第166話 いない?
俺達3人は俺とトウコの部屋にやってくると、扉を開き、中に入る。
しかし、部屋には誰もおらず、ベッドの掛け布団が綺麗に畳まれたままだった。
「いないね」
エリク君はそう言うと、トイレや風呂を確認する。
「あいつ、どこに行ったんだろ?」
「ツカサ、お婆様とお爺様の寝室に行ってくれないか? 僕は父さんと母さんの部屋に行く。姉さんはリディの部屋をお願い」
「わかった」
「うん」
俺達はエリク君の指示のもと、この場で別れる。
そして、俺は爺ちゃんと婆ちゃんの寝室に向かった。
「爺ちゃーん、婆ちゃーん」
寝室の前に来ると、ノックをしながら声をかける。
『開いてるよ』
すぐに声が返ってきたので扉を開き、中に入る。
爺ちゃんと婆ちゃんはベッドで上半身を起こし、枕を背に本を読んでいた。
「あれ? まだ寝てないの?」
「逆だよ。もう起きたんだ。この歳になると、目が覚めるんだ」
マジか……
「そっかー」
部屋の中を見渡すが、トウコの姿はない。
「どうしたんだい? 小遣いはやっただろう? まだ欲しいのかい?」
「いや、トウコがいないんだよ」
「ん? いないとは?」
婆ちゃんが本を置いた。
「さっきまでリディとアストラルでデートしてたんだけど、帰ったら誰もいなかった。セレスちゃん、エリク君の部屋も確認したんだけど、どこにもいないんだよ」
「……部屋に行くよ」
婆ちゃんがそう言うと、爺ちゃんと共にベッドから降りてくる。
そして、3人で部屋に戻ると、エリク君とセレスちゃんがすでに戻っており、伯父さんと伯母さんもいた。
「トウコは?」
エリク君に聞く。
「いや、父さんと母さんの部屋にもいなかった」
まあ、さすがにそこにはいないとは思ったけど。
「リディのところは?」
今度はセレスちゃんに確認したが、首を横に振った。
「リディの部屋にはいなかった。さすがにリディを起こして聞くことまではしてないけど、トウコちゃんの姿はなかったわ」
マジか……
「え? 帰ったとか?」
ホームシックになったか?
「あなた、ジュストとローズと一緒に使用人の部屋を探してください。エリクは庭の方。私はジゼルに電話してみる」
婆ちゃんが指示を出すと、皆が部屋から出ていく。
この場には俺とセレスちゃんのみが残された。
「どこにいったのかしら?」
「家にいないなら抜け出して、出ていったか?」
「さすがにトウコちゃんがそんなことをするとは思えないけど……」
異国だし、ちょっとコンビニに行くって気安く出歩けるところではない。
ましてや、俺達は不法入国なのだから。
「セレスちゃん、俺とリディが出かけた後にトウコは寝たんだよね?」
「うん。最初は話をしていたんだけど、トウコちゃんが眠いって言って、ベッドに入ったのよ」
ベッドか……ん?
「間違いない?」
「ええ。私にツカサ君のベッドで寝るように勧めてきたもの。お兄ちゃんは床でいいじゃんとか言って」
あいつ……
いや、今はいい。
「ベッドに入ったのか……」
トウコのベッドに近づき、触ってみる。
「どうかしたの?」
「いや、ちょっと……」
俺はベッドを眺めながら考え込んだ。
そのまま考えていると、皆が戻ってくる。
「家のどこにいないぞ」
「庭にもいない」
「ジゼルも知らないって言ってるね」
つまりどこにもいないわけだ。
トウコの姿が消えた。
「一体どこに行ったんでしょう? トウコちゃんが出かけるとは思えないんですが……」
伯母さんの心配そうな声が聞こえる。
だが、俺はベッドを見続けた。
「ツカサ、どうかしたのかい?」
婆ちゃんが聞いてくる。
「なーんか違和感が……」
「違和感? 何かあるのかい?」
「うーん」
トウコのベッドを見る。
もちろん、誰もないし、綺麗なままだ。
「何だろう?」
ものすごい違和感がある。
「何か変?」
セレスちゃんが隣にやってきて、聞いてくる。
「セレスちゃん、トウコが寝ていたみたいにしてみて」
「え? えーっと……こんな感じかな?」
セレスちゃんがベッドに横になり、掛け布団をかけた。
「あっ……セレスちゃん、起きて」
「うん」
セレスちゃんは起き上がると、掛け布団を畳んだ。
「ツカサ、何か気付いた?」
今度はエリク君が聞いてくる。
「トウコが掛け布団を畳むわけがない。あいつ、いつも投げっぱで母さんが畳んでいる。でも、俺が帰ってきた時はさっきのように畳まれた」
なお、俺も畳まない。
「お婆様、これは……」
エリク君が婆ちゃんを見ると、婆ちゃんはトウコのベッドの近くにあるテーブルに置かれたコップを手に取った。
そして、それをじーっと見た後に匂いを嗅ぐ。
「チッ! 睡眠魔法薬……使用人共は?」
舌打ちをした婆ちゃんが伯父さんを見る。
「住み込みの子は一人ですが、知らないと言っています」
「急いで他を当たりな! エリクは派閥の者を起こして捜索! 攫われた可能性が高いよ」
え? 誘拐?
「「わかりました!」」
伯父さんとエリク君が部屋を出ていく。
「セレスティーヌは急いでリディを起こして、私らの部屋に行きな。あなた、頼みます」
婆ちゃんが爺ちゃんに頼むと、爺ちゃんとセレスちゃんも部屋を出ていった。
「ツカサ、どう思う?」
「誘拐という言葉を聞いて、この前の件が頭に浮かんだ」
もちろん、ウォーレス先生とジョアン先輩の件だ。
「私もそれが浮かんだ」
「婆ちゃん、俺はミシェルさんに電話してアストラルで合流するわ」
「あんたも狙われている可能性が高いよ。さっきのコップには睡眠魔法薬の匂いがした」
睡眠魔法薬……
要は魔法の睡眠薬か。
「人の多いアストラルだし、ミシェルさんもいるから大丈夫。というか、来てくれた方が良いわ」
返り討ち。
「ウチには戦える人間がいないし、あんたに頼るしかないか……わかった。アストラルの方は任せる」
「了解」
すぐにスマホを取り出すと、ミシェルさんに電話をかけることにした。
こんな時間だが、ミシェルさんは日本に残ると言っていたし、日本は昼過ぎだから大丈夫だろう。
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