地獄の鬼初めての依頼を受ける
森の入り口で大嶽丸は周囲の空気を慎重に読み取った。風の流れや音、そして地面のわずかな振動までもが、異世界の自然の息遣いを伝えてくる。足元には小さな足跡が点々と続き、角付き兎の存在を知らせていた。地獄で生き抜いてきた彼の感覚は、自然の異変を見逃さない。
「ここが俺に課された最初の試練というわけか…」
そう独り言を呟きながら、大嶽丸は静かに森の奥へ進んだ。草木の匂いが鼻をかすめ、葉の擦れる音が耳に届く。異世界の生態系に戸惑いながらも、彼の心には不思議な高揚感があった。
やがて茂みの向こうに小さな影を見つけた。それはウサギに似た生き物だったが、額には鋭い角が生えており、その瞳にはただの小動物にはない鋭い光が宿っていた。
「これが角付き兎か。」
その瞬間、兎は大嶽丸に気づき、草を踏みしめながら突進してきた。予想以上の速さではあったが、地獄で数多の苦難を乗り越えた彼にとっては遅すぎるように感じられた。
「ふん、これが異世界の獣か…!」
兎の突進を冷静に見極めると、大嶽丸は棍棒を振り上げた。その動きは洗練されており、無駄が一切ない。兎の突進を絶妙なタイミングで受け流し、すかさず力を込めて一撃を叩き込む。その音は骨が砕ける鈍い響きとなり、兎は即座に動きを止めた。
倒れた兎を見下ろしながら、大嶽丸は静かに息を整えた。
「地獄に比べれば、随分と可愛らしい戦いだ。」
その場を見回すと、近くの茂みからさらにもう一匹の角付き兎が飛び出してきた。だが彼は驚くことなく、冷静に対応する。二匹目もまた同じように突進してきたが、同じ結果が待っていた。棍棒で一撃を叩き込まれ、地面に崩れ落ちた。
「これで二匹か。依頼の条件は満たしたな。」
彼は倒した兎の角を確認し、討伐の証拠を手にすると、ギルドへの帰路についた。
森を抜けて砦へ戻った大嶽丸は、その足で冒険者ギルドに向かった。ギルドのホールでは、依頼を終えた冒険者たちが報酬を受け取ったり、仲間と話し込んだりしている。彼もカウンターへと歩み寄り、角付き兎の角を手渡した。
ギルド嬢がそれを受け取ると、驚いた表情を浮かべた。
「すごいですね!初めての依頼で、こんなにスムーズに終わらせるなんて…!」
彼女は感心した様子で笑顔を見せると、手際よく報酬を準備した。金貨数枚と、依頼達成の証であるポイントを渡しながら言葉を続けた。
「こちらが報酬です。討伐の腕前を見れば、すぐにランクを上げられると思いますよ。」
報酬を手にした大嶽丸は金貨をじっと見つめた。それは地獄では縁のなかった、異世界での価値そのものだった。
「これがこの世界で生き抜くための力…か。」
彼はポーチに金貨をしまいながら、異世界での新たな生き方を少しずつ理解し始めていた。
報酬を受け取った後、大嶽丸はギルドの掲示板に目を向けた。そこには無数の依頼が貼り出されており、それぞれに報酬や難易度が記されていた。掲示板の前では、他の冒険者たちが次の依頼を吟味している。彼らの中には、角付き兎討伐とは比べ物にならないほど危険な依頼を受ける者もいるようだった。
「これが冒険者というものか。」
彼は初めて異世界の生業の本質に触れたような気がした。
その時、背後からギルド嬢が声をかけてきた。
「もし次の依頼をお考えなら、少し難しいものも挑戦してみてはいかがですか?例えば近くの洞窟にいるコウモリ型の魔物や、草原に出没する狼型の魔物などがあります。」
大嶽丸はしばらく考えた後、次の依頼を受ける決意を固めた。
「いいですね。次は少し骨のある相手を試してみたいと思います。教えてくださりありがとうございます。」と笑顔で、言葉を残し、大嶽丸は再び冒険の準備を始めた。