コード“塔”4
魔素が無くなる事で今起きている不都合と共に覚醒者が消える。その言葉に翔は愕然として言葉が出てこない。
ヨロズはその様子を察して色々と補足してくる。
『そうだな、君達のような覚醒者が消えるというより力が失われる。驚異的な身体能力、魔法適正、そして精霊術。精霊は姿そのものを維持できなくなるだろう』
あらゆる神秘は失われ翔は全て無かったことになるのかと漠然としたイメージが口から出る。
『それは違うな。有ったという事実は消えないだろう。今、この世界に取り巻く魔素システムが完全に失われる』
仲間達との関係は無かったことにならないという言葉に翔は安堵するがヨロズとツムギはそんな翔に喝を入れる。
『問題はそう単純ではないぞ!』
『そうだよK!神秘を失ったら大変になる事が身近に沢山あるだろー?異世界モールもそうだけど…兎に角それはヤバいんだって!』
既にこの世界の基盤になりつつある魔素による技術を失う事は新たなパニックを引き起こす可能性が高いと科学者二人は説く。
ヨロズは実体験を元に語る。
『護衛の二人…いや三人共に体調の不良を訴えたな?実はワタシも少し呼吸が苦しくなってな…そんな状態がゆっくり、じわじわと人々を襲う。いや、キミの大切な魔物の仲間、異世界人には苦痛にも近い症状が現れるかもしれん。帰還する為の扉も失われる』
畳み掛けるように幾つも情報を流され困惑するも放っておけば危険だと警鐘を鳴らされ翔は気を引き締める。
「ど、どうすればいい?」
『分からん…現状天高く伸びるソレを破壊しても大災害…内部調査する他に無いだろうとは思うが』
余りにも情報が無く危険しかないとヨロズは語る。
『神威も知ってるけど混乱招くだろうって伏せるらしいけど…時間の問題なんだよねぇ…』
情報を隠すことにしているとツムギが伝えてきて孤独に知らされた翔は頭を抱える。
「なあ世界から魔素が無くなる目測ってどれくらいなんだ…?」
ツムギは唸りながら答えを推測する。
『長くて一年?…それでも日本が一番近いから…』
『魔素に流れというものがあるなら南米辺りから不具合が発生し始めると思われる』
ポンプで吸い上げられるのと同じ理論なら遠い所から失われていくとヨロズは話す。
「物理的な問題が起きて壊れないかな…」
『壊れたらそれはそれで瓦礫やその余波で日本が大被害だな』
「詰んでる…近付けば魔素が吸われて何も出来ないし…」
絶望的だと嘆く翔に対して博士達は対策を考えると元気づけて通話を終えるのであった。
妹にめいいっぱい愚痴ろうと先に帰宅した黒鴉はだらしない様を見せる。
「姉さん…忙しいと思いますがそんなに気の抜けた顔しないで下さい」
晩御飯の調理中の黒姫は優しい言葉で叱る。情けない声を漏らして黒鴉は世間に対して抗議する。
「だってぇー、あの黒爪楊枝が頭を悩ませるんですものー」
「結局アレなんなんですかね?新しい魔窟だとかいう噂もありますが…」
話題に付き合って鬱憤を晴らさせようと黒姫は会話に挑む。しかし神威から不明の一点張りされた黒鴉はその事で文句を言い始める。
「知らぬ存ぜぬ…で不甲斐ない調査結果だってさー」
「そうなんですね…あんな大きなものがいつまでもあったら不安ですよね」
適当に話を合わせながら鍋をかき混ぜる黒姫に姉は不服そうに頬を膨らませる。
「はぁー攻め込みたい。破壊したいわー」
「壊したら瓦礫がどうなるか…最悪東京直撃とかしますよ!?」
「それは困るわね…」
黒姫は博士達と同じ事を言って姉を冷静にさせる。
丁度そこに玉藻前達の異世界組が帰宅し同じ塔について色々と話題を振りまく。
「ただ芋ー。黒鴉ーあの塔の新情報ないんか?お客さんが不安吐露してて心配やねん」
「無いわよ!…同じ話したくなーい」
テーブルに顎を乗せて黒鴉は抗議して仕方無いと黒姫が調査結果について話す。何もなくただ不気味に聳え立つと聞かされて玉藻前は怪訝な表情をする。
「ホンマかぁー?なんともあらへんってのも奇妙やな…」
アミラが肩を回しながら玉藻前に同意する。
「そうですわよね。アレも神鳴さん不在の影響なら人々の意識の表れなんでしょうけれど…」
「別にネガティブ方向だけが具現化する訳じゃない…何かしらの効能があるのかも…」
リョウがボソッと核心を突く事を呟く。黒鴉は巨大過ぎると文句を言う。
「でも不安にさせるような不気味なデザインじゃない?」
全員「それはそう」と頷きながら食卓に付く。翔はまだ少し遅れているが急かす玉藻前に少し早く夕食を配膳することとなるのであった。




