コード“華”13
自室の前まで来た翔は部屋の前で壁に寄りかかって乙女チックな仕草をしている黒鴉と遭遇する。
黒鴉は予想外な所から翔がやってきたことに顔を真っ赤にして喚く。
「あ…アンタ!なんでそっちから来るのよ!?」
「仕事行こうと思って…研究室の様子見に行ってた」
理不尽な言い分に苦笑いしながら伝えると表情をなんとか元に戻して平静を装いながらゆっくり翔に近付く。
「私…お母様と話して考えたの…」
「お、おう…」
翔は嫌な予感を感じ取り黒鴉の歩幅に合わせて後ろに下がる。
「…なんで離れるのかしら?」
「そういう時はろくな話にならないだろ?」
黒鴉はムッと不満げな顔をするがやれやれと仕草をして呟く。
「正攻法で落とすのは無理か…」
「え?落とす…?」
「そうよ、私のものになりなさい」
言ってる意味が分からず首を傾げる。
「あー、えーっと黒姫が聞いたら殺されるぞ」
「…勘違いしてるわね、愛や恋の方じゃないわ!部下として、苛めの対象として私のものになりなさい」
「同じようなもんじゃないか…?ストレスの発散ならサンドバッグに当たってくれ」
説明に納得いかない翔は冷たくあしらう。
「…はぁ、私に世間一般のサンドバッグが合うと思う?」
「知らん、最近おかしいぞ…いや、前からか…愚痴なら聞いてやるぞ?今日仕事なくなったし」
翔はだから着替えさせろとアピールすると黒鴉は小さく頷いて道を空ける。
ラウンジにて朝食を取りながら二人向かい合い話し合う。
「悩みあるなら聞くって言ったが…無茶な要求はするなよ?」
黒鴉は珈琲を一口飲んでから片目を開きじっと翔を見つめて質問する。
「妹…黒姫とはどのくらい長い付き合いなの?」
「え?…あー、二、三年?いや、改編あるしもっとか?」
翔は黒鴉からの質問の意図が読めず呆気に取られる。
「私とは?」
「えっと…一年位か?」
黒鴉が頷きニコニコする。
「私と対等にそんな長い期間一緒にいるのはアンタ位…」
翔はふと荻原の顔が浮かび名前を出す。
「あの、おぎ…」
「対等に…分かる?」
発言を黙殺されて翔は「はい」としか言えなかった。
「つまり、相棒、パートナーとして認めるって話よ」
ドヤ顔しながら珈琲を飲む黒鴉に翔が笑顔で答える。
「相棒か、友達とかじゃなくて?」
一瞬の沈黙、黒鴉はプルプルと震え聞き返す。
「とも…だちぃ?」
「お前学校とか…」
「がっ…こう?通信教育やらで全て義務教育の範囲を済ませてずっとビジネス、お父様の後継者として…」
急に早口になり目が泳ぐ。
地雷を踏んだと翔は黒鴉を落ち着かせる。
「わかった!落ち着け」
同年代の知人がいない事を知り翔も冷や汗を流す。
「はぁはぁ…私…、やっぱりアンタといると調子が狂うわね」
「人間関係の構築方法が歪すぎるんだよ」
「う、うるさい!あー!やっぱり嫌いよ嫌い!ご馳走さま!」
機嫌を悪くした黒鴉が結局何時ものように去っていく。
入れ替わるように黒姫がやってくる。
「おはようございます。最後のは直球過ぎですよ?」
「見てたのか…人が悪いなぁ」
黒姫に見られていたのにドキッとする。
「ちなみにずっと見てましたよ?」
「怖いって…」
ニコニコした様子で黒姫は紅茶と玉子サンドを頼み翔をじっと見つめてくる。
「私は姉さんにもちゃんと幸せになって欲しいです。でも姉さんは友情や愛情というものがいまいち理解できないみたいで」
「相手が今まで居なかったから…とは思う、でも今はミナや神華がいるし」
朝食を終えて翔は手を合わせて「ご馳走さま」と呟く。
黒姫はサッと翔の残った紅茶を自分の方に寄せる。
「お前なぁ…」
「え、あー…」
調子に乗ったと黒姫が誤魔化し笑いするが翔は首を傾げ違和感を覚える。
「お前紅茶派?」
「え?はい、珈琲は苦くて好きじゃないので…」
更に踏み込んだ発言をする。
「俺の飲みかけ何度か飲んでる?さっき躊躇い無かったけど」
「…うぅ…飲んでます」
顔をそらして恥ずかしそうに自白するのを見て翔は険しい顔をする。
「あぁそういうことか、黒姫それ飲んでいいぞ」
翔は席を立つと黒姫は少し考えてから翔の残りをさっと飲み終えるのだった。




