コード“姫”5
翌日、同僚達からまた翔が社長からお呼び出しを受けていると哀れみの目を向けられながら仕事場から何時もの会議室に向かうと覚醒者の集いのリーダー格の一人で俳優の久坂健吾が黒鴉の横に立っていた。
「浜松か、どうやら結構厄介な話らしいね…」
黒鴉から大体の事情を聞いているらしく結界の対策を聞くために来ているようだった。
黒姫と竜司も別で待機していて最後に到着した翔を見て相談役として呼ばれた神楽が話を切り出す。
「何やら武器が呼び出せなくなって困る事態が発生しているようじゃない?」
黒姫が肩を落としぼやく。
「困るどころか死にかけました…」
その言葉に黒鴉と竜司がムッとする。それを見て黒姫は口に手を当てて失言に汗を垂らす。
機嫌を悪くした怖い二人は黒姫が巻き込まれたという話について翔へ物申したい事があるとひしひしと伝わってくる。
話を止められたくないと神楽が怒れる二人を無視して結論を述べる。
「今使っている異次元格納が使えないとなると…武器の携帯をすることになるわね」
久坂が腕を組みそれはそうだがと頷きながら地球での問題点を伝える。
「この世界じゃ武器の携帯は基本認められてない…そう簡単に常に持っていろとは行かないんだ」
皆が久坂の言葉に強く賛同して神楽を見つめる。
大丈夫と言いたげに神楽は笑って答える。
「そうよね、だから知恵を借りに呼んだのよね!大丈夫よ、異次元格納が産み出される前の古典的な持ち運び方法があるわ」
神楽は指を鳴らして武器の詰まった不思議な旅行鞄を出現させて中から入るはずの無いサイズの長い杖を取り出す。
「見てて、このようにするの」
杖がポンと根付のような形になり全員から感嘆の声が漏れる。
「ストラップ?悪くないわね、どうやるの?」
黒鴉が自身も剣を呼び出してどうやるのか尋ねる。
「呼び出す時と同じよ?小さく持ち運びやすいイメージで、そうアクセサリーなイメージ!」
「単純ね、イメージ…!アクセサリー!」
黒鴉の武器はまるで土産屋にある剣のキーホルダーのような形になる。
「お嬢…なんですかその小学生が喜ぶお土産は」
「う、うっさい!こういうのが急に頭に浮かんできたのよ!」
久坂が茶化すように半笑いで指差すと黒鴉が顔を真っ赤にして恥を隠すように怒る。
翔も他人事じゃないなと苦笑いしていると黒鴉がそれを察知して指差してくる。
「浜松!あんたもやりなさい!今ここで!」
「絶対道連れにする気だろ!」
翔は自身が使う三本の刀、焰鬼、氷雨、雷怨を取り出してキーホルダーを回避しようと色々考えるが思い付かず結局は黒鴉と似たようなお土産になる。
「ダメだ、黒鴉の土産キーホルダーに引っ張られてしまった!」
言い訳する翔の悔しそうな表情に黒鴉が腹を押さえ指差して下品に爆笑する。竜司も黒姫も目を逸らして久坂も必死に笑いを堪えている。
「刃物…いや武器は大体こうなるって!…笑うなよ!」
持ちやすいじゃないと神楽は一度はフォローするが想像力の欠如だと説明する。
「別に本体をそのまま縮小しろなんて言ってないわよ?個人で分かって携帯しやすければそれでいいんだから」
久坂が成る程と呟き細剣をブレスレットのようにしてみせる。
「便利だな、魔法は専門外だがこれは面白いな」
「ふふ、興味があるなら教授してもいいわよ?いつでもお仲間連れて私の世界にいらっしゃい」
セールストークに移ろうとする神楽を竜司が止める。
「あんまりうちの社員を誘惑しないでくれたまえよ、やるにしても研修という形で呼ぶ方がわたしとしては便利なんだが…」
「あら、それでもいいわよ?魔法を広めれるならね」
神の二人が愛想笑いに近い笑い声を上げ神楽が翔にお願いをしてくる。
「あ、そうだ。氷雨をアキトに戻したいんだけどいいかしら?彼ったら他の武器使わないって、いつも木刀ばっかりだから」
「え?はい、分かりました」
急な話に驚いたが翔はキーホルダーになった氷雨を神楽に手渡す。
「ありがと、それじゃあまた何かあったらよろしくね」
神楽は竜司から謝礼なのか封筒を受け取ると立ち上がって一礼して自身の世界に帰っていく。
黒鴉は伸びをして久坂に今回の件の伝達を依頼する。
「じゃ久坂、周知よろしく!後はオレンジのつなぎ服?作業着?の変人が居たら警戒ね」
「了解しました」
久坂は足早に去っていくと黒鴉と竜司が翔を睨むように見つめてくるのだった。