二十二:花曇り晴れ紅が舞う
ふと俺は目を覚ました。
意識が朦朧として、視点が定まらない。
おかしい。
何かがおかしい。
なぜ俺は生きている?
俺は蝋天使が持つ、あの魂まで燃やし尽くす「硬蝋」という剣によって体を傷つけられたはずだ。
あの剣の効果は、「鑑定」が言うには触れた瞬間そのものの魂を燃やし尽くすというもの。
何が起こっている?
思考を働かせようとするが、おそらくは血液が抜け出したせいで「挑戦権」が発動しているにも関わらず、手足が鉛のように重い。
その時、俺の頭の中に文章が浮かび上がった。
一定条件に達したことにより「血前刀」に関する新たな情報を解禁。
「血前刀」は相手の体液に触れることによって能力 を1つ奪う。
と同時に、頭の中に声が響く
マジか……。
絶句して声も出ない。
まさか「血前刀」がこれほど強いものだったとは……。
おそらく“権能「パラフィン」”を奪ったおかげで助かったのだろう。
床に手をついて立ちあがろうとする。
そこで、ようやく俺は違和感に気づいた。
体に一つも傷がついていない上、さらに今ならスキルを使える。
そして周りを見渡すことによってさらに大きな違和感、いや、異常に気づいた。気づいてしまった。
「……ここはどこだ?」
意識がはっきりしてきたと同時に今自分がどこに寝ていたかに気づく。
それは…………雲穿塔の瓦礫の上だった。
そう。雲穿塔の瓦礫だ。
「は?」
見上げると空は一面黒い雲で覆われいた。
だが、そこから一筋の黄色い光が差し込んでいる。
黒い雲に開いた穴から見えるのは眩いとしか喩えようがない太陽だった。
そしてそこに向かって伸びてゆく、ゆらゆらとした一筋の紅い線を見つける。
それは、俺が倒れていた場所のすぐそばに置いてあった盃から昇ってゆく蒸気だった。
その奥に目をやると、白く、激しく燃え上がっている液体があたり一面に飛び散っていた。
それは現在進行形でゆっくりと消滅していく。
俺はようやく、俺が切られた後に何が起こったかに気づいた。
そう、彼の思惑通りに爆発したのだ。
「爆発が起きたかすらわからないけど、爆発に治癒の効果でもあったのかな?まあ俺が考えてわかるようなことじゃないか」
問題は、とりあえずここがサガクムシンのある空間ではないということだ。
普通ならボタンを押すことによって強制的に雲穿塔の門まで転送される……が、ここにあるのは破壊された雲穿塔で、ボタンは見当たらない。
「やることないからあの盃でも「鑑定」してみるか」
ちなみにこの瓦礫の「鑑定」結果は、雲穿塔の瓦礫、というのもだった。
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名称:なし
種類:盃
詳細・・・・・・鑑定する価値もないことは一目瞭然である。これを見て価値があると思った者がいるとしたら、愚か者としか言いようがないだろう。
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「……」
無言で中の液体を覗く。
一瞬投げ飛ばそうとして右手が疼いたのは内緒。
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名称:蝋天使の血液
種類:液体
詳細・・・・・・天使を倒すことによって超極稀に出る出落品。これを体内に取り込むことによってその天使の“権能“を手に入れることができる。
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「これは過ぎるのでは……?」
まあ、攻略完了の祝いとしては妥当……いや、流石にこれほどすごいものはもらえないぜ……。
もらうけど。
「だとしても血を飲むって忌避感あるよなぁ……えいっ、ままよ!」
そのまま蝋天使の血液を飲み干す。
飲み干すと、不思議と蝋燭が燃えた後の煙の匂いが鼻をよぎった。だが、それは決して不快な匂いではなかった。
『一定条件に達したことにより“権能「パラフィン」”を取得しました』
さて、色々いじくりまわしたわけだが、結局サガクムシンに戻る方法はわからずじまい、と。
「あ、そうだ。スキル使えるようになったから、あいつら召喚して意見聞こうか」
「図鑑」発動。とりあえず全員召喚。
「主!大丈夫だったか!?」
「キュきゅ(ご主人様)!!」
「主人よ、体は大丈夫か?」
「いきなり召喚解除されて我輩びっくりしたぞ」
「おうおう。お前ら、俺は大丈夫だぞ。なんかすまんな。まああれを避けるためにはしょうがなかったんだ」
「ふむ、私の予想だと主はあの後「図鑑」が発動しなくなったのだな?」
「おお、よくわかるなお前。そうだ、あのあとほぼ全てのスキルが発動しなくなってな」
「それよりも主人よ聞きたいことがあるんだが」
「どうした?」
「「「ここはどこだ?」」」
「キュイ(ここどこ)?」
まあその疑問も最もだろう。
さて、俺が解説してみせよう。
「ここはな……雲穿塔だ。簡単に言えば俺たちがさっきいた場所だ」
「主が勝ったのは当たり前だが、あの後どうなったのだ?というか雲穿塔ってそんな簡単に壊れるものなのか?私の攻撃でもあれは壊せないぞ。」
「話せば長くなるがな……かくかくしかじか」
「まさかあの男が破壊したとは……」
「爆発って言ったか……?我には規模が想像できないのだが」
「吾輩はそもそも話についていけないのだが……」
「キュイキュキュキュきゅい(ご主人様は今何を悩んでるの)」
「よく気付いたニゲル!実は大きな問題があってな……俺は帰れなくなったのだ!」
「「「「……」」」」
「主よ、美味しいもの食べさせてくれるって私に言っての覚えているからな」
「主人、我にさまざまな武器を見せてくれるという話はどうなったのだ」
「吾輩、そもそもさっき召喚されたばっかだから何も言われてないが、外の世界を見ては見たいとは思う」
「キュきゅウ(空間繋げれば)〜」
「どう言うこと?」
「キュッッきゅ(空間と空間を繋げる結界なら持ってるよ)」
「なるほど!俺は「電光石火(黒)」でエネルギーの座標がわかるからな。ここの位置は……ダンジョン10,0,0で、今から行きたいのはサガクムシン……0,0,200000だな。単位はキロジェンでわかるか?」
「キュゥう(バッチリだよ)!」
「いやぁ、まさかこんなことまでできるとは、ニゲルはすごいな」
ついでに頭を撫でる。
「キュ(気持ちいい)〜……」
さて、帰るか。
「看破」発動。「転移結界」発動を確認。座標設定完了。
「じゃあニゲル以外は「図鑑」で召喚解除するからね。あとでまた再召喚するから」
「「「わかった」」」
「図鑑」発動。ニゲル以外の眷属の召喚を解除。
「じゃあニゲル」
「キュ(ラジャ)!」
青い渦巻きがはりついた結界に手を伸ばすと、なんお抵抗もなく通った。
体を全て入れると、出た先にはサガクムシンの青い空と白い太陽が輝いていた。
「そういえばギルド寄ってから帰らないといけないのか」
「図鑑」発動。ニゲルの召喚も解除。
ギルドにいる人……正確には人のような何か。
あれは人ではない。
だが、不思議と忌避感はない。
常にカウンターには5人いて、その者達に材料を渡すことで換金やらなんやらができる。
ただ、何か異常があった場合にも報告しなければいけないため、今回は雲穿塔踏破を知らせなければいけない。
ちなみに雲穿塔から2アルク経っても帰ってこなければ死亡判定となる。
「次の方どうぞ」
「はい」
「今日はどのような用事でしょうか」
「雲穿塔の踏破についてお知らせしようと思って……」
「……もう1度おっしゃってもらっても……」
「雲穿塔の踏破です」
「……わかりました。説明したいことがあるので、そちらのソファーでお待ちください。スービのチャンネルは自由に変えてもらって構いません」
はぁ〜まだ家に帰れないのか。
スービは見なくていいや。
とりあえず眠気がちょっとするから、少しだけ目を瞑っていよう。
「あの〜」
「んあ?あ、はい」
うわ、眠ろうとした瞬間来たんだが。
「ギルドマスターの部屋にお招きします。こちらについてきてください」
「わかりました。何について説明されるのでしょう?」
「私からはなんとも……」
「ああ、すみません」
「いえいえ」
しばらく歩くと、目に質素ながらも風情を感じさせる木製の扉の姿が入った。
しかし注視すべきはそこではない。
その扉から漏れ出す気のようなものだけで気圧されてしまう。
「こちらです」
ギィと少し軋んだ音と同時にその扉が開く。
俺は覚悟を決めて中に入る。
その部屋には、髪が青く染まり、爪先が紫色の美丈夫が椅子に座っていた。
スービはSV、スマートヴィジョンの略。つまりはテレビの異世界版です。
また、主人公が奪ったのは“権能「パラフィン」"ではなく、ユニークスキル「蝋翼」です。




