表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悲病語  作者: kabankaban
ありがとう
5/5

5 - ありがとう

「この町はもう、生きていない」


 町が死ぬ、とはどういうことか?


 人がいなくなれば、町は死ぬのか?

 建物が崩れれば、町は死ぬのか?

 それとも――そこにあるはずのものが、"なかったこと"になったとき、町は死ぬのか?


 ここに、一つの町がある。


 かつては、確かに人が住んでいたはずの町。

 だが今は違う。

 人がいない。

 人の気配がない。

 それどころか、町全体が"存在しなかったかのように"静かに沈んでいる。


 この町に踏み入れた瞬間、君の心は囁くだろう。

 「ここにいてはいけない」

 そして、もう一つ。

 「ここには、"何か"がいる」


 だが、逃げることはできない。

 なぜなら、この町は――


 君を、忘れさせない。



夜の闇は、重く、深かった。


 町の入り口に立った瞬間、海翔は思った。

 ここは、生きていない。


 街灯はある。だが、その光は異様なほどに薄く、まるで"光そのものが拒絶されている"ようだった。

 建物は並んでいる。だが、どれも色が抜け落ちたように灰色で、時間が止まってしまったかのように静まり返っていた。

 風が吹いても、音はしない。

 草木さえも、呼吸を忘れたようにじっと動かない。


 そして――


 何かが見ている。


「……おかしい」


 海翔は呟いた。


「この町、"ある"のに、"ない"みたいだ」


 その言葉に、白雪八重が静かに頷いた。


「ここはね、"忘れられた町"なの」


 彼女の声は、どこか遠い響きを持っていた。

 まるで、この町の一部であるかのように。


「……忘れられた?」


「そう。かつて、ここには人が住んでいた。でも、ある日、"誰も思い出せなくなった"の」


 海翔の背筋が冷える。

 そんなことがあり得るのか?

 町が消えるのではなく、"忘れられる"?


 それはまるで、記憶を喰われたかのような現象だった。


 二人は、町の中を歩いた。


 足元には乾いた土。

 まるで何十年も雨が降っていないかのような、ひび割れた大地。


 店の看板には名前が書かれていた。

 だが、それを読もうとすると、頭の中がぼんやりとしてくる。


 記憶が削がれるような違和感。


 海翔は試しに看板に触れようとした。


 その瞬間――


 ズルリ。


「っ!」


 看板が、まるで"皮膚"のように歪んだ。

 人間の肌が裂けるような嫌な音とともに、文字がずるりと剥がれていく。


 そして、その下に現れたのは――


 何もない、ただの闇。


「……おい」


 海翔は息を呑んだ。


 店の看板は、元からそこになかったかのように、"空白"へと変わっていた。


「……これが"忘れられた"ということ」


 八重の声は、低く、沈んでいた。


「この町は、人に忘れられたものを"呑み込む"の」


 つまり、ここにある全てのものは――


 本当は、もう"存在していない"のだ。


 歩き続けるうちに、足元の感覚が曖昧になっていく。


 まるで、自分がこの世界に"馴染んでしまっている"ような錯覚。


 そんなとき――


 カツン。


 音が響いた。


 誰もいないはずの町で、"誰かの足音"がした。


「……」


 海翔は、振り返らなかった。


 振り返ったら、"そこに何かがいる"と分かってしまうから。


 それでも、足音は近づいてくる。


 そして、耳元で囁かれる。


 「おかえりなさい」


 その声に、全身の血が凍った。


「っ……!」


 八重が海翔の腕を引く。


「走って!」


 二人は、駆け出した。


 町の奥へと逃げ込む。


 だが、どこへ行っても景色は変わらない。


 同じ道、同じ建物、同じ空白。

 まるで、出口が存在しないかのように。


「……この町は、生きていない。でも"死んでもいない"」


 八重は、息を切らしながら言った。


「だから、ここにいるものは……"生きた人間"ではない」


 じゃあ、何がいるのか?


 答えは簡単だった。


 ここには"町そのもの"がいる。


 忘れられた町は、忘れた人々を迎え入れる。


 つまり――ここに入った時点で、もう外には出られない。


 海翔は拳を握りしめた。


「……そんなもんに、負けてたまるかよ」


 次の瞬間、目の前の道が"歪んだ"。


 そこには、"町の形をした化け物"が立っていた。


 ――"忘却"を喰らう怪物。

個人的な問題のため、シリーズを終了します。ありがとうございます。私はこのウェブサイトの他の作品、『無職転生 ~異世界行ったら本気だす』や『転生したらスライムだった件』の大ファンなので、すぐに異世界物語を始める予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ