チョコレート、雨。
ありがとうの意味、それは一つじゃなくていいと思います。
「え?」
私の手の中にはチョコレートが2つ。
連絡先の書かれた紙ではない。
「いや、昨日ゆうちゃん驚かしちゃったからさ、謝りたかったんだけど会う機会がないから困ってたら桜ちゃんが方面一緒だから一緒にいけば?っていってくれてさ、」
少しうつむいてから
「ごめん」と静かに謝った。
たしかに喋らない私にとってはとんでもない驚く出来事だったがそんな、謝ることではない。
むしろ救われたんだ。最後の言葉に。
でも私は、「いえ、気にしてません」
と言うしかなかった。と同時に、私の口からは「ありがとう」という言葉が漏れていた。
この言葉には2つの意味を込めた。
一つはチョコレートに対するありがとう。
二つ目は、私を心配してくれてありがとう。気にかけてくれてありがとう。言葉をくれてありがとう。
全部詰まった渾身の「ありがとう」
いったあと、反射的に目をそらした。
また少しずつ佐村木さんの方を怒ってないかな‥‥‥と見ると、
笑顔だった。意外にもさっきの子供っぽい笑顔ではなく、
ちゃんと大人の笑顔だった。
やさしく、私を包みこんでくれるような笑顔だった。
それにつられて、私も少しだけ口角が上がった。
が、すぐにもとにもどった。
そこからしばらくして駅につき、私は桜を待ちますと言って、佐村木さんに先に行ってもらった。
すると、桜がしばらくしてから降りてきた。
「ごめんごめん!!!で、どうだった?佐村木さん、なんか言った?」
「なにも」
桜が一番期待してなかった言葉だろう。
すぐに落ち込んでいた。
しかし私は言葉を続けた。
「でも、ありがとうは伝えられたよ」
「おぉ!偉いじゃん」
といって、私の頭をワシャワシャとなでてくれた。
当たり前なのかもしれない。けど私にとっては難易度高めの問題なんだ。それを解けたことを少し喜んでくれるこいつにも、なんだかんだ感謝してるんだよな。
いつか桜にも伝えたい。
佐村木さんに頑張って伝えられたような、渾身の
「ありがとう」を。
帰りは、雨が降っていた。
傘は持っている。
桜が帰ろーと言った。
そして桜が離れた。
その次の瞬間、私は数人の「一軍」と呼ばれる女子たちに囲まれた。
私は恐ろしくなって、早くに帰り支度を済ませた。
1人が、「ねぇ、」といってきた。
「何陰キャの分際で、桜と仲良くしてんの?」
「は?」
「だから、なんで陰キャの分際でうちの桜と仲良くしてるかって聞いたんだよ」
「対して喋らないくせに」
「桜がかわいそう」
周りの男子たちは見て見ぬふりをして、
女子こうぇーとのんきにいっている。
これだから男子も女子も喋れないんだよ。喋りたくないんだよ。みんな赤の他人のフリしてさ。
「そんなの知らない」
「は?知らないわけ無いでしょ」
「嘘つかないでよ」
「やっぱこいつクソだわw」
「いっつも喋らないし、それでモテるとでも思った?」
違う。モテたいから喋らないんじゃない。
でも喋れないんでもない。
喋る勇気が出ない自分が悪いのはわかってる。
けど勘違いされては困る。
「何言ってんの?」
私は渾身の一撃を返したつもりだ。
すると
バチン
その瞬間、頬に平手打ちを食らった。
私は倒れ込んだ。
「いいかげんにしろよ」と一軍が罵る声ではなく、本気の声になったその瞬間、聞き覚えがある声がした。
「ちょっと、、?何やってんのよ!!」
あぁ。また桜に助けてもらうことになる。
これ以上は。これ以上は迷惑をかけたくないのに。
私の顔を掴んで
「大丈夫?!」と、本気で心配してくれた。
「あんたたちさあ!!!」と言いかけたところで、
私は耐えられなくなり
その場から走って逃げ出した。
濡れながら走った。あぁ、これがよくある
「私の心も雨」てきなやつか。もう土砂降りかもしれない。
どうしよう。桜があの子達の方へ行ってしまったら。
私を「モテたいから喋らない」扱いするやつのところへ行ってしまわないだろうか。
桜まで一軍たちの敵にはしたくない。
どんどん雨が強まっていくとともに走るのもつかれた。
私はゆっくりと歩き出した。
5分ほど歩き、やっと駅だ、と思いながら最後の道を歩いていると、後ろから足音がした。
タッタッタッタッとどんどん近づいてくる。
桜か?今は桜には会いたくない。
振り向かずにいると、私の周りで雨がやんだ。
上を見ると
傘があった。
でも目の前は駅だ。あと10歩ほど歩けば屋根なのに。傘をささなくても。
やっぱバカだなぁ桜は。とおもいながら後ろを振り向いたら、
そこには濡れた佐村木さんが立っていた。
桜ともう一人、助けてくれる子がいましたね。
黒髪が濡れてペタッとなっている
1人の男子大学生。
続きをお楽しみください。