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二十九:氷水


 採寸を採ってもらった後、積もる話があるだろうとのことでレンジュアに自由時間を与えた。

 俺は今、散策中だ。



「この、マリリンフォーセ、うまいなぁ。もう1個買おう」

 マリリンフォーセとはマリリン、つまりカイ蜂の蜜を煮詰めて色々なものをまぜたものと、赤紫色の立方体をしていて、塩味と苦味が絶妙にハーモニーを奏でる美味しい食べ物フォーセが合わさったお菓子だ。



 まだ1日は終わらない。

 自由時間は与えたんだけど、レンジュアに合わせると昼飯を食べるのが16コクになってしまうので、先に腹の足しになるものを探している。



 辺りを見回して呟く。

「それにしても、よくこんな量のスゲアが取れるよな」

 スゲアとは、茶色の甘い塩みたいなものだ。

 塩はとてもしょっぱいが、スゲアはとても甘い。

 そして、塩ほどスゲアはあまり流通していないのだ。



 理由としては農作物としてしか採れないからだろう。

 雲穿塔に入っても出落(ドロップ)しない。いや、正確にはすごく出づらい。



 栽培すること自体は簡単なので、別に無くなりはしないが、それでも流通量は少ないと言えるだろう。

 なので普通なら代わりにマリリンを使用する。

「でもやっぱりスゲアにしか無い味わいもあるからなぁ」



 個人的な意見だが、スゲアの方がマリリンよりも美味しいとは言わないが、もっとスゲアが流通すれば甘味処で扱うお菓子もさらに増えてくれることだろう。



「それにしても……G(ギマグゴチーニ)ってどこかで聞いたことがあるような……?」

 まあ、気にすることではないだろう。



 そういえばレンジュアってカクゴ族においてどんな立場だったんだろう。Zランクともなればかなりの地位にいたとは思うが……巨人って他にもいろんな族があるんだっけか。

 いつか行ってみるか。

「今まだ残ってるのって確か……モクナ族だっけか」



 取り止めの無いことを呟きつつ道を歩いていると、不意に横が気になって振り返ってみる。



 なんか風が吹いてくる……?



 そこは暗い小道になっていて、店と店の隙間だった。

 思わずそこで立ち止まってしまう。



 そこには、()()()()()()()()()()()()()()()()()が立っていたからだ。

「「看破(覚醒)」があるからわかったものの……これ、何重にも「偽装」がかけられてるな。というか、スキルって重ねがけできたのか……いや、俺もやってたな」



 なぜか惹かれるものがあり、少し寄ってみたくなってしまう。



 少し色褪せた、だが、それでいて高貴な雰囲気を保っている白色の扉が目に入る。



 見上げると、上には鈴がついていて中に入るとなる仕掛けに「看破(覚醒)」発動、「偽装」発動を確認……ん?これも「偽装」がかけられていたのか。



 ここは一体なんなんだ?



 少し期待しながら扉を開ける。

「失礼しまー……うわっ!危ない!」



ヒュンッ



ヒュンッヒュンッヒュンッヒュンッヒュンッヒュンッヒュンッヒュンッヒュンッ



「…………」

 何本もの鋭い刃が絶え間なく飛んでくる。



 訂正する。ここは決して楽しいところではない。()()()()()



「貴様……誰だ?」

 声がしたので振り向くと、顔のすぐ横を刃が通り過ぎる。



 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「はは……これでもそれなりに高いレベルなんだぜ……」

 少し冷や汗が出てきた。



「名乗れ、貴様、名を名乗れ」

 今度は威圧を伴った声を投げかけてくる。

 だが、その言葉はどこか現実感を伴わず、どうしても言語の()()()を味わってしまう。



「俺はフール=リッシュエスタ。ただの挑戦者だ」

 そう言って振り返る。



 そして絶句する。



 声音に妙な浮遊感が混ざっていると思ったら、そこには実際に()()()()()()()()()()……いや、最早人ではないのは一目瞭然だろう。



 そこには真白の輪を()()()()少年がいた。

 身に纏っているのは洋服……ではなく長い布を何重にも巻いたようなもの。

 瞳は片方が真っ赤、もう片方が真っ青に染まっていて、その周りの異常なほどに白い白目がさらにその異常さを際立たせていた。

 体の至る所からうすい光が漏れていて、体を揺らすたびに残像として線ができる。



 それは天使だった。



 蝋天使とは比較にならないほど凶悪な力を持った天使であることは見ればわかる。



「んなっ!?」

 流石に俺は声を漏らすことを止められなかった。



 だが、すぐに臨戦状態に入る。



「動くな」

 しかし彼の1言で身体中の筋肉が硬直してしまい、動けない。



 必死に口だけ動かし、声を発する。

「お前……は……誰……だ」

「ほう、声を発せるのか。普通は心臓や肺の筋肉まで硬直して死ぬはずだが、お前は少し特殊なようだな。面白い。いいだろう、耳に穴を開けて聞いとけ。自分の名は背天使だ」



 こいつとの出会いが予知できるものなら、教えて欲しかった……と割と切に思いつつ、自分の「状態異常耐性」が発動していることを確認する。

「ああ、貴様如きの耐性で自分を止められるわけが無かろう?」



「ぐっ……」

「さて、話だけ聞いてもらおうじゃないか。ここまで辿り着いたことだしな」

 ああ、初めてだ。

 ここまで屈辱感を植え付けられたのは。

 それもこいつの能力によって創り出されたもので、それがさらに屈辱を増す。



 「電光石火(黒)」を意識的に発動。

 隠蔽之魔術シークレットスキル遊場ゲーム創生クリエイト」発動。



 走り出す。



 「挑戦権」発動。全能力10倍。

 いきなり軽くなった体についていけないが、それでもがむしゃらに走る。



 「黎明」を召喚し、「目眩し斬」発動。

 光があいつの目に運ばれてゆく……と同時に弾ける。



 刀を振りかぶった瞬間、身体中がすでに固定されている。

 身体中の細胞という細胞から糸が伸び、体が縫い付けられている。



 「亭午」に変化。

 「血前刀」を変形させて盾状にする。

 即座に「魂後刀」を「念動Ⅶ」で動かし、全ての糸の魂を破壊する。



 自由になった身体が意識と融合するのを感じる。

『一定条件に達したことにより、一時的に「全身脳」を取得します』



 身体中が脳になった気がする。

「土壇場で強くなるか。ますます興味をそそられる」



 その傲慢さが気に入らなくて、とにかく全力で走り込む。



「だが」



 もうなんと言っているのか聞こえない。

 だが、今感じているのはここで倒さないと俺自身が殺される、という生存本能。



「弱い」



 声が聞こえない。



 あいつの肩から凍った翼が生える。

「権能“絶対零度”」

 全てのものの次元が落ちる。

 三次元から二次元、二次元から一次元、一次元から零次元へ。



 俺の周りの全てのものの時間が止まり、動けない。

 空間と時間の結界とでもいうべきか。

 「血前刀」を構え……られない。



「まだ特訓する必要がありそうだな」

 気づくと首の後ろに強い衝撃を感じ、意識は闇に沈んでゆくのだった。


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side:セヴン・デッドリー・シンス


 魔王……いや、正確には《魔獣王》。

「EXランクはEXランクにしか殺されないって本当なのかな?」

 僕らは着実に魔王を殺す準備をしていた。

 ちなみに今のところ獣種の王が3、人間種の王が2、霊種の王が2で合わせて《七王》という情報を得た。

 あと魔王は

「ししょう……」

「ん?どうしたエアリ」

 こいつは僕の弟子でエアリという。

 獣種としては珍しい角が無いドレイヤーという獣種なのだが、ドレイヤーが昔に魔王の暗殺未遂を起こしたせいで迫害されている。



 魔王と同じEXランクで獣種の僕が、王として領地を統治するんじゃなくてドレイヤーの少女と一緒にその魔王を暗殺しようとするなんてかなり皮肉だな、と思いつつ彼女がなんと言うのか耳を傾ける。

「あそこにこおりみずがあります……」

 声がどんどん小さくなってるぞ、と少し苦笑してしまう。



「食べたいの?」

「……」

 人差し指同士がつつき合っているのが見える。

 これは彼女の癖で、何か欲しいと人差し指同士がつつき合うのだ。

「じゃあ食べに行こっか」

 そう言うと、エアリの顔が目に見えて明るくなった。



 もうエアリはかなり強くなり、見ている僕も嬉しくなってくる。

 それでも彼女はまだ幼いのだ。

 こんな息抜きも必要だろう。



 普通の日常というのも悪くはないな、と思いつつ、それでも魔王を殺すのか……とどこか浮ついた感情が頭の片隅に潜んでいた。



 そして、どうしても魔王を殺して吸収することよりもこの子を守りたいという思いが日に日に強くなっているのがわかった。



 それが彼女にとって悪影響を与えることも。



 実は、最近僕は魔王を殺さないでおこうと思い始めている。

 この子を魔王に預けるのだ。



 僕の出自が怪しい。きっと何か仕組まれている気がする。

 この子を危険から遠ざけるために魔王にはエアリの保護を認めてもらおうと思う。



 そうして僕は危険を追い払うのだ。

 彼女に降りかかる危険を全て。



 危険を追い払った後……何しようかなぁ?


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