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明日の音の最骨頂  作者: さあの
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大丈夫なの

傘が差し出された。

桜だと思ったら違った。


自分は濡れながら、

またあの時よりも心配そうにこちらを見つめている。

どうせ、

大丈夫?とか、元気ないよ?とか言われるんだろう。そんなの、答えは「大丈夫」の一択を求めているようなものだ。


後ろを振り向き、ありがとうございます。

と礼を言い、なにか言われる前に立ち去ろうとした。

すると、会釈した目の前には小さなタオルが差し出されていた。

佐村木さんは、

「あ、あの、‥よかったら使ってください。

いやなら‥‥回収します」

と、ぼそっといった。


佐村木さんは、大丈夫?なんて言ってくれなかった。けれど、その代わりにタオルを差し出してくれた。 

さすがに使うわけにはいかないと思い、

「ありがとうございます。大丈夫です。」と言った。

断って、しばらくしてからこれしかないと言わんばかりの顔で佐村木さんは、

私の1番嫌いでなぜか今1番、求めていた言葉を放った。


「大丈夫?」



いつもの私なら、

「大丈夫」とそっけなく返すのが普通だ。

けれど今日、わたしの口から発せられたのは、

か細い声の、けれど本音の

「大丈夫、じゃ、ない」

だった。


おそるおそる顔を上げてみると、さっきの心配そうな顔とうってかわって

大人のやわらかい表情だった。「やっぱりね、」と言われた。


佐村木さんはわかっていたのだろうか。

さっきまではころんだ小さな女の子を心配するようなあわあわとした顔だった。

今は違う。いつも思うが、

佐村木さんは切り替えがすごい。


佐村木さんがなにか言おうとした瞬間に、

バタバタと足音がした。桜だった。


桜は何も考えず真っ先に「ゆう、大丈夫?!」

大きな声で、佐村木さんにも聞こえるように

「大丈夫!」と言った。


桜の手を引っ張り、佐村木さんとは目を合わせられず会釈をして改札を抜けた。


桜が、ちょっと?!というのも聞き止めなかった。


電車に乗って、しばらく桜との沈黙が続いた。

そして桜が「なにかされたんでしょ?」

と聞いてきたから、「雨が降ってたから早く帰ろうと思っただけ。」とそっけなく答えた。

「嘘だ!!絶対なにかされたでしょ!!

何されたの?私がやり返すから、だから、」


「だからそれが嫌なんだよ!

私は必死にこのクラスの中を生き抜いているのに

それを軽々しく翻そうとしないで。」


この車両に、私たち二人しか乗っていなくて良かった。


桜が何も言わず、まだ降りる駅でもないのに降りていった。


遠ざかる背中を私は見ることができず、スマホに目を移した。


するとメッセージ欄に一個のメールが入っていた。




もどかしい桜。

何も言わず背を向けてしまった佐村木さん。


優しくしてくれているはずなのに、

優しくされていない気がした。


そんななかの一件のメール、誰からだろう?

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