エピローグ1
新しい朝、鳥の鳴き声と遠くから響く車の走行音にうなされながら目覚める黒鴉。
寝惚け眼を擦りながら身体を起こして誰も居ない神藤邸を見渡す。
(あ…私本当に一人になってしまったのね…)
いつもは妹が居たが今はもう居ない。そんな情景に物悲しさを覚えて溢れた涙がホロリとこぼれ落ち幾人ともした問答を思い返す。
(私は別に…浜松とは…お父様もお母様も妹までも側から一気に居なくなって実感が沸かないだけ…すぐに慣れる。慣れてしまえるんだから)
ポータルを使って居候組に乗っ取られた浜松家へ向かう。
しかしそこもしんと静まりかえっていてリビングから顔を出して見回す。
(誰も…時間間違えてる?)
時計を確認していつも通り朝食の時間だと台所を見る。妹が弁当の用意をしているように感じるがやはり誰も居ない。
今見ている光景全てが夢物語だったような感情が湧き上がり自分自身も朧気な感覚になる。
指定席に座りぼーっと天井を見つめてポカンと口を開き声が出るか確認する。
「あーーー」
虚ろな瞳をしていると物置きがガタガタして黒姫が出てくる。
「やっぱりここに居た。何してるんですか姉さん」
死んだ瞳で妹を見つめてまた口から音を出す。
「もう!ちゃんと話しましたよね?慣らすために居候組含めて一日は接触断つって…もう」
「なにそれ…」
夫婦の時間を作るためには皆との接触を断つのが一番としてまずは一日浜松家から離れようと皆で取り決めしたと黒姫はダラシない姉を叱る。
「もう髪も整えてないし…新社長として威厳を見せないと…!」
「アンタは何で来てるのよ?」
妹の叱責を無視して黒鴉は妹が有言実行出来てないと指摘する。
「わ、私は…ほら!冷蔵庫の中身使わないとって…」
「でも『やっぱりここに』って…まるで私を探して…」
「姉さん!細かい事はいいんです!ちゃんと着替えて身嗜み整えて!サンドイッチ作っときますから!」
背中を叩かれて黒鴉は家から追い出されてしまう。
黒姫は困った人だと呆れつつ多めにサンドイッチを作りラップしてリビングに用意しておく。
(翔君の杞憂通りですね…一日でなんとかなる訳ないですよね)
手癖で多く作り過ぎたサンドイッチ、お昼までには代わる代わるやって来た仲間達がサンドイッチを食べてしまい黒姫が次に掃除に来た時にはそれぞれの感謝とでもやっぱり寂しいというメモが残されていて黒姫は小さく溜め息をつく。
遠くない未来、どんなに仲が良くても完全に離れ離れになるのにこんな調子じゃダメなんだと気付かされるのだった。
それでも雰囲気で淡々となあなあで流れて行く日々、大きな動きがあったのは半月程した頃だった。
「翔、いえ、アキト!約束の反故が他にもあったみたいね?」
理の外の神鳴がアキトに詰め寄り観衆の前で一騒動起こす。
「お前が寝ている間の事だし全力じゃない…それに必要と思ったから…!」
「ダメよ!世界を救う為に使った一回は見逃すとして私闘に使ったわね?」
こっちの神鳴の記憶経由で少なくとも神螺相手に使った事を指摘される。
言い逃れは出来ないとアキトは肩を落とす。
「仕方ないな…片道切符じゃねえよな?」
「終わったら帰す。今まで通りよ」
周囲に口を挟む機会を与えずに話が決定して慌てて責任者として神楽が止めに入る。
「ちょ、ちょっと!ウチの職員なんだし…困るわ」
「早ければ一年で戻るわよ」
一年は早いのかと全員が白目になる。アキトは神楽達になる早で帰ると軽い調子で謝る。神楽は尚も確認する。
「一人で行くの?」
「あー、うん。まあ一人で…だよな?」
神鳴は別に志願するならいいよと他のメンバーは困惑する。娘達は旅に行きたがるがアキトが止める。
「お前らは方舟がある。あっちの方が安全だ」
神鳴が何それと興味を示すが関わらせたくないアキトは今はコッチだとまた自分を犠牲にさせる。
「じゃシュメイラ、神楽が駄々こねた時は頼む」
「ふひひ、分かったよ。私達には不必要だけどね?」
全員首を傾げる中でアキトは白目を向きながら神鳴の指パッチンで何処かへ転送されてしまうのであった。
「…行っちゃった」
神楽はポカンとするがトウコに肩を叩かれる。
「じきに慣れますよ。アキト様って結構奔放でしょう?」
「帰りを待つのも…というやつね」
全員アキトなら大丈夫だろうと確信していて外の神鳴の勝手は良くないと思いつつ日常に戻っていく事にするのであった。




