コード“塔”1
覚醒者達の働きによる平和に感覚麻痺していく社会の中で魔窟の発生報告も減ってきて短期間で目まぐるしく動く。
通勤する翔も満員電車に揺られ窓の外を流れる見慣れたコンクリートジャングルに味気無さを覚える、
(朝から満員電車、あんなに騒いでいるのに意外と人間は図太く生き残るものなんだなぁ)
ちょっと不謹慎に片足突っ込んでいる思考に疲れが出ていると言い訳しつつ目的の駅で降りる。若いのに肩と腰にコリを感じて軽く解しながら改札を出る。
肌寒い空気、すっかり冬だなとコートを出さないとと考えると同時にアキトの黒コートが脳裏に浮かび頭を振ってベージュのビジネス用だと苦笑いしてしまう。
神藤ビルまでの道中も人の通りが多く信号待ちの人集りに翔も足止めされる。
普段は見ない方角をチラッと見て雲一つない晴天と眩しい日光にいい天気と日和見していると遠くに天を突く程に長い柱のような物が見える。
一瞬何かの見間違いだと信号が青になると同時に歩みを始めるが「ンな訳あるか!」と自分自身にツッコミを入れながら華麗な二度見をする。
間違いなく太平洋側の方角に内地からも見える巨大な建造物が見えるのだ。
周囲の人は特に気にしていないのか立ち止まってツッコミする翔を奇異な目でジャマだなと思いながら避けて行く。
(ありゃなんだ!?俺は何も知らないぞ!?)
情報収集には余念が無い翔だったが初見で不気味なソレについて全く思考が定まらず神威の仕業かと疑いながら急ぎ足で会社へ向かい黒鴉に質問する事にするのであった。
出社してすぐに連絡を取り社長室へ向かうと黒鴉は席を立って窓に手を当てて遠くに見える塔とも柱とも思えるソレをジッと見つめていた。
「黒鴉、ありゃなんだ?!」
「知らないわよ。私も今朝初めて見たわ」
現在調査中と席に座りパソコンの画面を見せてくる。
「一応ニュースにはなっているけど何処の組織も知らぬ存ぜぬって所ね」
「一般人はスルーしてたぞ…見えてない訳じゃないのか」
「そもそも認識したとして天を覆う訳でもなく視界の端っこに黒い棒が見えるだけだし…ってか通勤中に騒いでないでしょうね?恥ずかしい」
ちょっと騒いで変な目で見られた事を思い出して翔は顔を赤くして顔を逸らす。図星かと黒鴉は呆れつつ一つの可能性を提示する。
「魔窟…いえ、魔窟に似た何か…かもしれないわね」
「集団意識が新しく創り上げた…?情報操作はしたのか?」
「おバカ、してたら正体掴んでるわよ!」
既に噂は錯綜しているが出現の切っ掛けはやはり不明だと黒鴉は呆れ返る。
「兎に角情報が入るまでは落ち着いて頂戴。視界の端っこの黒い爪楊枝程度に考えなさい」
「それはそれで気になるんだよなぁ…」
頭を掻いて戸惑う翔を黒鴉は注意する。
「ほら仕事に戻る。私もこの後はタレントの仕事あるから不在よ?ま、何かあったらグループチャットに書き込みなさい」
「え?何それ知らない」
黒鴉はしばし思考停止したようにポカンとした後覚醒者の集いグループじゃなかったとポンと手を打って家族用の新しいルーム作っとくと翔を現場に送り返すのであった。
東京湾から外海の太平洋上にそれは生えるように立っていた。
海上保安庁の船とヘリが出動して安全の確認を始める。
慎重に近付く船、その乗組員は緊張した表情でカメラで塔の近影を撮影する。明らかに人工物であろう直線的な彫刻が施された外壁に思わず息を呑む。
「こ、これは何でしょうか…」
「分からん…分からないが危険があると判断されれば我々がまず何とかしなければならない」
外周を回りヘリの乗組員とも連絡を取る。
「そちらから侵入出来そうな箇所はあるか?」
『いえ、見つかりません。しかしどこまで伸びているのでしょうか…』
「何も分からない以上は簡単に手出し出来ない…一度戻って学者を連れて来るしかないな」
今できる情報の収集を終える乗組員は眼の前の謎に怯えながら帰還するのであった。
その報を受けて撮影の合間の黒鴉は険しい顔をして神華と連絡を取る。
「専門家が必要なのよね?神威達を使えないかしら?」
『護衛が無ければ彼らは多分合意しませんよ…』
「いつメン使えばいいじゃない。私も必要とあれば行くわよ」
神華は実は黒姫から釘を刺されていて翔や姉を使うのを渋る。取り敢えず集いのメンバーを選出して使う事にする。
『と、取り敢えず加藤、猪尾、水戸の三名を護衛に向かわせます』
「いいわね水戸!海なんだから人魚モードで水中も調べさせなさい」
ナイス名案と黒鴉の声が明るくなり神華は小さくガッツポーズを取り早速メンバーを集める事とする。




