十九:光墜つ朧月夜に
「挑戦権」発動。格上であることを確認。状況を参照した結果、能力を5倍にする。
「せっかく戦いに出るのだから今回は私から行かせてもらおう。「暴風」「颶風」「颪」「狂風」発動!「風の溜まり場」発動!」
「暴風」によって強烈な風がこの場に無数に出現する。
それを「颶風」によって敵に当たるまで加速し続ける脅威の風となる。
そして「颪」を使用することによって強制的にこちらの位置が高くなる。
さらに「狂風」を発動することで、常に成長し、全ての物を取り込み続けながら大きくなる。
ここで「風の溜まり場」。
これを発動することによって風が相手に纏わり付くようになる。溜まりに溜まった風はただの風ではなく、高濃度の魔媒素を内包している。風が無尽蔵に集まり、魔媒素を運ぶ。超高濃度の魔媒素はそれ以上圧縮できないが、魔媒素同士に空いた僅かな空間を風で運ぶことで完全に魔媒素が固まる。
さて、此度の敵は全てを吸収してくる。
すると、どんなに魔媒素の量が多くても全てが一点に溜まってしまう。
なので、体を覆う「重黒穴」の表面スレスレに風を入れ、さらにその上に魔媒素の塊を置くことで風だけが吸い込まれ、魔媒素は敵の表面を形作る。
これで敵が動こうとする途端に爆発が起こり、元の位置に戻す。
そう、別にこれであいつを倒そうってわけではない。
俺よりもよっぽどスキルの扱いが上手いサユノマサだからこそだろう。
あれはスキルではない。
俺も2度目の攻撃を受けてからわかったことだが、サユノマサは一目でわかったらしい。
なぜスキルではないと考えるに至ったか?
まず1つ目は出現した場所と威力だ。
そもそもスキルというのは少なからず魔媒素がないと発動せず、さらに、その濃度によって微量ながらも威力が左右されるものだ。なぜって、そういう研究がされたんだ。なぜ強くなるのかっていう。
まあ、それによって魔媒素の存在が確認されたわけだ。
さらに、生物の体は魔媒素を常に吸収し、かつ生成している。そしてそれを消費することでスキルが放てる。「スタミナ」だ。
ただし、俺は魔媒素を消費しない。上、無限に魔媒素を溜め込める
これは前々から知っていた。
なぜなら俺が魔媒素を消費したと感じるのが「石火」や「電光石火(黒)」でエネルギー放出など明らかに魔媒素そのものを放出した時だけだったから。
ただ、魔媒素を使用することによって様々なことが強化されてゆくので、やはりよくわからない。
そして肝心の二つ目だ。
これは異常だ。
なぜか。
敵は体の内部、表面、いや、敵そのものが魔媒素を保有していない。敵はさきほど攻撃してきたが、どちらも「看破(覚醒)」によると「魔法」らしい。さて、並列思考を駆使した結果、わかったことがある。あれはスキルではない。
以上の2つの点からあれはスキルではないとわかる。
ではあれは一体なんだろう。あれは本当に怪異なのか……?
「あ〜考えるのはやめだ。流石に並列思考増やしたら先頭に完全集中できなくなる」
完全燃焼とは体のエネルギー活性現象のこと……だが、本人はそれを集中と思い込んでいる。
「……主」
「どした……って、確かにまずいな。お前のアレがそろそろ壊れそうだ。」
「いや、それもそうなのだが…………それだけじゃない。主よ、あれは魔媒素を使用してない」
「それは知ってるけど」
「それだけならそこまで倒すのに苦労はしない。敵は完全に新しい物を使用していて、それによって発動することができる敵の能力は、おそらく「そうぞう」だ」
「「そうぞう」?「想像」でも「創造」でもなくて「そうぞう」?…………っもしかして!?」
「そうだ。あいつは…………考えたことを実現できる」
なんとも厄介な……。
「主人!危ない!」
おっと、隠蔽之魔術「遊場創生」発動!
「主人よ、我からも報告がある」
「……どうした」
「使えないスキルがある」
「…………それは本当か」
「ああ」
「ちょっと確認してみ…………確かに発動できないスキルがあるな」
ああ、理解した。雲穿塔、それは生物を強くするための建造物ではない。生物を殺すための建造物だ。
「冗談キツいぜ、神様」
『2度目の踏破者が出る確率……………………6%』
『2度目の踏破者の存在するダンジョンの異常を確認』
『ダンジョン空間識別番号1であることが確認』
『ダンジョン1と呼称します』
『ダンジョン1の回路と神の回路を繋げます』
謎の人物の顔に当たる髑髏から女性の声が響く。
「青年よ、人間種ヒトとその眷属よ、愚かなる挑戦者よ。せいぜい足掻きなさい。あなたに踏破は不可能です」
「お前喋れたのか!?いや違うな。もしかして神とやらか?というより声に聞き覚えが……まあいい。俺たちはお前たちの想像よりもずっと強いからな?」
「よろしい。それを「神への挑戦」とみなします」
『ダンジョン究極強敵の天使化を行います』
『神の意思を確認』
『蝋天使へ矯正進化が行われました』
外套を包む闇が薄れ、外套に怪しげな紋様が浮かび上がる。
どろりと溶けかけた羽の形をしたナニカが両肩から生える。
外套が崩れ、頭の上に紺色の輪が浮かび上がる。
肌に紋様が浮き上がり、炎の服で包まれる。
仮面が剥がれ落ちた。
それは絶世の美貌を持つ天使が産み出された瞬間であった。
ただ一つ事故が起きてしまった。
いや、事故ではない。本人の意思だ。
ただ、神の操り人形だったはずの彼は、その場の彼以外誰も知りえない、いや、わかるはずのない行動を取った。
彼は詩を高らかに唄いだす。
「ああ無情」
「使い捨てられるのもまた運命」
「なら、最期だから、抗ってみようじゃないか!」
「終わりを迎えるものは新たな生を世に注ぐ」
絶望した彼は、それでも一縷の望みをかけてこの詩を最後まで紡ぐ
「魔法」
『無責任かもしれないが……あとは頼んだぞ……』
頭の中に思念が流れ込んでくる。
確かに無責任な発言なのかもしれない。
だが、
「切実なんだろう?いいぜ、お前を倒せばいいだけの話だろ」
『ちが…… 』
「ん?まあいいか」
『熟練度が一定に達したことにより「思念」を取得します』
「お、ちょうどいいタイミングでいいスキルが獲得できたな」
「主、先に行かせてもらう」
「主人よ、我もいかせてほしい」
「なら吾輩はここにいよう」
「よし、いいぞ。考えがあるんだろ?『「思念」で送ればいい』」
「「「では」」」
「おう」
「キュきゅ(ご主人様)!」
「どうしたニゲル」
「キュキュウ(まずいです)……」
「ん?」
「キュルキュきゅ(ぼくのスキルが発動しなくなってます)」
「ということは、さっきのあれが神であることの確証となるか……?」
『みんな、スキルは全部発動できる?あと発動できるのだったら消費魔媒素量が少ないとか、特徴ってあるか?』
「思念」で語りかける。
「思念」はグループで「思念」を送り合うことも可能らしい。
『こちらサユノマサ。スキルの半分が発動できない。発動できるスキルに特徴はない。ただ、別に動きに特に支障はない』
「「風鎌鼬」発動!」
なるほど、確かに「颪」の効果が切れてるな。
『こちらレンジュア。こちらも同じだ。半分が発動できず、残りの半分に秩序などは見当たらぬ。動きに支障はなし』
「「黒曜の翼」発動」
あいつは「巨人特性取得」が止まってるな。これは巨人の能力を一定時間ごとに取得するスキルらしい。
『……?こちらGF46-B。吾輩は普通にスキルが使えるのだが……』
ふむ、
『GF46-B、この場に違和感とかないか?』
『むむむ…………あ』
『お!』
『なんか空気がほんのわずかに重くて。別に飛びづらいとかはないのだが』
「おそらくはそれか」
なんだ。
簡単な話だ。
空気中に無味無臭で無色透明な物質がこの空間に蔓延していて、それが魔媒素の伝達をゆっくりと阻害しているのだろう。
だが……そう仮定するとなると、なぜ使える「スキル」がある?
いや、簡単な話ではなくなってきた。魔媒素が阻害されるはずなら俺のスキルはまだ使えるはずだ。
また、サユノマサの「風鎌鼬」は発動できなくなるはずだ。
おかしい。
何をしようとしている?
神の力な俺たちくらい簡単に潰せるのではないのか?
何を企んでいる……?
待てよ、彼はなんと言っていた?
『無責任かもしれないが』……違う。これではない
っ!?
もしかして……。
『後は頼んだぞ』……おい。
もしかして、『あとは頼んだぞ』これは自分を倒してくれというメッセージではない!?
「無責任」……彼は何の「責任」を負っていたのか?
ただ、1つわかったことがある。
神は本気で俺たちを塔から地に堕とそうとしているらしい。




