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二十六:境来たり


 あと5ヒンで第二浮遊島ピーセッドに着くというところで俺はふと思い出した。

「なぁ」

「ん?」

「これ見えるかー?」

 そう言って片方しかない翼をパタパタと動かすも、サユノマサの目の焦点はそこには合わされてない。

「ふむ。何かあるのか?私には何も見えないが」

「……ああ、いや、いいんだ」

「……まあいいだろう」



 さて、ちょっとした検証も終わらせたことだし、行くか。

「そういえばサユノマサってなんで肌が透けてるのに物掴めるの?」



「ああ、私自身は肉体も魂もあるんだがな、その魂の作用する力が強くて肉体が魂と同化しかけているんだ。だから少し透けている。別に日常生活で困ることはないが」

「ふーん」



 なかなかにエグいな。

 というか、もしかして

「使えないスキルあったって言ってたけど、もしかして使えなくなったのはランダムな一部なだけで絶対的な制限を受けていたわけじゃないってことか」

「そうだが。ああ、私自身は三次元上のどんな攻撃も効かないからな、別にスキルがなくても技で倒せる」



「いやなんで雲穿塔にいたのかなぁ。まあいいや」

 サユノマサと対峙した時を思い出す。

 よくよく考えてみればサユノマサがものすごく弱体化したやつと死闘してたのか……。



 まあそれはさておき。

 ゆっくりと飛空車を減速させ、レバーの上にあるボタンを押してオート停車状態にする。



 ブワッと音を立てて反動で車を停車させると、ゆっくりと浮遊の効果が切れてタイヤが地に着く。



「はぁ〜いい匂いがもう漂ってくるぜ。もう12コクだから早く行こうぜ。13コクに昼食を食べる予定だ。その後にもいろいろ行きたい場所がある」

 そう言ってエスコートする。

 どこかの浮遊島の格言にレディファーストっていう言葉があって、女性は優先されるべき場所で譲ってもらえると嬉しくなるっていう意味らしいからな。しっかりと扱ってやらないと。



 飛空者を降りた街の名前はデントス。

 デントスというのは元々は食べ物の名称で、この街の料理の名称だ。

 つまり自他ともに認めるデントス専門街なのだ。



 デントスが何かって言われたら説明するのが少し難しいなぁ。

 マサ鳥っていう鳥の全てを使って作った料理のことを全てデントスって言うんだよな。

 それじゃあ味が一辺倒になるって思った人もいるんじゃないか?

 だが、そんなことはない!

 これは歴史のある料理だから、味の改良も数知れないほど行われているのだっ!

 別の食材も入れているんだがな、その食材をこの中に入れるようになった経緯がすごくて……だから……となって……より、……になって、さらに………………。



「おーい、行くんじゃないのか主よ」

「はっ、つい熱く語ってしまった。ふっ、だがその程度では俺のデントスへの愛を止めることはできないぞ。だがしょうがない、最後に言っておく。これを使ったサムレーうどんはガチで美味しいからな」




「そもそも、なんで主はそんなにこの街のことを知っているんだ?」

「実は結構最近ここに来たことがあってな、偶然デントスを食べたわけよ。そのとき俺は気付いた。俺はデントスを守るためにこの世に生まれてきたんだって……!」

「熱量がすごすぎて近づけない……」



「さて、少しこの街歩いてみるか。どこにどんな店があるか説明するから迷子にならないようにな」

「私は迷子になんかならないぞ。空間を読めばわかる。味とかはわからないから説明してほしいけど」



「へー「電光石火(黒)」みたいなスキルがあるの」

「ふむ、私から見たらちが……いや、でも実質似たようなものか。「風の便り」っていうスキルがあるのは知ってるだろ?それを使えば大体わかる。味とか見た目とかを調べるのは勿体無いから範囲に入れてない。美味しいものは正義だからな」



「お前も意外と食い意地張ってるんだな」

「こら、そんなこと言わない」

「あてっ」



 くそぅ、口が滑った。余計なことは言わないのが約束だったな。

 心にメモメモっと。



 色々誤魔化したけど、やっぱり痛い……。

 EXランクってどうなってるの?もう人外としか表現できないよな。



 しばらく歩いて、サユノマサにそれぞれの店の作るデントスの特徴から来るお客さんの種類や店主の性格、黒歴史までいろいろなことを話すうちに、鐘の音が鳴った。



 どごぉぉおん どごぉぉおん どごぉ …… ぉおん どごぉぉおん どごぉぉおん



 数えてみると、13回だ。

「お、ようやく13コクになったか。ではでは……デントスを使ったサムレーうどん専門店「とマリぎ」に行こうか」

「ふむ、確かに店の雰囲気はそこが1番良さそうだったな。そこにするか」

「ありがとよ」



 からんからん



 扉を開けると、優しい音が響く。

 同時にサムレーうどんの熱気とすごくいい匂いが漂ってくる。

「いらっしゃいませ〜」

 声がした方に顔を向けると、

「お久しぶりですね、フール=リッシュエスタさん」

「フーリでいいって言ってんのに」

「ははは、流石に店員はお客さんのことを略して呼べませんよ。それよりすみません、今日は一段と忙しいみたいなので、先に失礼しますね」

「おう、頑張ってきな」

「今日は随分と別嬪なお連れがいらっしゃるみたいですね。ではあちらの2人がけの席をどうぞ。それでは〜」

「ありがとな」

優顔で人当たりの良さそうな店員が立っていた。



「主よ、あの人は誰、むぐっ……んん、んん!」

「こーら、外で主って言わないこと、俺の世間体が崩れてしまう……」

「んん……ぷはっ、だからと言っていきなり口を塞ぐのはどうかと思うぞ……」

「別にお前は息できるだろ」

「バレたか」



「前回ここに来たときはここ人がいなくてよ、暇だったから店員と話してたんだ。ここには結構来てるからさ、いつの間にか顔馴染みになったんだよね。それよりこの盛況っぷり……行列はできてないけど団体席が俺たち含めてもう空いてないってすごいな」

「ふむ」



 メニューを開いてみる。

 ここは今時珍しい藁半紙を使ったメニュー表を使っているんだ。

 というか紙を使うという文化自体が今更珍しい中、この店は100年間ずっと藁半紙一点張りだ。



 メニューを選びつつ口を開く。

「そういえば今年は100周年だったな。記念メニューがある……そういえば今日が創立記念だったのか。……このサムレーうどんを頼むと好きなサムレーうどんを6杯相当まで無料だと!?」

「相当なサムレーうどん好きだな……では私もそれにしようか」

「わかった」



 待つこと数ヒン。

「はい、どうぞ〜」



 サムレーうどんの上に載っていたのは、少し歪な形をした、そしてそれがさらなる禍々しさを伝える黒いドラゴンだった。



「はい!最近よく放送されてる「蠟が一滴垂れる瞬間」の主人公アタウ・メントです!ちなみに元のモデルはシンスドラゴンって言われてるけど、本当のモデルは始祖のドラゴンらしいよ。実は友達が作者でね、聞いてきたんだ」

「ほへぇ、「蝋てき」は俺も去年からよく観てるぜ」

「おっ、良さがわかるかぁ」



 雑談を少し交わした後、早速()()()()()()()()()()()アタウ・メントを崩し、サムレーうどんと絡める。

 もちろんこの傑作をデジ窓で撮っておくことは忘れない。



「世界の概念を生み出してくれた概念神ディネクショネムに感謝し、そしてエネルギーと物質に感謝し、いただきます!」

「いただきます」



 うどんを食べることに際して、マナーを守ることは言わずもがなのことだが、なんとマナーを知らない人が大勢いることを今気づいた。

 本を読みながら食う者、音を立てながら食う者、麺を途中で噛みちぎって食べる者、長い髪の毛を結わない者……。

「けしからんなぁ……」

「主よ……その顔をやめてくれないか。かなり怖いぞ」

「ふっ、お前も知らなかっただろ。髪を結えって言ったとき、なんでって思っただろ。だがな、うどんのマナーは守るべきだぞ。うどんが美味しくなくなる」

「はいはい」

「よろしい」



 眷属に引かれたことをなんとか誤魔化しつつ、長い麺を啜る。

 ふわっとした隠し味のおかげで引き立てられた濃厚なサムレーの味が口に広がると同時に弾力を持った白い面を啜る。

 これぞ至福!



 サムレーうどんに使われているサムレーは、スパイシーでちょっとピリッと舌に響くその味わいが、子供にも大人にも大人気である。

 それをうどん専用に改良したのがこの店「とマリぎ」。

 さらにこのサムレーうどんはデントスだ。つまり、サムレーの肉や汁にはマサ鳥の美味しさが余す所なく使われている。



 だが、サムレーとマサ鳥の相性はいたく悪い。

 何が悪いのかって、スパイスを入れた途端マサ鳥は匂いを発生させるのだ。

 これは生物にとって嫌悪を及ぼす匂いで、とても大衆うけするような代物ではなかったのだ。



 だが!

 そんなことがあっても、ここの初代店長はサムレーとうどんがとても好きだったため、サムレーうどんかつデントスを完成させるまで死にきれない!とまで叫んだという。

 その瞬間、彼女は閃いた。

 サムレーを作る途中で肉を入れる工程があるのだが、その肉をあらかじめスパイスなしのサムレーにつけておき、サムレーをゆっくり染み込ませた後で今度はスパイス入りのサムレーに入れたらどうかと。



 結果は大成功。

 匂いは消え、味は濃厚さを増し、さらにうどんと絡めることによって最高の料理が生まれたのだ!



「……」

「はい。ちゃんとご飯食べます」



 サムレーうどんは意外と量が多かったため、食べ切るのに時間がかかってしまった。

 もうすぐ14コクだ。夕食もここでいただく予定なので、サユノマサと相談した結果、しばらくぶらぶらすることにした。



 夕飯も食べ終わると、飛空車で家へ帰り、そのまま就寝準備。

 サユノマサには感謝の意を伝えたが、顔に赤みが差していたのはなぜだろう。

 ついでにまたピーセッドに行く約束も取り付けたし、今日はサムレーうどんの布教ができたのでよしとしよう!



 次はレンジュアか。

 あいつを外に連れて行くための口実を考えないとな……。

 うぅむ、難しい……。



 眠くなってきた。また明日考えよう…………。



⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥∇⊥



 ことが起きるまでこの日を含めてあと3日。

 ()()()()()()()()()()()()

 永久に咲き誇る桃の花がただ寂しく揺れている。

 少女は永遠に過酷を強いられる。



 誰も何も気づかない。



 宇宙が新たにウまれたのはちょうど3日後。

 全土参確トライアングル戦争が起きたのもちょうど3日後。

 もうすぐ今と過去の境が訪れる。


サムレーうどん……サマーレうどん……ハレーうどん……カレーうどん

カレーうどん食べたくなってきた。

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