プロローグ:過去から始まる物語
この物語は、過去からすでに始まっていた。
俺はそのことにようやく気づいた。
ここまで、長かった。
そして、すまなかった。
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オギャァオギャァと元気な声を上げたのはいつだったか。
つまりはすごく昔であることを伝えたいわけだ。
俺はそんなことは覚えていない。
俺が覚えているのはここからの記憶だ。
俺は今、挑戦者育成学校を卒業する。
そんな学校聞いたことも見たことも、踏んだこともないって?
それは頭おかしいんじゃないのか。
そう、時代は遡って2000年前、光が突然この星サガクムシンに降り注いだんだ。
その頃、俺たち生物は行動を起こすための力を得る手段が少なく、簡単に環境に支配されていた。
だが、光が当たるとたちまち、大きな塔が立ち、俺たち生物はその塔を登り、中にいる奇奇怪怪な動く物体を倒すことで力を得ることができるようになった。
そしてそれは一般的に「スキル」と呼ばれている。
つまり、俺たちは「Lv」を上げ、身体能力と「スキル」を上げて、どんどん強くなることができるようになった。
しかし、個人では限度がある、と言うことで、大きな力を手に入れた生物が所属する国が頼み込み、養成機関を設置することとなった。
それが「挑戦者育成学校」だ。
今では、塔に登るものは皆「挑戦者」と呼ばれることもここに書き留めておこう。
そんな「挑戦者」だが、もちろん序列がある。
それは上から順に……と、今は卒業式だ。
そんなことを話している場合ではない。
俺は20歳だ。
つまり、卒業式が終わった時から俺は塔に本格的に登らないといけない。
おっとまだ塔の名前、教えていなかったな。
知ってると思ったんだけど……「雲穿塔」って言うんだぜ。
「雲を穿つ塔」かっこいいなァ、と思うのは俺だけだろうか。
「以上をもって、星立第63挑戦者養成学校の卒業式を、終了致します」
よく通る声で式辞を述べるは、我らが星立第63挑戦者養成学校主席、エインベルグ=へーバー。
彼女は成績、人格共によしの、天から二物を与えられた者。
さらに、ランクはこの星立第63挑戦者養成学校において初となる最高位の、EXランクの1つ下、つまり実質的にこの学校において最高の能力を持つ者……その上特殊なスキルを持っているって聞いたことがある。
まあ、俺が辿り着くにはあまりに遠い。
彼女はまあ憧れとでもしておこうか。
彼女が卒業式の終了を宣言すると、風習あるいは習慣なのか、みんな一斉に帽子を真上に投げる。
莫大な歓声と共に。
……まあ俺はそんなことをするつもりは甚だないけどな。
ところでまだ俺の名を明かしていなかったようだ。
俺の名は、ナナキヒトだ。
そう俺について特筆すべき点は無い。
俺は生まれた時から病弱で、なんとか頑張って育った暁には結局最低ランク、という踏んだり蹴ったりな運命にあっていた(具体的には覚えていない)。
だが、それなりの戦闘に関する感覚だけはあったため、いじめられつつもこの学校に残り続けることができた。
──もちろん「スキル」の実習の成績がほぼ0だから毎回評定平均は最下位だけどな。
そして、ここを卒業することで俺はようやく雲穿塔に登ることができる。
この国の行く末を決めるという崇高な仕事をされている先生方(皮肉)からは何度も罵詈雑言を浴びせられ、絶対に雲穿塔に登るなとさえ言われたが、それでも俺の意志を止めることはできない。
結局、俺に優しくしてくれたのはエインベルグ=へーバー、彼女だけだったが、それでもどこか見下している感じが否めなかったから少々突き放してしまった経験がある。
──案外俺の地位の低下はこんなもののせいかもしれないが、まあ今改めて思い返すと実は結構嬉しかったはずだ。
一応実は今でも感謝している。
いつか彼女が危機に陥っていたら(そんな自体存在しないだろうが)助けてあげられるくらいには強くなりたいと思った時期もあった。
だが、俺は今から最強を目指す。
ではここで問いを1つ。
なぜ俺は生まれてきたのか?
簡単だ。
そう、最強になるため。
そして、その力で大切な者達を守るため。
……贖罪のために……?
俺は、確かそう教えられてきた。
力は、仲間を守るため、自分を守るため。
絶対に、力で他の者を悲しませてはいけない。
それを知っている。
そして、俺は実際にそれで絶望している……よく覚えていないので、ここまでにしておこう。
本当に力が必要となるその一瞬を、必ず共に生き抜くために、俺は最強を目指す。
俺が雲穿塔を攻略さえしてしまえば、名実ともに最強になるであろう。
故に俺は雲穿塔踏破を目指す!
そのまま拳を突き上げた。
──突き上げた拳の先を見ると、得体の知れないナニカがそこにあった。
〜(中略)〜
注:この間何が起きたのかは、読者の想像にお任せします。
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あれ?
俺は……今、どこにいるんだろう。
えっと……顔を上げると、「挑戦者ギルド」と書かれた大きな看板が目につく。
どうやらギルドという建物の前で立っていたようだ。
よく覚えていないが、俺は挑戦者とやらになったらしい。
まずい、名前を覚えていない。
俺の名前……なんだったっけなぁ。
自分の胸元に目をやる。
すると、そこには名前が書いてあった。
「これってどこかの制服なのか?」
この制服と思われる服はところどころ破れ、土で黄ばんでいる。
そこには、「フール=リッシュエスタ」と書かれていた。
「じゃあ名前ありがたく頂戴いたしまぁす……」
さあ、今日から俺の名はフール=リッシュエスタだ!
あ、そうだ。
ようやく思い出した。
俺はあの塔を踏破するためにここまで来たのか。
で、塔を踏破した後に最強になる。……なぜかは知らん。
えっと、流石にいきなりは難しいから、そうだな。
貼られている、と聞いた依頼でもやるか。
では、早速ダンジョンに……いや、雲穿塔に登ろう!