コード“窟”10
後から翔達が来ることなど知りもしないアキトは増えた手荷物に一回持帰りするか悩まされる。
「どうせ攻略しないと交通費出ないんだろうなぁ…黒鴉ケチだろうし」
移動中の黒鴉はくしゃみをした。
「帰るにしても言い訳が…トウコは納得してただろうが神楽にバレてないかなぁ黙って出ちゃったし」
今度は神楽がくしゃみをした。続けざまのくしゃみに二人は顔を見合わせ翔は風邪を移すなよと怪訝な顔をしたのであった。
獣だけじゃなく生成されたゴブリン達が踏み均した獣道を進み先人が作った地図を頼りに奥地へとアキトは着実に足を進める。
さっきの戦闘で食事なんてグチャグチャになると理解したアキトはおにぎりとペットボトルのお茶を口にする。
(手癖で炭酸飲料にしなくて良かったー、というかビニール袋片手ってのがナンセンス過ぎるよな…)
そう思い返して自分の格好に苦笑いしてしまう。ちゃんとした探索するならバックパックや安全靴はしておくべきだったと後悔しているとガサガサと草むらが揺れて素早く臨戦態勢を取る。
アキトは飛び出して来ない様子にもしかして生存者かと警戒したまま音のした方へ声を荒げて喋り掛ける。
「誰だ?!出て来い!」
反応が無いのなら無理して相手する必要はないと大きく舌打ちし威嚇しておいて先へ進む事にする。
地図の切れ目に到達して左右を確認して特段危険が無いことを確認して小さく溜め息をつく。
(驚異を感じる程の気配も無しか…気になるのは後ろからついてきている気配か…人ならさっさと帰って欲しいんだがな)
無駄な時間を使う訳にはいかないと地図の作成に勤しむこととする。
広大な地図になる予感に日帰り出来るのかと冷や汗を流しつつ苔の張り付いた宝箱を見つけて「おっ」と興味を示す。
ダメと氷雨から注意されつつアキトは木刀でコンコンと突付く。
「いやー、腐ってそうなのはそうだけどさー。気になるじゃん?」
無駄に罠が暴発しないかなと期待していたが何事も無くパカッと開き水晶のような鉱石の塊が入っていて渋い顔になる。
「こんなモン持ち帰れないよな…」
ご飯の入っていたビニール袋に入れても重くて尖ってて破れそうと肩を落として宝石の原石ならいい値段になるのかなと思いつつ諦めてその場を離れる。
言わんこっちゃないと氷雨から呆れられてアキトは苦笑いする、
「仕方ないだろー、ああいうのは中を見るまでが楽しみで簡単に持ち帰れるなんて思ってないよ。え?ポケットサイズだったら?ハハッ…入れてたかな」
手荷物は増やせないと諦めてその場を後にするのだった。
樹海を小物を倒しながら進むうちにアキトはこういう所の噂を思い出し氷雨に語りかけるように話す。
「磁場の狂い、幽霊はー…考えない方がいいな」
苦手なものを想起する必要はないと苦笑いして首を横に振る。
「噂や記憶、感情が形になる…か。嫌な空間だ」
大勢で挑めばそれなりに危険の具現化も多そうだと苦戦の理由を分析しつつ小川が流れているのを見つける。
(うーん、生水はまずいよな…煮沸するには道具も無いし…補給は出来ないか)
サバイバルな思考をするが無理なものは無理と諦めて近付かないようにして道を探す。
小川を越えると獣の足跡も見つけて野生か魔物かと緊張しながら周囲を確認する。
「蹄…イノシシ?まだ新しいか…?」
こんな魔窟も野生生物には関係無しかと呟くと眼の前に武装をした小鬼が数匹現れる。
「ゴブリン以外もいるのか…鬼?小物のごった煮だな」
豊富な種類の敵に縄張りもあるのか小川が境界線のようだった。仲間を呼ばれる前にさっさと終わらせようと先手を打って撃破する。
(ま、性能は据え置きか…装備は魔物由来か)
ここら辺では脱落者はいないようで箱も新たに見つかることも無く少し安堵するも氷雨から注意を受けて気を引き締め直す。
(敵が強くなるなんて事もある…ちゃんと使命感と覚悟を持って行かないとな)
深部は一体どうなっているか不安になりながら進むと地面近くに幾つも地下への穴が開いているが嫌な予感を感じつつ落ちないように慎重に足場を確認する。
(あー、これは巣穴にされてるかもな…安易に覗かないほうがいいな)
ボスがいる雰囲気ではないが厄介なことになるのは御免だと大きな音を立てないようにするのであった。




