二:波風立てぬ海ありや
side:????
「ウィ〜、ヒック、ヒッ……ク」
ここに酔った男が千鳥足で歩いている。
なんでも新たにできた居酒屋によっていた……とかいないとか(後日談だがこの人はのちに妻と離婚して新たな妻と結婚し、また離婚し……を繰り返したとか繰り返してないとか)。
そんな男だったが、こんな草木も眠る夜中に居酒屋に行ったのは他でもない。
居酒屋に行くと同時に近くにあるちょっと薄気味悪いところを見に行こうとしたからだ(肝っ玉が太いというべきか、ナニナニのナントカというべきか)。
数ケイン(1ケイン約6分)程時間が経つ頃、男はその場所へ到着した。
「お〜い。誰かいるか〜」
呼びかけても誰も応えない。
「そりゃァそっかあ。誰かいるわけネェもんなあ。ちぇっ。チョットは期待してたのによぅ」
男はそう言いつつもゆっくりとおくちへと進んでゆく。
ある地点を境目に急に空気が湿り気を帯び始め、変な匂いを感んじるようになった。
「んあ?」
男は不思議に思うもののそれでも進んでゆく。
「こぉんな張り合いネェとこなンざもう用はないッての。」
男は酔いが覚めたのか、急につまらなくなって帰ろうとした。
するといきなり
キシェエエ゛ェェ゛エェェ゛エ゜エェェエ゛エエェェエエ
と奇声を上げながら駆けてくる、人の形をした目が66個あり、手が32本、足が24本ある怪異エニアイサピエンに遭遇した。
そう、雲穿塔から出るはずの怪異が市街地に出現したのだ。
「うぉぉぉおおおおおおお!こんなん聞いてネエぞぉぉ!やばいやばいやばい。早く逃げろぉおおお!」
男はすぐさま後ろを振り返り、逃げ始めた。
その瞬間、
ぐちゃ
という気持ち悪い音が背後から鳴り響いた。
ぐちゃぐちゃグチャぁぐちゃ
「は?」
男は間抜けな声を上げる。
グチャア、ボギョロッ、ギャオロン、ブチャア
この世の全てが嫌悪する音が
辺一体に一斉に鳴り響いた。
⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇
「せっかく挑戦者になったのになぜ俺が受けることのできる採集依頼がないのか……」
ここに人生を放棄したかのように項垂れている人間種ヒトが黄昏ている。
そう。そんな俺こそがザーーザー……ザーーなのだ。
ん?今なんて言おうとしたんだっけ?
ええと……。
まあいいか。
『システムの領域に障害を及ぼす可能性がある言葉として認識不可単語No.60034として脅威度G認定で登録しました』
『施行中』
『失敗』
『施行中』
『失敗』
『施行中』
『失敗』
『施行中』
『失敗』
・
・
・
『施行中』
『失敗』
『施行中』
『成功しました。時間を0.00000343秒かけてしまったため、特別措置を取ります』『許可が降りなかったため、辞退します』
『他のシステムへの影響を分析中』
『0.00000000001215秒かかりました。他システムの正常を確認』
『次善策を検討』
『次善策の許可が出ることはないと考えられるため、自己防衛の一環として次善策の登録を開始』
『成功しました』
なんかあったような気もするが、まあここは気を取り直してもう一度。
どうも、俺はこのサガクムシンで挑戦者を始めたフール=リッシュエスタ。
フーリと呼んでくれ。
そう、この俺の言葉からもわかるとおり、俺は念願の挑戦者になったのだ!
だが、あまりにも受けられる採取依頼がなさすぎる!ということで今絶賛落ち込み中。
まあ仕方がない。
話すと長くなるので省略するが、俺たち挑戦者には等級が設定されており、解析玉で判別する。
俺はというと
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〜〜〜〜〜≡≡≡≡≡≡≡≡「 フール=リッシュエスタの能力」≡≡≡≡≡≡≡≡ 〜〜〜〜〜
名称:フール=リッシュエスタ 種族:人間種ヒト 職業:光之武士
無抵抗時最大生命力 ライフ:100 (+80) / 180
↑ 1up 10000pt
成長値 レベル:Lv . 1
保有特典数 ポイント:634pt (日替わり,ランダム)
能力値:
*瞬間最高物理出力 パワー:90 (+400)
↑1up 5000pt
*5秒継続最高物理防御 ガード:30 (+20)
↑1up 9000pt
*瞬間最高加速 スピード:600 (+1000)
↑1up 10pt
*最高活動時最長持続兼最大保有体力 スタミナ:150 (+200)
↑1up 600pt
*戦闘時武器親和度 ウェポンコネクション:100 (+600)
↑1up 300pt
*瞬間最高魔法出力 マジックパワー:60 (+200)
↑1up 7500pt
*5秒継続最高抗魔法力 マジックガード:100 (+100)
↑1up 11000pt
*最高活動時最長持続兼最大保有魔媒素量 マジックスタミナ:120 (+120)
↑1up 800pt
*無抵抗時最高魔法親和度 マジックコネクション:100 (+300)
↑1up 500pt
*活動時最高幸運 ラッキー:70 (+7)
↑700up 777777(固定)pt
*成長率 アップグレード:200 (+200)
↑1up 6000pt
*累積能力値相対化段位 総合ステータス段位:Gー1位/1体中
発動可能魔法一覧 スキル:戦闘系ー 「俊足Ⅰ」 、「『EX』目眩し斬」/計2個
生産系ー 「X生成(未定)」 /計1個
支援系ー 「やる気」/計1個
操作系ー 「念動Ⅰ」 /計1個
取得可能魔法一覧 カンハブスキル:戦闘系ー なし/取得0pt
生産系ー 「創糸」/取得9000pt
支援系ー 「回復」/取得5000pt
「修復」/取得6000pt
操作系ー なし/取得0pt
個人能力値:*発現特異魔法名称 ユニークスキル:「虎狼痢」
(「(未発現)カンサー」)
(「(未発現)迸る閃光」)
*進歩可能進歩先ー[なし]
*称号ー《____》
*総使用器ー 黎明/刀/武器耐久値 ∞(使用者のライフと連動)
(使用者「フール=リッシュエスタ」固定)
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となっているわけだが、見てくれの通り、上の「総合ステータス段位」というところがGになっているのだ。
説明しよう!上から順にランクはEX、Z、S、A、B、C、D、E 、Fとなっているのだがこれは解析玉に書いてあるよな?でも、俺のランクはGなので、ランクが分からん!
受付のお兄さんには、
「ABCDEFGのGなんじゃないでしょうか……」
って言われたし……(Fより下って俺最弱なのでは?)。
そもそも新人だから受けられる依頼も採集に限られるし……。
というか他の挑戦者たちは能力値の平均が400だし、
俺だけスキル少ないし(回復って最初からあるんじゃないの!?)、
なぜかスキル上げるためのポイント滅茶苦茶消費するし。
強いて言うならスキルにEXがついてること。まあ育てば強くなるかもだけど今は全然使えないし、魔媒素消費も激しいし。
あとユニークスキルってこれ絶対ネタだろ。「ころり」なんて何に使うんじゃい(割と切実な問題)。相手転ばせるとかかな?それなら意外と強いかもだけど……。
ずぅ〜〜〜ん
という効果音が頭の上に浮かび上がってるのが見える……。
まあいいや。
過去は振り返るもんじゃなくてあくまでも参考にするものだからな。
とりあえず自分の能力をおさらいして方向性を確認しよう。俺にもすごいところがあるかもしれない。
まず俺は他能力値と比べてスピードが異常に速い。
また、職業による加護のおかげかスピードの上昇が著しい。
(あれ?これ武士じゃなくて武士なのか)
それに、パワーもそれなりに上昇している。
おそらく職業「光之武士」の光がスキルとスピードに影響を与えていて、武士ってのがパワーとかウェポンコネクションに連動してるのだろう。
何よりも使用者固定の刀、「黎明」。
いやこれもう…………、マジで空に張ってある結界に頭から突っ込んじゃいそう。
かっこよすぎるだろっ!
つまり、俺はスピード特化の刀使いってとこか。
よーく自分のスキルを見てみると、「X生成(未定)」。
これはスキルの富籤(いわゆる年末に買うアレ)みたいなものか。
まあスキルが孵化するまで待つか。
他にも、勢いを止めることもできそうな「創糸」とか、意外と使えそうなものあるんだなあ。意外に感慨深いものだな(さっきの黄昏てたシーンいらなくね?)。
よし!まずポイントの振り分けか。
といってもそもそも初期ポイントが少なすぎて何も上げられん。
仕方ないから速度に全振りするか。
・
・
・
「え?」
ちょっと待て。
流石にこれはチートでは?
何かと言いますと、
今のスピードは下のようになっていて、
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*瞬間最高加速 スピード: 663(+1000)
↑1up 10pt
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なんと何回upしても使うポイント数は変わらないのだ!
実は(というほどでもないが)強い怪異を倒せばポイントがかなりもらえる。
なので、遥か上の階を主軸としている挑戦者にとってこれはかなり破格なのだ(俺は貯めとけないけど)。
結局大前提の俺がGランクだという問題は解決されてないけどな…。
仕方がない。Fランク採集依頼の「ロベリア輝石」でもやるか。
……ロベリア輝石とは黒光を当てると熱を出す不思議な石のことである。
「さて、準備もできたことだし、早速雲穿塔入るか」
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side:????
「やめっ………………………………」
私は第六浮遊島ヘルニカ出身の挑戦者である。
私のランクはB。
この通り元々の強さがそれなりだったことに加え、私は昔から努力して成り上がってきた。
もちろん挑戦者としても努力してきた。
おそらく今の私なら同じ期間に挑戦者になったA+と同じくらいの力があると信じている。
そんな私だが、今日は私自身が決めた休息日なので、久しぶりに羽を伸ばそうと思って親友がいる第五浮遊島ベイビロングに飛空車で向かった。
道中獣種のフレイムバードの上位種紅蓮鳥の希少個体、通称レッサーフェニックスに遭遇したので、良い日だと思いながら飛空車を飛ばす。
ようやく着きそうだ〜と私はため息をついた。
ついてしまった。
そのせいで手元が狂い、第五浮遊島から逸れて雲穿塔の近くの薄気味悪い場所に不時着した。
瞬間、ばきんっ、と甲高い音を立てて飛空車の右側のドアが外れる。
続けて前のエンジンが爆発する音が鳴り響き、私は慌てて左のドアから飛空車を出た。
「%&$“%〜!」
叫び声にならない叫び声をあげた私は直後に全てのものが嫌悪する音を聞く。
グチャア、ボギョロッ、ギャオロン、ブチャア
それはもはや鳴き声とは呼べないものだった。
ぐちゃ
グチャぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃ
数日後、その親友はこの挑戦者の探索依頼を出したという。
見つかったのは壊れた飛空車、壊れた彼女の愛用の靴べら、壊れた彼女の一本の骨とこびりついた肉……。
穏やかな海は今日も波風すら立たず……。
そこに一瞬だけ赤が差したことを誰も知らない。
まさに穏やかな海……。
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