表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

私はただの令嬢ですが?

作者: アイララ
掲載日:2023/06/26

「マローメ! やっぱり……」


王都にある貴族学校へ転入した私の挨拶は、途中で邪魔された。

生徒達の、驚愕と恐れの声で。


「……何がやっぱりですか?」

「……いえ、何でもありません」


私の挨拶を邪魔してまで、何を確認したいのだろう?

名前がマローメなのが、余程、珍しいのかしら?


「今は挨拶の途中です。私語は謹んで下さい」

「いえ、構いません。自己紹介はもう終わりましたから」

「そうか? ……なら、席の案内に移るとするか」


気にはなるが、ワザワザ問い詰めるのも礼儀に反する。

第一、私は今日、この学校に来たばかりだ。

彼はきっと、別の誰かと勘違いしてるのだろう。

それならすぐ、別の人だと分かってくれる筈。

こちらから事を荒立てる必要もないし、今は大人しくしておこう。


席に座り、これから行う授業の説明を聞く。

その間も、何人かの生徒がチラチラと見てきた。

……初対面なのに、どうして気になるのかしら?

疑問に思いながらも、淑女らしく無視する事にした。


何日かすれば、きっと収まるだろう。

その望みが、いとも容易く裏切られると知らずに。


そもそも、私は王都の貴族でない。

バルデリ辺境伯、つまり国境沿いにいる貴族の娘だ。

辺境の治安を維持する、国防の要と言われる家。

その娘として、近くの貴族学校で育てられてきた。


前の貴族学校での生活は、ずっと過ごしやすかった。

出席している子息令嬢は顔見知り、友達として過ごしてきた。

学校が潰れ、離れる時も、再び揃ってお茶会をしようなんて約束する位。

……あのまま、父の提案を聞いておけば良かったのかな。


「マローメ、後一ヶ月で学校にいられなくなる。よって、別の学校に転入するか、家庭教師を付けるか選んでもらう」

「そんな……どうしてです?」

「人が足りず、運営の為の費用が賄えないのだ。遠方から呼ぶ教師の費用も嵩む。それなら潰して、他の学校と合併する方がいいだろう」

「残念ですが……仕方ありませんね」


居心地の良かった場所が無くなるのは残念に思う。

けど、そこで無理を言っても仕方がない。

別にそれで人生が終わる訳ではなく、別の道を歩むだけだ。


「それに、悪い事ばかりではないぞ。政府が、途中まで払った学費が無駄にならない様にしてくれるそうだ。転入する学校の学費を無償にしてな」

「では、私はそちらに?」

「そうしたい所だが、ちと遠くてな。寮で生活する事になる。不慣れな土地で大変だろうから、家庭教師も考えたのだが……」

「構いません。私、転入します」


そうして私は、アンデオル貴族学校に転入した。

国境沿いから王都まで移動してまで。

個室ではあるが、知らない学生の寮に住む覚悟を決め。

なのに、迎えた初日は失望に終わる。

これでは、前の学校の様に友達を作る、なんて出来ませんわね。


授業が終わり、次の授業までの僅かな休憩。

先生がいなくなってから、私に向ける目線は更に厳しくなった。

それどころか、ヒソヒソと噂話まで。


「……間違いないわよね? マローメと言ってたし」

「上だけだろ? 最後まで聞けてないし、何とも言えないよ」


「よくも堂々と、私達の学校に入れたわね。教師は何をしてるのかしら」

「やめてよ、まだ決まってないし」


あきらかに私が別のマローメだと決めつける人。

疑いはしても、近付いて確かめようとしない人。

ただの勘違いだと話し、自分を納得させてる人。

ほんの少しの間に、様々な話が飛び交った。


……そして、話の中に気になる所があった。


「やっぱり本物よね? あんなに美人だし」

「だよね、でないと、あんな事はしないし」


私が、美人?

確かに王都の人達とは、少しばかり顔立ちが違うと思う。

けれど、それだけで美人とは言えない筈。

前の学校でも、精々、中くらいだし。


恐らくだけど、そのマローメという人は、美貌で何かしでかしたのだろう。

男を誘惑したとか、婚約者に不倫を誘ったとか、そんな感じの。

そんな人と間違われるなんて、不幸なのか何なのか。

美人と言われて気分が悪くなるなんて、初めて知ったわ。


この最悪な印象で始まった転入の日は、何とか無事に過ごせた。

挨拶を除いて、一度も口を利かないお陰で。

……こんな事なら、家庭教師を雇えば良かったわ。


それからの彼女は、学校生活を無言で過ごした。

挨拶や、最低限の会話だけで済ませ、深く立ち入らない様に。

一ヶ月後、彼女はそれでも寂しさを感じたまま。

少しでいいから忘れようと、休日を使って里帰りする事にした。


「……勘違いで無視を一ヶ月? 最悪だなぁ」

「それ、虐めだよ。先生に報告した方がいいわよ」


そう話すのは、家に招いた元・同級生。

離れ離れになった友達に会おうと、家に呼んでおいた。

皆でお茶会を楽しめば、少しは気が楽になると思うから。

……こうして本音で話せるの、随分と久し振りね。


「辺境伯の令嬢ともあろう人が、その程度で弱音を? お断りですわ」

「そう言わないの。話してみたら案外、すぐに解決するかもよ?」

「気持ちは分かるぜ。まっ、気が向いたらで大丈夫だよ」

「気が向いたら……考えておきますわ。それより、このお菓子は誰も食べないのです?」

「あっ、なら俺が」「ちょっとぉ~」


毎日の授業はいつまでも終わらない。

なのに、お茶会の時間はあっという間。

友達と、何の気兼ねなく話せる時間はそう来ない。

……また、明日から学校と考えると。


気分が落ちても学校は続く。

立派な淑女となる為の教育は、何があろうと学ばねば。

父上は学校にいる間、婚約者を探しておけとも言ってたけどね。

この感じでは、婚約者どころか友達すら不可能よ。


そうして半年、漸く一人の学校生活にも慣れた頃。

私の今後を大きく変える事件が起こった。

外国の学校へ一時、出国していた王子が戻って来たから。

ジレット王子、私と名前だけ同じ人が迷惑を掛けた王子が。


ジレット王子が帰国する数日前、私はランジュという令嬢に呼び出されていた。

学校のサロンに招待され、紅茶を囲いながら。


「どうぞ。アンタなんかに紅茶は勿体ないけど、マナーだもの」

「それはどうも。……どうして私を?」

「惚けてるの? まぁ、今まで大人しいフリをしてたものね。教えてあげる。邪魔だからよ」

「邪魔って……私、何もしてないけど」

「何も? ……そこまで言うなら、今後もしないで。ジレット王子は私と婚約を結ぶの。いい?」

「話はそれだけ? 私は構わないけど……」

「良かった。でも、アナタの事だから、後で裏切るかもしれないわよね? だから、いい話も持って来たの」

「……はぁ」

「協力すれば、貴女の家に援助するわ。幾ら辺境伯でも、国防だけでは生活してないでしょ? 政治や商売は、侯爵家の私に頼るの。いい?」


あくまで私の方から、はいと言わせたいらしい。

けれど、この話は私にとっても好都合だった。

ここへ転入したのは婚約者を探す為なのに、誰一人として声を掛けられていない。

なら、代わりに侯爵家と繋がりを持てれば、お土産代わりにはなる筈。


「構わないわ。私、王子には興味ないの」

「嘘仰い。……それが本音である事を祈るわ」


その後は他愛もない話で、お茶を濁して終わる。

……厄介な事にはなったけど、結局は王子様と会わなければいいだけ。

そうすれば、いつもの日常に戻るわ。


その日常は、ジレット王子が帰国する日までしか続かなかった。


「君は……マローメなのかい?」


彼の帰国を称える会が終わり昼休み。

なぜか、彼の方から話し掛けて来た。

……困るわ、アナタと話すだけで怒られるのに。


「えぇ、マローメです。では……」

「待ってくれ」


呼び止める彼を無視し、私は教室を出た。

困るわね、今まで昼休みは椅子でジッとしてれば済んだのに。

もし、彼と会話して怒られたら、学校にいられなくなるし。

……まぁ、暫く無視すれば、向こうから離れていくわ。


その考えが甘いと思い知らされるのは、数日後の事であった。


「マローメ、話がある」


いつもの放課後、彼から離れる様に帰る私を引き留めてきた。

腕をしっかり掴まれ、振り解こうにも力が足りない。

……ワザとではないし、恨まないでよね。


「……何でしょうか。私、忙しいので」

「すぐに済む。こちらに来てくれ」


連れて行かれた場所は、学校のサロン。

中にいた人を出してまで、二人きりになりたい様子。

……コレ、後で彼女に問い詰められるでしょうね。


ソファに並んで座り、彼がしっかり私を見てる。

当然、意識せざるを得ないけど……恥ずかしいわね。

今まで見てきた中で、一番の色男が隣に座ってる。

そう考えると、顔が赤くなる気がした。


銀の流れる様な髪の中、純真な青い瞳に見つめられる。

色っぽい唇は、けれど固く閉じられたまま。

どうしても私から、話させたいみたいね。


「……先程も言いましたが、私はマローメ、バルデリ辺境伯の娘です。それが何か?」

「辺境伯……おまけに姓も違うな。ならどうして、ここに転入した?」

「前に通っていた学校が、運営費用を賄えなくて潰れましたの。それだけです」

「なら……本当に、勘違いという訳か」


何があったのか知らないが、誤解は解けたみたい。

なら、後はここに長居する必要もないわね。


「分かってくれた様で助かります。後は、用事がなければこれで……」

「どうして、違うと言わなかった?」

「……面倒だからですわ。それに、淑女がみだりに騒ぐなど、父の教えに反します」

「だからって、名前を言うだけで解ける誤解を放置するなんて……お茶、飲んでいかない?」

「……お茶?」


突然、何を言い出したかと思えば、すぐに紅茶を注ぐ準備をし始めた。

どうやら、彼は何としてでも、もう少しだけ話をするみたい。

あまり長居したら、彼を狙ってる令嬢に怒られそうだけど……。

まぁ今更、手遅れだし、もう少し居ても変わらないわよね。


「……話したいなら、そう言って下さればよいのに」

「すまない。でも、どうしても気になって。アイツだと誤解されても我慢したまま、なんて令嬢がどんな人か気になって」

「ただの辺境伯の令嬢ですわ。それに、話せるとしても地元の話位ですけど」

「いいよ、僕が聞きたいだけだから」


そうして私は、ここへ来るまでを話し始めた。

家族の話、前の学校の話、そして、ジレット王子と出会うまでの話を。

全て聞き終わった時、漸く彼はホッとした顔を見せた。


「名前を変えたか、もしくは別の家に移り込んだと思ったけど……本当に違うんだね」

「……まだ疑っていたのですか?」

「ごめんごめん、どうしても気になって。……ありがと、聞けて良かった」

「そうですか。なら……もう二度と、話し掛けて来ないで下さい」


そうして、私はサロンを後にした。


午後の授業から、周りの雰囲気は最悪になった。

前は挨拶を返す程度には会話もあったが、それすらもない。

完全な無視を決めこまれ、周りから誰もが離れていった。

……でも、今更、誤解を解くには遅すぎるわよね。


もしかしたら、今からでも遅くないのかもしれない。

教室の皆に事情を話せば、向き合って貰えるかも。

そう考えもしたけど、結局、黙っている事にした。

どうせ今までも無視されてたのは変わりないし。


こうして、私の新しく寂しい日々が始まっていった。


「なぁ、本当にジレット王子を誑かしたのか? サロンへは彼から連れて行ったのだろ?」

「確かに見たけど……でも、今から聞きに行く? それでマローメから恨まれたらどうするのよ」


「姓が違うから別人だとも思ったけど……しっかり王子様を掴まえてるなんて。本物よね?」

「あんな令嬢、関わりたくもないわ。さっ、行きましょ」


聞こえてないと思っているのか、それともワザとなのか。

たまに、私を揶揄したり、恐れたりする話が聞こえた。

面と向かって言ったり、対立はしなかったけど……。

それでも、前よりも雰囲気は最悪になっていった。


虐め、でないけれど、確実に嫌われてる。

そう思わされるには十分過ぎた。

辺境伯の令嬢という立場が故に、表立って歯向かわなかったが。

……こんな形で名家の有難さに気付けるなんて、皮肉よね。


そして更に最悪なのは、一人だけ、私に関わる者がいる事。

本人としては、私を助けるつもりでいるのだけど。


「おはよう、マローメ。今度、僕の家でお茶会をする事にしたのだけど、君もどう?」

「お断りしますわ、王子様」

「ジレットでいいよ。ここにいる間は、ただの同級生だから」


あの日、彼が私をサロンに連れてから、なぜか距離を縮めてきた。

それこそ一部の令嬢は嫉妬し、私を目の敵にする程。

表立って敵対すれば彼や先生に見つかるので、直接は虐められてはない。

けれど、段々と悪口や陰口を言われたりしてきた。


それでも、不思議と嫌がらせは来なかった。


正確に言えば、一度だけ嫌がらせを受けた事はある。

私を呼び出し、近付くなと言ってきたランジュとは違う令嬢が。

机の上に阿婆擦れだと、悪口を書いていた……らしい。

後から報告されただけだから、実際に何を書いていたかは分からないけど。


その令嬢にとって最悪なのは、見つけたのがジレット王子という事だ。

放課後、何かを企む目線で私の机を見ていたから気付いたらしい。

当然、彼女は退学になり、それが最後の嫌がらせになった。


こうして私の学校生活は、不穏ながらも平和に過ごしてる。


「……なんか、凄い事になって来たな」

「良くは無いと思うけど……王子様が助けてくれるなら、悪くも無いと思うわ。第一、お父様から、学校で婚約者を探せと言われてるでしょ?」

「そうだけど……相手が相手よ。私なんかが簡単に決めれる訳ないでしょ?」

「だよなぁ……」


久し振りの里帰り、私は友人へ相談する事にした。

楽しいお茶会のお話には向かないけど、それでも話したかった。

どうすれば彼との関係を解消させられ、そして無事に過ごせるかを。


「第一、王子様は私を気遣ってるだけよ。婚約なんて無理に決まってるわ」

「だから離れたいと? 嫌がらせを止められる力を持ってるのは、あの人だけよ」

「ここは穏便に……今からでも説明すれば、クラスの人も聞いて貰えるかもしれないぜ?」

「それは私も考えたのだけど……厄介な人がいるのよ。侯爵家の令嬢で」


王子を狙い、邪魔をするなと言ってきたランジュが。

今はまだ、王子が近くにいるから手は出してない。

けど、もし王子と穏便に離れられて、生徒の誤解が解けたとしても、彼女だけは納得しないだろう。


「彼女、前から何度か王子にアピールして……全て失敗しているの。それが私のせいだと」

「勘違いも甚だしいわね……」

「そう思うけど、話しても絶対に納得しないわ。むしろ怒りそう」

「……俺も一緒の学校に転校しとけばなぁ」

「気持ちだけで十分よ。……折角、王子と婚約できる機会を私が奪ったなんて。離れたら真っ先に襲ってくるわ」

「王子に? 君に?」

「両方よ。もし、それで家にまで圧力を掛けてきたらと思うと……」


彼女は協力するなら、家に援助をすると持ち掛けた。

それ程の実力もあるし、嘘やハッタリでないだろう。

ならば、逆に家へ嫌がらせをする可能性もある。

学校内の話なら、私だけで何とかするつもり。

けど、それで家族に迷惑を掛けるのは……。


「……いっそ私達の所に転校する? もしくは家庭教師を呼ぶとか」

「貴族としての教養や作法を学ぶなら、俺達の所でいいだろ? アリだと思うぜ」

「……確かに! その程度なら、ギリギリ父も許すと思うわ!」

「説得する時は、私達から誘われたと言いなさいよ。淑女は騒ぎ立てないと煩い父も、納得してくれるわ」


こうして私は、友達の所へ転校する事に決めた。

幾らジレット王子や有力貴族がいても、婚約が出来ないなら居る意味がないしね。

友達とのお茶会が終わった後、父へすぐに相談する。

多少は反対されたけど、何とか説得も出来てホッとする。


……これがランジュを怒らせると、今の私は夢にも思わなかった。


里帰りした数日後の放課後、私はジレット王子をサロンに誘った。

あまり関係を持ちたくなかったが、別れるなら問題ないだろう。

それに、学校での生活が平穏に過ごせたのも、彼のお陰。


「珍しいね。いつもは誘っても来なかったのに」

「話したい事がありまして。それとお礼を」

「お礼? そんな、僕は何も出来てないよ」

「隣に居てくれたお陰で、私は平穏な生活を送れましたわ。貴方はそう思ってないかもしれませんが」

「……そうか。でも、大変だったろうに」


サロンに用意してあるお茶を注ぎ、二人で他愛もない話を楽しんだ。

学校で無視されていた事、厄介な令嬢に睨まれている事、他にも色々と。

これで最後だからと、全て語り示した。

それを隣で、ただジッと聞いてくれた。


「……まぁ、それも全て終わりですわ。もうすぐ、転校しますから」

「……すまない。先生に報告して改善しようとしたが、仲が悪いだけだと取り上げて貰えなくて」

「王子といえど、学校では同級生でしかない。無闇に強権を振るえない事は存じていますから。気にしてませんわ」

「そう言ってくれる君が、どうして転校しなければと思うよ」

「過ぎた話ですわ。……そうそう、一つ聞きたい事が御座いましたわ。どうして皆、私を無視するのです?」

「あれ? その話は前に」

「前は、マローメと同じ名を持つ別人だと確認しただけ。その人が何をしたかは聞いておりません」

「そっか。なら、話しておかないとな……」


半年前、私と同じ名を持つ令嬢がここに来た。

彼女は持ち前の美貌でジレット王子の兄や、公爵の子息を誑かしたという。

挙句、同じ男を狙おうとする者は、自前の権力で貶め、破滅させたとか。

だからこそ、ジレット王子は一時、学校を離れ外国に留学した。


「同じ事が起きない様に、学校は対策をした。権力を自分の為に使わせまいと徹底してね。君が困ってる時位、王子としての立場を使いたかったと思ったけど……」

「お気になさらず。もう大丈夫ですわ。後は転校するだけですので」

「その事で一つ、頼みがある。僕も……一緒に転校したい」

「突然、どうしたのです? 貴方がそうする意味などありませんのに」

「君を何とか生徒の中に入らせようとしたのに、連中は結局、無視したまま。そんなクラスに長居するつもりはない」

「……お好きにすれば?」


お茶を片付け、その言葉を最後にサロンを出た。

王子が一緒に転校、きっとランジュは怒るけど……断る理由もないしね。

そうして寮に帰ろうと、階段を降り始めた時。


「裏切ったわね」


どす黒い、恨みのこもった声を掛けられた。


「何の話です?」

「惚けないで、アンタが王子を誑かしたでしょ?」

「聞いていたのね。……でも、私がマローメという同名の令嬢とは違うって聞いてたでしょ?」

「関係ないわ。王子を狙ってる事には変わりないもの。言ったでしょ? 私の邪魔をするなと」

「してないわよ。勝手に強引な告白して失敗しただけでしょ? 私の責任ではないわ」

「ふざけないでよ! ……いい? これから痛い目に遭いたくないなら、王子に転校するなと伝えなさい」

「一人でやりなさいよ。王子から煙たがれる程、告白して来たでしょ? その位、簡単じゃない」

「……この、雌犬!」


突き飛ばされた瞬間、もう少し穏便に言えばと思った。

迫り来る階段、腕で守ろうとして激痛が走る。

折れる感触で頭が真っ白になりながら、誰かに掴まれた気がした。


「大丈夫か!?」


倒れ込んだまま声の方へ向くと、ジレット王子の顔が見えた。

叫ぶランジュ、駆け付ける先生の声、そして抱き締める彼の感触を最後に……私は気を失った。


それから一週間後、病院にいる私の元へ、同級生が見舞いに来ていた。


「……嫉妬で衝動的に突き落とすとはな。助けに来た王子にも蹴りを入れたんだろ? 全く、何を考えてるんだか」

「それで、彼女はどうなったの? 退学だけじゃ済まないわよね、骨折させたし」

「修道院に送られるらしいわ。親子の縁も切るって」

「それだけか? 平民になるだけだろ?」

「あのね、貴方みたいにどこでも生活できる人とは違うの。散々、贅沢暮らしなのが文無しよ。十分、キツイ罰だわ」

「でも、蹴ったのは王族に対する反逆だぜ? 見合わないと思うがな」

「そこらは後。まずは怪我した私の賠償からだって」

「なら、これからが楽しみという事か」


そんな話をしてる中、病院を駆ける足音が聞こえてきた。

院内で走るなと怒られそうだけど……知らなかった事にしておこう。


「マローメ、大丈夫か!?」

「無事です、骨折だけで済みましたから。それより、あまり騒ぐと他の患者さんに迷惑ですよ」

「あっ、ごめん……」

「学校で友達がいないと言ってたのに……ちゃっかりしてるな」

「そう言わないの。これから同級生になるのだし」


ジレット王子はその後、正式に転校が決まった。

どうしても私と婚約したいから、側にいたいと思ったらしい。

正直、彼と結婚する未来なんて考えてないから、どうしようかと悩みはした。

けど、あの学校で一人、私の側にいたのは確かだし。


「これから長い付き合いになると思うけど、宜しくお願いしますね、王子」

「だから、ジレットでいいよ。……こちらこそ、宜しく」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 骨折させたのは完全に傷害事件ですもんね…穏便には済まないでしょうね…。 それにしても名前似てるだけでそんなにされるか?と思いましたが、印象が強い人の顔そんなにちゃんと見て覚えてるのかっていう…
[気になる点] >それからの彼女は、学校生活を無言で過ごした。 挨拶や、最低限の会話だけで済ませ、深く立ち入らない様に。 一ヶ月後、彼女はそれでも寂しさを感じたまま。 少しでいいから忘れようと、…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ