第122話 さあ、特訓だ
トウコ達とロナルド達の戦いを見終えると、準備があるというクロエと別れ、俺とシャルは湖がある森へとやってきた。
「私、心が折れそうよ……トウコさんも強かったけど、ユイカさんってバケモノそのものじゃない。確実に飛べなくなったわ」
飛んだら指弾の餌食だからなー。
「どっちみち、トウコの魔法があるから飛ぶのはなしだ。転移で一時的に躱すのはいいが、絶対に留まるなよ」
空を飛ぶとどうしても動きが鈍くなってしまう。
「ハァ……」
シャルがため息をつくと、クロエがやってきた。
「お待たせしました。おや? お嬢様はどうされたんですか?」
クロエが聞いてくる。
「落ち込んでるみたい」
「落ち込みもするわよ……実力差がありありと……私、さっきのあの4人の誰にも勝てないわよ」
だろうね。
「お嬢様、そう悲観しないでください。演習場はおおよそですが、半径50メートル程度です。はっきり言えば、接近戦を得意とする者が有利なんですよ。相手がどれだけ強力な魔法を使おうと使う前に仕留めればいいんですからね。お嬢様みたいなタイプはもっと広いフィールドで光ります」
まあ、無限に逃げ続けて魔法を放っていれば勝つからな。
これが50メートルという檻の中では弱体するのは当然。
「外で戦いたいわ」
「いつも戦いがそことは限りません。街中や室内の方が多いです」
本当にそうだ。
だって、シャルって外に出ないじゃん。
「じゃあ、ダメじゃないの……」
「何事もやりようです。そのための特訓ですよ」
まあね。
くじ運がよく、先に戦いが見れたのだから対策できる。
「どうするの?」
「まずはおさらいです。今日の戦いを見て、どう思いました?」
「どうって……皆、強いなーって感じ。特にユイカさんの指弾が恐ろしかった」
それはそうだろうよ。
「シャル、とりあえず、トウコとユイカは忘れろ。まずは明日のロナルド、ユキだ」
先のことよりは明日のことだ。
「そうね。確かにそちらに集中すべき……ロナルドは槍を器用に使ってたし、戦い慣れている感じがした。ユキさんは何と言ってもあの千剣ね」
「その通りです。そして、戦い方をトウコさんとユイカさんが示してくれました」
クロエが頷いた。
「私がトウコさんの役目でツカサがユイカさんの役目?」
「その通りです。御二人はそれしかありません。ですので、お嬢様がユキさんの千剣を防ぎ、その間にツカサ様がロナルドさんを倒します」
そうなるね。
俺は接近戦、シャルは遠距離戦しかできないんだから。
「そうなるか……ツカサ、いける?」
「シャルが防いでくれたらな。ロナルドは強いと思うが、負ける相手じゃない」
「ひゅー、かっこいい」
クロエ、うざい。
「クロエ、ユキをどう思った?」
そう聞くと、クロエが背筋を伸ばした。
「確実に何かあります。その証拠にユイカさんが足を止めました」
あのバーサーカー1号が攻撃態勢に入っていたのに足を止めたのは俺も気になった。
「何かを感じたか、気付いたか……」
教えてはくれないんだろうなー。
「だと思います。ユキさんはユイカさんをやれると判断し、迎撃態勢に入った。ですが、相手にトウコさんもいたことで諦めたのでしょう。まだ初戦なので負けるとわかっているのに手の内を晒すこともないと判断した。そんなところでしょうね」
となると、イルメラみたいな初見殺しの魔法か?
「まあ、考えても仕方がないか」
「その通りです。時間もないですし、わかっている千剣対策をしましょう」
クロエはそう言ってカゴに入った大量のテニスボールを取り出した。
「テニス?」
「森だけど……」
「遊ぶわけではありませんよ」
クロエはそう言いつつ、テニスボールを手に取ると、ジャグリングを始める。
しかも、何個ものボールを器用に回し始めた。
「おー、すげー」
「あなた、何でもできるのね」
「できるわけないじゃないですか」
クロエがそう言って手を降ろす。
しかし、ボールは落ちずに回転し続けていた。
「手品だ!」
「魔法でしょ……ユキさんの操作魔法ね」
あ、そりゃそうか。
「その通りです。具現化魔法は使えませんが、浮遊魔法、操作魔法は使えます。今からこのテニスボールを千剣に見立てますのでお嬢様は魔法でこれを撃墜してください」
「なるほど……よし、やってみる」
シャルとクロエはお互いに距離を取り合う。
「まずは1つですよー」
クロエがそう言うと、テニスボールが飛んでいく。
「フレイムエッジ!」
シャルが飛んでいるテニスボールに魔法を放ったが、炎の刃が当たる前にテニスボールがふいっと曲がり、当たらなかった。
「あれ?」
「お嬢様、ユキさんの剣は動きます。スピードを意識してください。今のでツカサ様の背中に剣が刺さりましたよ」
やめーや。
「もう一回よ」
「では、行きますよー」
クロエがもう一度、テニスボールを飛ばした。
「フレイムエッジ!」
シャルが飛んでいるテニスボールに魔法を放ったが、さっきよりも速い炎の刃が見事、テニスボールを焼き切った。
「お見事です。今度はツカサ様の背中に当たりませんでした」
「それ、やめない?」
シャルは嫌そうだ。
俺もちょっと嫌。
「やめません。お嬢様、今度の戦いはお嬢様がどれだけの数の剣を打ち落とせるかにかかっています。ミスればその分、ツカサ様がピンチになります。自分がトチって自分がやられるのは自己責任ですが、今回はツカサ様がやられます。前衛は死ぬ気で後衛を守ります。それと同時に後衛も死ぬ気で前衛を守ってください。軽く考えないように」
「わ、わかった」
「はい。それでは今度は2個です。愛の力で守ってくださいね」
あんたはまず、そのふざけるのをやめろよ。
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