コード“華”11
夕方になり皆精神への干渉が薄れて今度は空腹でへばっていた。
ヨロズは机に顎を乗せお腹を抱えて唸っていた。
「うーん、動く気が起きない…餓死するかも」
その様子をツムギがゲラゲラ笑う。
「Kに習って幾つかご飯買いに行って正解だったよ」
「職務中に食べるなんてマナーのなってないヤツね…」
目の前でパンを齧るツムギに怨み言を呟くが知らん顔をされる。
「ちょっと寄越しなさいよ」
「倍額払うならー、へへへー」
迷うヨロズだったが財布を取り出してなけなしの小銭を投げて隠れて食事を取る。
「僕商売上手になれるかもー」
調子に乗ったツムギを注意するように神威が軽くげんこつを入れる。
「全く、仕事中だぞ」
「あいたっ!えー、でもほら皆ダウンしてるし」
神威が先程のヨロズのように集中力を切らしているのを見てため息をつく。
「アフターケアも大事だな…しかし全員で一斉に行っては意味がない…取り寄せするか」
神威の言葉に皆好き勝手に寿司だのピザだのと注文をお願いしてくる。
「出前などと我も世俗的になりすぎだな…」
パパっと手慣れた動きで神藤の名を使い注文を無理やり大至急で通して手を叩いて注目を集める。
「全員、食事の前に新しい仲間の紹介だ!」
神威の合図で神華に連れられてカスパーがペコペコと頭を下げながら前にやってくる。
「か、カスパー・テレンスです、一応ツムギ博士とヨロズ博士の…仲間?です」
「なんで疑問系ぃ?!」
照れ笑いするカスパーにツムギが手を振って抗議する。
神威はカスパーの手を握りあっている神華に注意する。
「神華、距離が近い…少しは隠せ」
普段絶対見せない緩みきった表情の神華に一部ファンの研究員がどよめいていた。
「えへへ」
「聞く耳持たずか…尊厳が失われているぞ」
神威に小突かれてやっとハッと我に返って姿勢を正すが時既に遅し、遠くから見ていた翔と黒姫も二人の様子にほっこりとしていた。
納得のいかない顔をする黒鴉が翔と黒姫の二人の間からぶつぶつと怨み言を呟く。
「リア充爆発しろ…リア充爆発しろ…神華め…マウント取る気なら…」
「落ち着け黒鴉、二千年越しの叶わないはずの恋だぞ?」
「うっさい、どうせ私は独り身よ」
出た泣き言を黒姫が慰めるように背中を撫でるが黒鴉がふと我に返ってキッと睨む。
「アンタらもリア充だったわ!?」
「姉さんまだ二十歳になってないんですよ?何絶望してるんですか…」
「…あ、そうだった。周りが大人過ぎて忘れてた」
若さで勝負と息巻いてコロッと表情を変えて鼻歌交じりにどこかへ歩いていく。
「あいつ情緒大丈夫か?」
「切り替えの良さと行動力の化身ですから…」
「行動力あるのに恋愛はダメなんだな」
心配する翔だったが実妹の言い分を聞いて少し納得してしまう。
「そういえば海外…竜司さんは大丈夫だったのか?」
神威の横の大型のスクリーンにある日本地図は無事全部確認完了で終わったがふと翔は海外はどうなのか気になった。
「父さんなら私が連絡した時は問題無さそうでした、そのあと神華さんの能力で…」
黒姫は急に滝のように汗をかく。
「そのあとの確認…忘れてました…」
「連絡来てるだろ?携帯は?」
黒姫はサッと携帯を確認するが特に父から通知が来ていない事に不安を覚える。
「…連絡ありません」
二人は青ざめて神威に向かって叫ぶ。
「海外の様子確認できた人います!?」
神威がやれやれと言いたげに目配せして答える。
「安心しろ、既に各国でも対応完了の話は来ている、終戦だよ」
黒姫はその言葉に不安を覚える。
「ならどうして連絡の一つも…」
神威が続ける。
「竜からの連絡がないのは多分通信網かインフラがやられたのだろう?明日には復旧するさ」
一抹の不安が残る話でカスパーの紹介が終わり神威は時計を確認する。
「翔君、悪いがラウンジで出前の受け取りをお願いするよ、皆腹ペコで動けないんだ」
「…はぁ、わかりました」
どれだけの荷物になるかこの時想像もしていなかった翔は黒姫達も呼べば良かったと後悔するのだった。




