コード“姫”6
「さてと、黒姫が襲われたなんて聞いてないんだけど?」
早速黒鴉がギロリと翔を睨みつける。
「そうだな、どういう事かな?」
竜司もニコッと口角を上げるが目は笑っていなかった。
黒姫が二人の発言で自分が失言した事に謝りながらアワアワする。
「違うんです!その、翔君は関係なくって…!」
「でも浜松はあなたが襲われたの知ってるのよね?んで報告なしと?」
治まりそうにない怒りを向けられ翔は平謝りして言い訳はしなかった。代わりに黒姫が必死に二人に心配を掛けたくなかったと訴える。
しかし竜司が険しい顔をしてバッサリと切り捨てする。
「ダメだ、暫くの間は屋敷で過ごしてもらう、パトロール強化されるまでは大人しくしてもらう」
「そうね、浜松、あんたの出る幕は無いわよ!」
翔に向けて黒鴉がどや顔をする。
「えっと…俺はどうなるんだ?」
黒鴉が何か言う前に難しい表情をする竜司が割り込んでくる。
「勿論翔君にも来てもらう」
釘を刺されて黒鴉が仕方無さそうに舌打ちするのであった。
―――
異世界、地球によく似た星テセラ、ここは神楽の創った世界で魔法が発展した地球とはまた別の文明が栄える星である。
地球から神楽が自身の教鞭を振るう永世中立国の魔法都市の学院に帰還する。
翔から受け取った氷雨のキーホルダーを眺めて「これはこれで悪くないのに」と思いながら魔法の研究機関でもある学院の自室に戻り氷雨の元の所持者のアキトを呼ぶ。
アキトは複雑な出自で翔と同一人物だが過去を捨ててテセラで生活するいい年した男で今は神楽の助手のような立ち位置で働いている。
「何の用事だ?」
翔と違って左の前髪を後ろに流して黒いコートで木刀を帯刀している目付きの鋭い男が急な呼び出しに不機嫌そうな顔で入室してくる。
「はい、これ」
まあまあと宥めながら神楽がアキトにキーホルダーを受け渡しニコニコする。アキトは呆気に取られながら氷雨の姿に翔達と同じ反応で吹き出してしまう。
「ぶっ、なんだ!?どっかでお土産でも買ってきたのか!?せ、センスが…小学生かよ!」
「それ氷雨」
爆笑していたアキトの前に不機嫌で今にも凍らせてやると言いたげな氷雨が出て来てアキトの顔が青ざめてひきつる。
「はは…いや、悪かったって…別にお前を馬鹿にしてないからな?待て!すまんて!」
脅してくる精霊に平謝りする姿に神楽が爆笑し氷雨はそっぽを向く。
アキトは深く溜め息をついてキーホルダーを摘まみぶらぶらと揺らして感心する。
「へぇ、こういう所持方法あったのな、付けるとこ無いから失くしそうだが手荷物は減るな」
氷雨を刀の姿に戻して木刀と同じように腰に添える。
神楽は机の上のスクロールを手に取って装備を整えたアキトに依頼を出す。
「赤の国で研究用の鉱石を受け取ってきて欲しいの、はい注文書」
「うげ…俺に頼むのかよ」
「だって早急に必要になっちゃって、じゃよろしくね」
注文書のスクロールを受け取りアキトはタメ息をつきながら遠距離移動の為に魔法薬を受け取りに学院内の行きつけの研究室に向かう。
「シュメイラ、居るか?」
「あ、アキトくーん、ふひひ」
引き笑いと白衣で猫背が目立つボサボサ髪の学院の先生で神螺の異世界出身のシュメイラが出迎える。
「またクマが酷いな、寝てないのか?」
「寝てるよー、ふひ…さてとご所望はどの薬かな?」
世間話をしながらアキトは神楽からの依頼について伝える。
「成る程ぉ、じゃあ行き帰り転送陣と…何時ものだね?」
戸棚から見るからに不味そうな薬の入った小瓶数本と黄ばんだ紙を二枚アキトに手渡す。
「…相変わらず不味いのか?」
「お薬をごくごく飲むのは良くないからね?ふひひ」
アキトは不味いと評判の薬の味を思い出して舌を出してえづく。
「それじゃアキト君、気を付けてねぇ」
シュメイラに見送られながらアキトは学院を出て魔法都市を守る城壁を抜けて転移の準備を始める。
(お土産か、そうだ二人に何か買ってきてやるかな)
雑念を持ちながら魔方陣を作成してその中に不味い薬を飲んでから侵入してテレポートして山岳地帯の軍事国家の赤の国に向かうアキトだった。