十一:雪が降り
踏み込みの1歩。
これで全てが決まるとは言わない。
だが、これは後々への投資みたいなものだ。
座標の設定はめちゃくちゃ大事だからな。
なんでも「転移」持ってるやつほどスキルの操作とか戦闘技術とかが上手いらしい。
オヴリーネムスはその認識阻害能力と、自由自在に伸縮できる数多の根が厄介なだけだ。
さて、邪魔な障害物、根を排除すれば、あとは本体まで一直線だ。
どうする?
答えは、見ればわかる。
何百体もの分身を作る。
ただし、内8体の分身は質量を保持しているが、残りの何百何十体の分身は質量を持たせずに8体と同じ座標に重ねる。
まあ、これくらい朝飯前だ。
『熟練度が一定に達したことにより、「操作向上」を取得しました』
おお、ここにきて新しいスキルか。
「〇〇向上」系は最終進歩がすごいって聞いたことがあるな。
よし、熟練度上げまくるか!
8体の分身をオヴリーネムスの根の近くまで操作して届ける。
忘れ去られた森林は貪欲で、数多のものを欲する。
「物体が欲しいか。それならくれてやる!」
実体分身には座標を重ねがけした質量の無い分身が百何十体もいるため、しばらくは時間稼ぎできそうだ。
さて、ここで1歩を踏み出すのは吉か凶か。
ふふ、最初に言ったことに引っ張られてはいけない。
ここで1歩進むのは残念ながら凶だ。
ほら、あそこに隠れ潜んでる根がうじゃうじゃあるだろ?
どうするか。
もちろんこいつの貪欲さをって意的に刺激してやれば良い。
さあ、質量戦だ。
……なんか既視感があるのだが。
分身が殺されるごとに重なっている分身の1体に質量を持たせ、即座にエネルギー放出で爆破。
相手の根が吹き飛ばされた瞬間にエネルギーを回収、循環で身体に馴染ませ、再び分身を召喚。
さて、こんな泥試合、貪欲なお前が乗ってこないわけがないよな!?
ビュオンッ
1本の細く、しかし生物を殺すのには十分な太さ、硬さを持った鋭い根が槍のように飛び出してきた。
「残念、俺がさっき1歩を進まなかったのはこれを待ってたからでもあるんだよっ、と」
これにより、相手がこちらに再び同じ攻撃をしてくるまで若干のタイムラグがある。
さあ、こっちのターンだ。
「石火Ⅸ」を纏い「念動Ⅳ」で浮かび上がらせた「黎明」を
シュンッ
投げつけるっ!
それは初速が亜光速、つまり光の速さの10%と同じ上、念動によってどんどん加速する。
別に俺はそれをただ見ているわけではない。
投げつけた瞬間に「黎明」に飛び上がり、そのまま刀身に乗る。
もう目の前にはオブリーネムスとドラゴンがいる。
そう、ドラゴンだ。
ドラゴンとは、一般的に獣種に分類され、この種は基本的に圧倒的な能力を保有する。
過去にあったトライアングル戦争の魔王もドラゴンだったという。
ただし、ドラゴンはドラゴンでも難陀という竜で、領内では竜王と呼ばれていたという。
そんなドラゴンだが、ここにいるはずがない。
ここは怪異しかいないからな。
では、これは一体何なんなのか。
そう、この怪異のスキルであると考えられる。
「ドラゴン召喚なんて気前がいいじゃないか!」
それも1体だけではない。毎ミョウ10体召喚され続けている。
そのドラゴンは緑色の体を持ち、背中からは木が生え、腹からは根が生え、目と口からは枝が生えている。
これこそが、オブリーネムスのスキル、「寄生化ドラゴン」だ。
だが、俺の「黎明」が障害物を全て取り除く。
ここでの最善手は、1歩踏み出すこと。
さあ、障害物まで残り9ジェン、8ジェン、……、3ジェン、2ジェン、1ジェン
どごおおおおおおおぉぉぉぉぉん
その爆風が押し寄せる前に、「石火Ⅸ」を右足に纏う。
「終わりだ」
押し寄せてくるドラゴンを横で見つつ、先の分身を全て実体化させる。
後ろから吹く爆風に押されつつ、眼前にはオブリーネムス。
「光礫」発動。
身体能力によって威力が左右されるこれは、この部屋を埋め尽くし、倒すべくものに向かう。
だが、これはあくまで目眩し。
吹っ飛んだ「黎明」を手元に召喚しつつ、最後の一撃を決めるべく「石火Ⅸ」を全身に纏う。
「この勝負も俺の勝ちだ」
「目眩し斬り」発動。
これは目眩しとあるが、切る速さが徹底的に上昇することによって生み出された光エネルギーを相手の神経に直接作用させるようにしたもの。
世界の音が止まる。
俺が着地した時の音によって、世界が戻る。
そこには地面に吸い込まれてゆくオブリーネムスがいた。
「あ、「挑戦権」使えばよかった」
「……」
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世界とは何か?
考えてみよう、世界とは物体のことではない。
例えばここサガクムシンという物体を世界としよう。
するとサガクムシンのどこからどこまでが世界と言えるのか?
そしてサガクムシンの外、宇宙は世界を構成するものの一つなのではないのか?
もしも宇宙は世界ではないとすると、生物に大きな変化をもたらしたあれは世界に含まれるのか?
決別し、完全に交友を絶ったものも世界とするならば、人と親密な関係を築いた獣もまた世界となり、全ては循環してゆくことも世界となる。
世界は概念のことでもない。
例えば言葉を話せなくても世界である。
ものを考えていなくても世界である。
全てが決まっていようとも世界である。
世界とは、全てを決められた全てのものの動き、またはエネルギーそのもののことである。
そしてその世界のエネルギーを定める者がいる。
「助けて……」
彼女の呟きは
『情報が発生しました。遮断します』
システムによって遮断される。
彼女のことを多くの人はこう呼ぶ。
ラプラスの悪魔。
または概念神。
名をディネクショネムという。
ここは世界。
破滅を目指すのを見ていることしかできない彼女。
システムとは世界を救うものか、それとも、絶望を与えるためのものか。
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さて、第九十八階層は一体どんなやつができてくるのかな?
そういえば
「サユノマサ、頂上に到達してここ出ることになったらどうする?」
「主についてゆくに決まってるだろう。何を言っているんだ?」
ん?
なんか前にもこの会話をして……ないか。
どうしたんだろう。
まずは眼前の相手を処理しないといけないからな。
「これはこれは、ここにきてようやく巨人か。楽しみにしてたぞ」
「鑑定」発動。
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名称:レンジュア
種族:怪異種エセ巨神
職業:名称保有 特異
詳細・・・・・・戦いが始まると、パワーが毎ミョウ999999倍になる「黒石」とライフが回復し続ける「白石」の二つのパッシブスキルが発動。名称保有のため、似非巨人を無限に召喚し、自分の体と融合し続ける「連」、相手の動きを制限する「禁手」の2つのユニークスキルを取得している。また、特異なので身体能力2倍。
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「いや、これどう考えても俺の「挑戦権」対策だよなぁ」
「似非巨人を無限に召喚し、」までなら「挑戦権」使えばいいけど「自分の体と融合し続ける」ってなんだよ!?
これは流石に反則だろ。
俺が言えないけど。
まあ、ようやく俺のユニークスキルのお披露目の時間かな。
俺のユニークスキル「虎狼痢」はころりと読む。
なぜ今まで使わなかったかというと、使い方がわからなかったのだ。
さらに、「鑑定」を取得して内容を確認したときも名称以外何も確認できなかった。
だが、その後、俺が隠蔽之魔術「遊場開始」と「空間生成」を合成させた「遊場創生」が使えるようになってから、ついにその使い方だけが頭の中に入ってきた。
そう、このユニークスキルの詳細がわかったわけではない。
ただ、その使用するための条件というのが隠蔽之魔術「遊場創生」の発動と相手に触れていることはわかった。
それを実験するために最適じゃないか、巨人族は。
それでは、俺のスキルのさらなる向上のための
「糧となれぃ!」
「遊場創生」発動。
手の内に青いエネルギーが集まる。
それはだんだん大きくなってゆく。
そしてそれを……握りつぶす。
瞬間、自分とエセ巨神レンジュアの周りを最固の結界が囲み、結界内には魔媒素のカス、雪のようなものが降る。
そして俺はあの結界を破壊する。
結界が壊されたことにより、エセ巨神レンジュアが動き出す。
さあ、この創生された遊場を開始しようか。
「黎明」召喚。
俺は駆け出した。




