんたが生き返るなんてねぇ。びっくりだよぉ」
女は巨人に近づく。
巨人は1歩退く、いや、退いてしまった。
そして女は囁く。
「幻惑領域」発動。
巨人は危険を感じ、咄嗟に自らの主人の元へ帰ろうとするも、なぜか帰れない。
そうして、ようやく巨人は気が付く。
この目の前の女がEXランクであることに。
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side:サユノマサ
サユノマサ、ニゲル、GF46-Bはいきなり外に放り投げられる。
そこはちょっとした路地裏だった。
「ふむ、主の気配が感じられないな。「風の便り」を使ってもわからないということは、おそらく場所そのものが隠蔽されているな。主に何かあったら私は……」
「キュ(あれ)?」
「吾輩も意見があるのだが」
「どうした?」
そう言って2匹は顔を見合わせ……GF46-Bが話すことになったようだ。
「レンジュアが危ない気がする」
「ふむ、レンジュアがどこにいるか……っ!?」
「どうした?」
「キュル(何かあった)?」
驚愕する。
——レンジュアが死にかけている。
その情報だけを告げ、レンジュアがいる場所に印をつける。
「私は先に行ってるから、早く来い」
「はいっ!」
「キュ(わかった)!」
「物質透過」発動。続けて「颪」発動。
そして隠蔽之魔術「風神」発動。
0.1ミョウにも満たない時間で器製作所「差流美の凛A」に到着する。
その店は静かだった。
とても静かだった。
何1つ音がしないほど静かだった。
明らかに不自然だ。
そう思い、サユノマサは「風の便り」で店を調べる。
そして気付く。
「領域」が張られていることに。
被せるように発動させる。
「大地領域」発動。
効果は、今ある全ての領域を消し去り、代わりに自らの領域を設置すること。
「一応防音やら人避けは付けておくか」
そうして、中に乗り込む。
予想はしていたが、さらに酷かった。
まず目に飛び込んできたのは四肢をもがれ、たった今腹を貫かれているレンジュア。
Zランクは伊達ではなく、まだ息をしているが、戦闘に復帰することは不可能だろう。
そんなレンジュアを見て、私は1つの真実に気づいてしまった。
これが気持ちというものではないのか?
確証は……まだ、ない。
ああ、でも、それよりも身体中の血が沸騰しそうだ。
「透過」解除。
サユノマサは静かに「怒り」を纏って宣言する。
「ここからは、私の領域だ。仲間を痛めつけた罪、代償は高く付くぞ?」
速攻でレンジュアを回収。
「大地の恵み」で外傷を完全に治し、「睡眠」で眠らせる。
気配がしたので振り返ってみると、小さなニゲルの体から大量の蒸気が噴き出ていた。
その蒸気はアキュアを大量に含んでいる。
ニゲルの目が真っ赤だ。
いつもの穏やかさはもはや残っていない。
私が治す前のレンジュアを見たのだろうか、と一瞬思案に耽るも、目の前に迫った敵を感じ取り、攻撃を弾く。
「ああ、幻覚作用……お前と会うのは初めてだな。というか私が初めて会ったEXランクのやつだ」
「よぉく、わかったわねぇ。あのコはちょーっと邪魔そうだったから。拘束されてる状態の中、目の前で仲間が食い殺されてる様子を見るのは、さぞ楽しかろうなぁ」
だが、
「私には効かぬぞ。「道標」発動」
この三次元空間を平面に写す。
至る所に張り巡らされた四次元の道標が幻覚から我が身を守る目印となる。
(まあ、実は別の効果もあるんだがな)
「ちぇっ、いい所だったのにぃー」
「風の便り」が発動する。
相手のスキルの発動の兆候か、と判断し「樹海の監獄」を発動させる。
行き場を失った以上、敵はどうする?と考えを巡らせるも思いつかず(風の便りにも逃げ道がないと出て)、ひとまず気持ちを落ち着かせる。
そのときようやく気付いた。
「怒り」っていうのは、スキルなんかではない、と。
これも感情なのだと。
その瞬間から、最強の王がこの世に降臨する。
『一定条件に達したことにより、称号《此星王》を取得しました』
『一定条件に達したことにより、全ての能力が底上げされました』
『一定条件に達したことにより、記憶を一部解除します』
彼女は真の力の一部を取得した。
「さあ、お前はどこに逃げる?」
絶対的強者という者からは……絶対に目をつけられてはいけない。
なぜって?
その時点で終わったも同然なのだから。
——そう、思っていた。
そのはずだと、信じていた。
(本当にそうか?)と、疑うことをしなかった。
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side:セヴン・デッドリー・シンス
ここは、いわゆる魔王城。
魔王が住んでいる場所を魔王城というのなら、ここは魔王城なのだろう。
——そして、僕の終着点だ。
あくまで僕の、だが。
彼女が僕のことを慕ってくれていることを、一応知っているつもりだ。
決して彼女の終着点にするわけにはいかない。
これは、僕が全てを担っている。
誰にも知られぬ戦いが、始まる。
「エアリ、ちょっと待っててくれ。僕は先に中に入って偵察してくる。周りには「エネルギー停止結界」が張ってある……でも、エアリなら敵を見つけたらまずは身を潜めて、逃げ道を確保しといて」
「ししょう……だいじょうぶ?」
「ああ、じゃあ」
そう言って僕は門を突破したのだった。
だが、計画は1歩目で頓挫する。
そこで僕はこの無茶な戦いに身を投じるにあたって、最もあってはならない状況を見逃してしまった。
「ししょう……だいじょうぶかな……?なにかあったら……わたしがいかないと!」
僕は凄惨な過去を持つエアリに寄り添うことができた……はずだ。
だが、そんな僕を案じるあまり、見事に僕の注意が当たらないところからゆっくりと付いて来てしまったらしい。
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side:エアリ
もっとはやくこのことにきづいていていれば……っ!
あの日から、全てが変わった。
……一体どこにいるのだろうか。
絶対に見つけ出すから、待ってて、師匠。
……エアリは、今現在で7歳となる。
さて、彼女の精神は、一体誰のものだろうか。
なぜ、彼女は怖い笑みを浮かべているのだろうか。
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side:ホーエリー=ニーナ
魔王城というものは、かなり堅牢に、そして難解に造られている。
そしてその魔王城の最下層、「負の第零階層」と「負の第二十階層」、通称「二〇・〇〇」という場所があり、そこには全ての生き物を一掃できる兵器が合わせて2つ入っている……という噂がある。
いや別に隠したいってわけじゃないんだぇ。
ただ、誰にも見つからないように設計してあるだけなんだぇ。
えぇ?
わしゃがだれかぇって?
なんでそんなこと知ってるのかぇ、だってぇ?
そりゃあ、ボクはニーナだよ。
お久しぶりー。
で、説明しようか。ボクは今聖女なんだ。まぁ正確には《風聖王》という称号を持った聖女、なんだけどね。
つまり、簡単に言えば荒波を鎮めに来たんだ。
ここはまだ大丈夫だって?
まー、そんなわけにもいかなくてさ。
全ては「救助予知」っていう新しいスキルのせいだ。
これを手にして、説明を聞いた時は……はっきり言って荒れたね。荒海だけに。
だって、荒波が現れる場所をあらかじめ予知できる代わりに、そこにいなければいけないっていう制約付きなんだ。
で、それがここだったから、わざわざ変装してまで忍び込んだんだ。
あ、ここでのわしゃの役割は、よくわかれねぇとこから来た、雑用のおばちゃんってとこだぇ。
ああ、くれぐれもバラさないようにね?
他の人に話したら、本当にボクの体がどうなるかわからないから(間違って君をバラしちゃうかもね)。
で、潜入してるうちに迷っちゃったことがあって、偶然見つけたんだよ。
兵器の名前がこれまた凶悪なもので、それぞれ「トウダイグサ」「スナバコノキ」っていう名前だ。
確かどちらも爆発する植物だったような……。
そもそも、この世界には何気に「地球」の文化が入っている気がする。
地球からここに召喚された人が他にもいるのか……?
それよりも、前世の記憶が何1つ思い出せない。
いや、正確には、1つしか思い出せない。
ボクは、誰かを探さないといけないのではなかったか……?
確か、忘れちゃいけない、大切な人だったはず。
早く、その人を見つけ出さないと。
——あれ?その人、誰だっけ?
店名が「サルビノリンA」……怪しすぎる……。




