コード“竜”4
翔達が帰還したのは大分遅れて戻ってくると皆から心配されてしまう。
カスパーは面目無さそうに訳を話す。
「緊張の糸が切れてな…その、乗り物酔いして耐えられずちょっと休憩をだな…」
神威はそれを聞いて拳を握りワナワナしながら心の中で叫ぶ。
(我は現在進行形で吐きそうだぞ!遅れるなら連絡寄越せ!)
暢気な二人を黒鴉が怒鳴る。
「みんな心配したのよ?!帰り事故ったのかと思ったじゃない!」
翔が苦笑いで聞き返す。
「負けたとは思わなかったか」
「当たり前でしょ!…勝利報告は確かめたわよ」
「思ってるじゃないか」
付け足された言葉に翔がツッコミが理不尽なげんこつが飛んでくる。
「連絡くらいしなさい」
怒られた二人は声を揃えて謝る。
「はい、すみません…」
話が終わるのを待っていた神威は困った顔をしながら翔を手招きして呼ぶ。
出先で通話していた事を思い出して翔は急ぎ駆け寄ると面倒なことに黒鴉と黒姫がくっついてきた。
「…あー、二人はちょっと」
神威が申し訳なさそうに席を外すように伝えるが強情にも残ろうとする黒鴉は理由を尋ねてくる。
「所長代理よ?話をするなら私も通しなさい?…なんの話?」
その言葉に神威は小声で愚痴を溢す。
「厄介事に首突っ込む嗅覚だけは鋭いお嬢様だな…」
「何か言った?」
「いや、何も」
神威が話を切り出すか悩むと翔が助け船を出す。
「業務的なのじゃないからさ」
「…隠し事は御免被るわよ、私達…少なくとも私には通しなさい」
神華の件で蚊帳の外は嫌だと主張すると黒姫もウンウンと頷く。
そして騒ぐ黒鴉の様子を見に博士達までやってきて一般の研究員からも注目を集め神威が青ざめる。
「はい、逃げられないわよ?」
黒鴉がニヤッとするが翔は黒鴉に呆れ顔で伝える。
「機密だったらどうすんだよ」
「こんなとこで話するのが悪いわ」
「…仰る通りで」
神威は竜司に関するメッセージを一度確認して翔に目配せする。
(もう公表しちゃう?)
(いやダメだろ!)
表情で会話して神威は頭を抱える。黒鴉が見兼ねてその隙にメッセージを見てしまう。
真剣な表情をして無言で神威を睨む。
「…いつの?」
「大体昼前だ」
威圧感漂う表情で翔を見る。
「知ってたの?」
「ああ、前話そうとしたけど…まぁ有耶無耶に、多分今回も冗談かと…」
黒姫が姉の雰囲気を見て状況を察して周りの人だかりを下げさせる。
「解散、解散です」
おずおずと下がる博士達、黒鴉の逆鱗に触れたくないと全員一斉に目を逸らして作業に集中する。
「黒姫、あんたも下がりなさい」
「え、でも…わかりました」
黒姫はチラッと翔を見て仕方なさそうに下がる。
三人になった翔、黒鴉、神威はそれぞれ気まずそうになり作戦室で話すのはマズいと移動をする。
会議室で黒鴉は神威を見据え、神威は恐る恐る呼ぶ。
「黒鴉…?」
「お父様の訃報…浜松は冗談と言ったわよね?」
神威を無視して次は翔を睨む。
「ああ、少し前に匂わせる文面で…」
「…少し前って今回のと時期が違うじゃない」
普段なら叫ぶであろう筈の黒鴉の暗い声色に翔が震え、黒鴉は首を軽く振って質問を続ける。
「真実かどうか確かめた?」
神威は姿勢を正して頭を下げる。
「まだだ、すまない」
「まぁ忙しかったから仕方ないわね…はぁ」
気まずい空気が流れ黒鴉のため息が増えていく。
「先に状況確認しましょう、混乱を避けるために内密に…」
「分かってる、どうせ…」
翔が「冗談」と言いかけると黒鴉は一段と深いため息をして遮る。
「お父様も単なる冗談ならビンタ一発だけじゃ済ませられないわね…」
神威はそもそもの疑問を投げる。
「竜は何故このような事を…」
「私が聞きたいわ…浜松と合わせると二回目なんでしょ?」
お手上げといった様子の目線で二人から意見を求められて翔は少し考えて意見を述べる。
「死を偽装しているのか…何かを伝えたいのか…」
「そうね、敵を騙すには味方からってやつかしらね…いい迷惑だわ」
三人は頭を抱えて竜司への連絡をどうやって取るかと思案する。
「個人携帯やボディガード…はどうせ雲隠れしてるわよね?メールやメッセージもダメでしょうね」
一応と黒鴉は手持ちの携帯を操作して試し、神威も何かメモを取りながら提案する。
「海外のつてがないので我も手段が…む、今回の件を元に竜の移動先のアメリカの関係者探すか…?」
「あれ?もしかして今、明確な確認手段ないのか?」
翔がそれを呟くと黒鴉は舌打ちし頭を捻る。
「海外支社…浜松の話の時期からすれば既に証跡断ち済ませてそう…じゃあ隠居の宿泊施設探し?面倒ね、神華使って調べるしかないわね…」
二人の渋い顔を見て黒鴉は安心させるように付け加える。
「中身誤魔化して調べさせるわ」
次第に冷静になり普段通り苛々した様子で黒鴉は神華に通話をするのだった。




