序章:地獄の鬼、新たなる旅立ちへ
これまで読み専でしたが、いくつか自分て考えていた物を、投稿してみました。更新は遅めです。至らない点は多いと思いますがよろしくお願い申し上げます。
地獄の業火は今日も激しく燃え盛り、その赤い炎が罪人たちの叫びを飲み込むかのように揺れていた。その中に、一人の鬼が佇んでいた。大嶽丸――かつて平安の世を恐怖に陥れた、名高き鬼である。
彼の背丈は他の鬼たちよりも頭一つ分高く、鋭い眼光と堂々たる風格が周囲の者たちを黙らせていた。地獄という枠に囚われた彼だが、自らの運命を嘆くことはなく、日々冷徹に罪人たちを裁き、地獄の秩序を維持していた。
ある日、彼の元に一匹の小鬼が慌てた様子で駆け寄ってきた。
「大嶽丸様、大変です!地獄の奥底に、奇妙な穴が現れました!」
その言葉に一瞬、彼の眉が動いた。地獄に長く住まう大嶽丸ですら、聞いたことのない異変だった。
「穴だと?」
「はい、誰もその奥を見たことがないほど深いのです。それに…不気味な気配が漂っています。」
その言葉を聞き、大嶽丸は立ち上がった。「案内しろ。」
小鬼の案内で地獄の奥底へ向かうと、そこには確かに、見たこともない巨大な穴が地面に開いていた。周囲は薄暗く、穴から漂う冷気が空間を歪ませているようだった。地獄の住人たちですら、近寄ることを恐れて距離を取っている。
「こんなものが放置されていては、秩序が乱れる。」
大嶽丸はそう呟きながら、慎重に穴の縁へ歩み寄った。その時、不意に彼の足元の地面が崩れ、彼は重力に引き寄せられるように穴の中へ落ちていった。
暗闇が全身を包み、風が耳元を切り裂く。得体の知れない音が周囲に響く中、大嶽丸は冷静だった。落下する間にも、異様な気配を感じ取っていた。「この穴はただの空間ではない…何かがある。」彼の考えは深まるばかりだった。
どれだけ落下しただろうか。やがて視界に光が差し込んできた。「出口か…?」と思った瞬間、大嶽丸は暗闇から抜け出した。だが、そこには地獄とはまったく異なる光景が広がっていた。
空には三つの太陽が輝き、その光が不気味なほど緑深い大地を照らしている。見たこともない奇妙な植物が繁茂し、風が大嶽丸の髪を揺らす。空を見上げると、巨大な翼を持つトカゲのような生物が悠々と飛び回っていた。地獄の暗さや炎の気配はどこにもない。
「ここは…地獄ではない。」
彼はその異様な光景の中に、鬼の姿のままで立ち尽くした。
ふと耳を澄ますと、森の奥から人の話し声のようなものが聞こえてきた。「この世界に住む者たちか…」
話を聞いて状況を把握するべく、彼は森の奥へと足を踏み入れた。歩みを進めるたび、周囲の草木がざわめき、奇妙な香りが漂ってくる。
「この地には、どのような秩序がある?」そう呟きながら、彼は森の中を慎重に進むのであった。
こうして、大嶽丸の異世界での冒険が始まったのだった――。彼は地獄の秩序を保つ鬼としてではなく、一人の異世界の旅人として、この奇妙な世界の真実を追い求めることとなる。