二十三:桃の花
「どうも。ここのギルドマスターを務めさせてもらっているギードという者だ。今日は疲れているところをわざわざ来てもらって申し訳ない。貴殿がフール=リッシュエスタだな?」
「あっ、はい……」
「では、いきなりで申し訳ないが本題に入ろうか。貴殿が雲穿塔を踏破した……その証拠を見せて欲しい」
「えっと……?」
「ふむ、その様子では知らなかったみたいだな。簡単に説明すると、雲穿塔を踏破すると何かしら必ず出落品が手に入る。それを見せて欲しい」
「あの、出落品って出る確率は50%ですよね」
「ん?ああ、そうだ。そもそも出落品が出る確率は必ず50%だ。貴殿も雲穿塔を攻略してて出落品が落ちなかったこともあっただろう?ただ、なぜか最上階は必ず出落品が出るんだ。では早速その出落品を見せてもらおうか」
「……」
「どうした」
「あの……飲みました」
「……詳細を」
「変な盃に入った液体を飲み干しました」
ギードは額に手を当ててぶつぶつ呟きはじめた。
「大丈夫ですか?」
「……まあいい。とりあえずその変な盃とやらを見せてもらおうか」
すっ
俺は盃を差し出した。
別になくなって困るものではない。
簡単に盃がどんな姿形をしているかを説明しよう。
これは金色の塗装が塗られていたと思われるが、その塗装がほぼ剥がれかけている。塗装の後ろは黒が混じった暗い青。
ひっくり返してみると、底に模様が描かれている
その模様は少し独特で、さまざまな線が複雑に絡み合っていて、遠目に見れば羽を広げた天使に見えないこともない。
何より、その模様は薄く蜜蝋で固められているため、その模様だけやけにはっきりと見える。
「ふむ」
ギルドマスターは一通り観察し終えたようだ。
「何かわかりましたか?」
特に意図はない。
ただつまらなかったため、俺は質問をした。
「おい」
そして思わぬ返答が返ってきた。
「おい!」
「うわっ、すみません」
まじでびっくりした。
さあ、実はさっき「鑑定」した時、変な結果が「鑑定」されたわけだが、そもそもあの「鑑定」結果はあり得ないことを知っている。
そもそも「鑑定」結果はそこまで人間臭くはない。
ただ「鑑定」した結果を示すだけである。
つまり、あれは偽装である。
「どうしたんですか」
「どうしたも何も……こんな」
「こんな?」
「こんなものが出落品な訳がないだろ……お前はふざけているのか……?」
わずかに感情を孕んだ口調で咎められる
一瞬何が起きたのかわからずに
「え?実際にそれが出てきたわけですし……」
と応え返す。
「そうか……お前は嘘をついてないようだ……そうかそうか……」
不審な雰囲気を放ちながらギードは話し出す
「それはな…………魂の塊だ」
彼は説明する。
「魂は血液に宿り、血液は体に宿る。体には弱点と急所があり、弱点に衝撃があると体はライフを削られ、急所が断たれると体が機能を失う。なので、ライフを削ったことにより流れ出す血液には微量な魂が含まれる」
ここで1回言葉が切られる。何かを堪えているように。
再び話し出す。
「そしてこれは魂の塊だ。それだけではない。魂が丸ごと入っている。どういうことかわかるか」
「……っ、もしかして」
「そうだ、これは、身体中から血を搾り取り、魂を濾し、固めたものだ。それも魂の色を見れば、黒が混じった青で、怯えだ。極限の状態まで怯えさせた色だ」
ギードの声が震え、雰囲気が変わる。
「この魂の記憶を辿ってみた」
唐突に彼は話し出す。声に震えを含ませながら。
「これは女性の魂だ。この女性の魂は最期の瞬間に印象付けられ、最早生前の記憶は残ってはいない。この女性の最期を話そう。まず体の皮膚を剥がされ、鉄の靴を履かされ、紙の服を体に貼り付けられた。その後、回復させて紙を皮膚がわりにさせる。その状態で3日間体の体温をさげられたまま、その間耳、手足の指を削がれる。その直後に鉄の靴を熱し、かつ鉄の靴を肉ごと潰す。そして皮膚に密着した紙を一気に剥がしつつ露出した肉を焼かないように表面のすぐ上をじっくりと火で炙る。火で炙っている間は息を止めてしばらくして息を吸わせ、再び息を止める、ということを繰り返す。火で炙りつつも血をゆっくりと搾り取られ……この女性は亡くなった」
……なんか興奮して無いか?まあいいか。
だが、覚悟はしていたがまさかここまでとは……。
俺は少し気持ちが悪くなった。
「まあいい。貴殿が雲穿塔を攻略したことに対する報酬を後日渡す。次は今日から4ヶ月後に来てもらうといい。その際に報酬を渡そう」
「わかりました」
そう応え、そのまま扉を開けて廊下に出る。
「あのギルドマスター、4ヶ月の間に何が起きるのか知っているというわけか」
まあいい。
とりあえず帰って寝たい。
ああ、いや、まずはステータス確認だな。
なんか全振りすると後で痛い目にあうっていうサイトをマイクロシーで見つけたんだが、いいや。スピードに全振りしよう。
久しぶりの外の空気はやっぱりうまいなぁ、と少々生意気な口を利きつつ、新品の飛空車に乗り込む。
家に着く頃には日が変わる30ヒン前になっているだろう。そしたら能力を確認しよう。
そう決めて俺は飛空車の発車のレバーを引いた。
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side:セヴン・デッドリー・シンス
「ふぁああ……」
「おはようさん」
「……」
あれ?今度は僕を見て悲鳴をあげたりしてない。
えらい子だ。うんうん。
さて、まず何から話そうか。
あ、そうだ。
「そういえば、名前まだ聞いてなかったね。教えてもらえる?」
「……エアリ」
「エアリ、といえば神話に出てくる虚空を司る神の名前だね。いい名前じゃないか」
そう言ってニヤリと笑う。
「あの……」
「ん?どうした」
「……なまえ」
「あぁ、僕の名前もまだ言ってなかったね。僕はセヴン・デッドリー・シンス、これでもドラゴンなんだぜ」
「ドラゴン……」
彼女、エアリはしばらく考え込むようにし、
「あの、ドラゴンじゃなくてりゅう……?」
ほう、想像以上だ。
「ほお、よくわかったじゃないか。そうだ、僕は竜だ。と言っても別に伝説のあの竜じゃなくて」
「もしかして……罪竜」
「おっと残念。罪竜じゃなくて大罪竜なんだけどね」
「なんでつのをかくせるの……」
「「人化」を練習すればツノなんて簡単に隠せるようになるよ。そこまでがちょっと大変だけど」
「じゃあ……あなたはドレイヤーじゃない……」
「ドレイヤー?」
ふむふむ、
「かなり昔にドレイヤーという能力が高い個体が生まれやすい獣種達がジウノ帝国が出来たばかりの時に当時の魔王を殺そうとした、魔王は一命を取り留めたが、そのことによってドレイヤーの多くが捕えられ、だが、その高い種族値によって奴隷として取引されるようになった、だいたいこんなもんか。」
「そう。もうわたしたちにすむところはない」
そう言ってエアリは一粒の雫を頬から垂らす。
「おかあさんも、おとうさんも、がんばってたのに……!なんでわたしたちはいきることもしぬこともできないの っ……!」
「なぜ立ち向かわない?」
「よわいから……ちからがないから……」
「なら、力があれば良いのだろう?」
ハッとしたようにエアリは目を見張る。
そうだ、その目が見たかった。
君は、強いんだよ。
「僕についてこい、強くしてやる」
「……」
わずかな沈黙。
だが、答えは聞くまでも無いだろう。
「返事は?」
「はいっ!ししょう!」
うーん。なんかむず痒いなぁ。
「師匠……?まあいいか。じゃあ早速行こうか」
「ししょう、どこにくの……」
僕は口角を釣り上げて凶暴な笑みを浮かべる。
「魔王を殺しにいくのさ。僕達を殺そうとした罰だ。相応の罰を与えてやろう」
びっくりしたように目を見開いている。
「ほんとうに……?」
「ああ本当だ。魔王を殺して、新しい魔王になってやろう。そのためには君の力が必要だ。もう一度言う。僕についてこい」
「はいっ!」
彼女エアリは、これまでの人生の中で最も活き活きとした表情をしていた。
この出会いは、誰も知り得ない、想定していない奇跡的な出会い。
それがどちらに転ぶかは、それこそ誰も知り得ないことである。
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マグヌムが揺れている。
誰も気づかない。
マグヌムが波を立てる。
誰も気づかない。
マグヌムがどんどん大きくなってゆく。
誰も気づかない。
マグヌムがどんな状態になろうとも、
誰も気づかない。
助けを呼ぶ少女の声にも、
誰も気づかない。
桃の花は……散りかけている。
もうすぐ何かが起きる。
マイクロシーとはmicro sea、が語源の造語です。要するにインターネットのサガクムシン版。
あと、セヴン・デッドリー・シンスくんは獣種へ至ったことにより大罪竜へと進化しました。




