第141話 テストだー
リディとトウコと話をしていると、エリク君も仕事から帰ってきたので夕食となった。
いつもは4人で食べる食卓も今日は6人と多い。
「叔母様、美味しいです……」
ご飯を一口食べたリディが母さんに感想を言う。
なお、かき混ぜている納豆を見ながらなんとか笑みを作っている。
「そう? なら良かった。エリク君もお口に合いますか?」
「あ、はい……美味しいです」
エリク君は納豆に大量のマヨネーズをかけだした母さんを見て、引きながらも頷いた。
「遠慮せずに食べてくださいね」
そう思うなら食欲がなくなるようなことをするなよ。
「あ、お母さん、お父さん。お婆ちゃんがなんか夏休みに家に来いって言ってるらしいんだけど、行ってもいい?」
トウコが確認する。
「お婆ちゃんが? まあ、夏休みですしねー……うーん、行けますか?」
母さんが父さんに聞く。
「俺は仕事があるし、厳しいな。お前が子供達を連れていったらどうだ?」
父さんはやっぱり無理っぽい。
「でも、あなた一人を残すわけにはいかないでしょう。家事もできないですし」
「いや、どうとでもなるだろ……俺だって一人暮らしの経験はあるし、やろうと思えばできる」
「でも、お仕事でお疲れの中、やるのは大変でしょう」
母さんが隣に座っている父さんの腕を触る。
「……なんかイチャつき始めたぞ」
「……しっ! 無視無視」
俺とトウコは絶対に親の方を見ないようにする。
「行くとしても数日か1週間だろ? 弁当を買えばいいし、コインランドリーもある」
「そんなダメです。温もりがないです……それに一緒が良いです」
何言ってんだろ?
「じゃあ、子供達だけで行かすか?」
「無理だと思いますのでアストラルの住居区から行かせましょう。リディちゃんもそこから来てるわけですし」
「そうするか……ツカサ、トウコ、そういうわけだ」
結論は出たらしい。
まあ、俺らもそうするつもりだったから問題ない。
「はいはい」
「……話が終わったら手を離せや、チッ」
トウコが舌打ちをした。
気持ちは一緒だ。
従兄妹とはいえ、客がいる前でいちゃつくんじゃねーよ。
「怖い家だね」
「どこがフレンドリーなの?」
ほら、従兄妹達も引いている。
「エリク君はどうするの?」
「僕も君らの夏休みには帰るよ」
ふむふむ。
帰るなら海に行ってからだな。
「ツカサ、トウコ。それよりもテストの方はどうですか?」
ようやく父さんから手を離した母さんが聞いてくる。
「問題ない。今日もみっちりやった」
「私は言うことないね。いつも通り」
トウコは本当に勉強ができるからな。
今日はリディと遊んでいたようだが、問題なくこなすだろう。
「まあ、今さら勉強しろと口酸っぱく言いませんけど、せっかくお婆ちゃんに会うんですから良い点を取っていくと良いですよ。お婆ちゃんも喜ぶと思います」
小遣いもらえるな。
これはシャルが言うように90点を目指すべきだろう。
「2人共、頑張れよ」
父さんがそう言うと、食事を再開した。
夕食を食べ終えると、4人で話し、日曜日を終える。
翌日の月曜からもシャルとの勉強会は続き、土日も当然のように一日中シャルに教えてもらいながらテスト対策をしていった。
リディも言ってた通り、帰っていった。
そして、月曜からテストが始まる。
さすがにテスト期間中に勉強会はしない。
シャルも自分自身の勉強というか、おさらいがあるからだ。
代わりにシャルが作ってくれた要点をまとめた紙で最後のチェックをするだけにとどめた。
というのも絶対に一夜漬けはするなとシャルに厳命されているからだ。
肝心のテストでコンディションを悪くするのは良くないらしい。
俺はシャルリーヌ先生の言うことに従い、最後のチェックをしながらテストを受けていく。
そして、金曜日になり、最後のテストを終えると、机に突っ伏した。
「前も見たなー」
「煙が出てそうだよね」
フランクとセドリックが笑う。
「きっつい……」
「お疲れ様。あっちにも同じようなのがいるよ」
セドリックがそう言うので、顔を上げて前を見ると、ノエルに背中をさすられているユイカが机に突っ伏していた。
そんなユイカを苦笑いのイルメラが立って見下ろしてる。
なお、トウコの姿はもう見えない。
「正直、あいつには負けたくないという思いは完全に消えている。ただただ終わったという気持ちだな」
「そもそもテストって争うもんじゃないけどね」
「どんな時でも競争心をなくしてはいけないんだよ」
人生は戦いなのだ。
「おー、良いことを言うね。まあ、とにかく終わって良かったじゃないか」
「昼飯食って帰ろーぜ」
フランクがそう言うので立ち上がると、教室を出て、寮に戻る。
そして、3人で昼食を食べ、解散した。
家に戻った俺はベッドに突っ伏す。
シャルにお礼の電話をしようかなと思ったが、シャルは午後からもテストがあることを思い出した。
そのまま横になっていると、ノックの音が響く。
「はーい?」
『ツカサ、ちょっといいかい?』
ん?
ノックをしてきたから母さんかと思っていたが、意外にもエリク君だ。
「いいよー」
そう言うと、扉が開き、エリク君が部屋に入ってきた。
「テスト終わりでお疲れなところ悪いね」
「いや、いいよ。どうしたん?」
そう聞きながら起き上がる。
「実はパリの方でちょっと問題があったみたいでね。悪いけど、早々に戻らないといけなくなった」
「え? マジ? 仕事は?」
「今日で終わった。本当はこれから休暇かなと思っていたんだけど、そうもいかなくなったよ」
エリク君も大変だなー。
「今から帰るの? トウコはまだ帰ってないけど」
「謝っておいて。まあ、夏休みにウチにおいでよ。その時にでもまた話そう」
すぐに行くしな。
「わかった。そういうことなら仕方がないよ」
「それと海に行くのもごめん。ミシェルに車を出してもらって」
あー、そうなるのか……
「そうするわ。リディによろしく」
「なんかデートするらしいね? リディが嬉しそうだったよ」
そら良かったわ。
「買い物に行くだけだよ」
「デートだね。リディは昔から君にべったりだったし」
そうかねー?
「まあいいや。じゃあ、また夏休みくらいにね」
「ああ。またね」
エリク君はそう言って部屋を出るとパリに帰っていってしまった。
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