コード“末”6
方舟はメンテナンスとして神威のコロニーへ転送する事になりメンバーは解散することになり神螺達は一時故郷の管理に戻りアンナはマークと共に未来テックへ報告に、鳴美達は神楽の世界へ戻る事になる。
鳴美達はアキトと神螺の闘いを見て触発されてトレーニングをしてから行くと夕食時まで技研に滞在していた。
黒鴉が監視する為に残っているととある人物が技研にポータルを使い訪ねてくる。
「こんばんは。テスタメント、鳴美はまだいるかしら?」
和装の神威製ボディの人と見紛う姿のマザーがわざわざ黒鴉に声を掛けてくる。
黒鴉はそんな意外な来客に顔を顰める。
「マザー?!何で入ってきてんのよ!?」
「あら、自分の教育を施した弟子の帰還を出迎えるのは悪い事かしら?」
「未来テックとまだ繋がってない?ウチの技研はフリーパスじゃないわよ!?」
人の出入りが激しくて黒鴉は頭を痛める。
申し訳無さそうにしているミレイを侍らせたマザーはトレーニングしている面々を見てクスッと笑う。
「ふふ、血生臭い闘いか…今の珈琲豆栽培している我々とは違うな」
ミレイはマザーの言葉にペコペコしながら肯定して黒鴉は呆れていた。
鳴美はマザーが来ていると知って嬉しそうに寄ってきて丁寧にお辞儀する。
「お久しぶりです!」
「数カ月で『久しぶり』か…人間の寿命は短いからな」
マザーのロボットジョークに鳴美はクスッと笑うが黒鴉とミレイは微妙な顔になる。
黒鴉は挨拶だけなのかとわざわざやって来た理由をマザーに尋ねる。するとマザーはにこやかにとある袋を見せる。
「折角だからお手製の珈琲豆でもと思ってね」
「せ、折角…?」
コーヒーへの拘りは人一倍と黒鴉と同じ感性のマザーが持ってきた豆に黒鴉は興味を示す。
鳴美は苦みは苦手とマザーに話すと少し考えてミレイと顔を見合わせる。
「カフェオレ用の豆と砂糖、ミルクはあるか?」
「いえ、そこまでは…」
マザーは険しい顔をしてそれらも揃えるしかないなと探究心に余念の無さを見せる。
鳴美は少し困惑しているとそんなやり取りを見ていたアキトがやってくる。
「鳴美、何やって…ん?マザー?そりゃなんだ」
手に持っている珈琲豆にアキトは反応する。
「成る程、珈琲豆か。カレーの隠し味に使えるんだよな。香りと苦みがいいスパイスに…」
「カレー…だと?」
そんな使い道は想定外だとマザーはチラッとミレイに目配せする。
「無理ですよ!カレー専門に開発なんて!」
「う、うむ…正規の使い方ではないものな」
自分を自由にしてくれた恩人の言葉に惑わされるが目標はあくまでも至高の珈琲であると冷静になる。
「カレーの為に合わせた珈琲なんてそれはそれでおかしいよな。でもそれ試したいし粉にするならちょっとくれ。良かったら鳴美に渡してくれ」
アキトも明るく笑って娘に帰還時刻間違えるなよと注意するのだった。
黒鴉はマザー達の話が終わったのを見てジッと珈琲豆を見つめて人差し指を立てる。
「いっ…1杯頂戴できるかしら?勿論ブラックで…」
「ふ、眠れなくなっても知らないからな?」
マザーの得意気な顔に鳴美は効能的にか感情的にかどっちなのかと疑問に思うのであった。
夕食時に帰ってきた黒鴉はAIの別時間軸の自分の写し身の作る至高の1杯にやられて呆けた顔をしていた。
「はあ…」
何度目かの溜め息に我慢出来なくなって玉藻前が呟く。
「なんや黒鴉、気持ち悪ぅ…」
そんな悪口すら聞き流す黒鴉に全員がダメだコリャと苦笑いする。
「あれでまだ未完成というの…?コク、キレ…深み…」
マザーの探究心に舌を巻くばかりの黒鴉を見て神鳴はそんなに凄かったのかと、どんなものだったのかと聞きたくてウズウズする。
黒鴉を正気に戻す為に空気を読んでアミラが地雷を踏む事にする。
「コーシーなど苦いだけではありませんの?高貴な飲み物とは呼べませんわ」
「ぬわんですってぇ!?コーシー?!」
「ツッコむ所も間違えて…ほら、シャキッとなさいな」
黒鴉はさっきまで自分の意識が完全に浮ついていた事を思い出してハッとする。
「私も…やっぱり何か極めないといけないわね…」
変な覚悟の決まった台詞を呟くのを見て全員やめておけと内心思うのであった。




