コード“窟”8
翌日、普段通りの日常を過ごす面々と異なり黒鴉はドンヨリとした気持ちでアキトを訪ねる。
(嫌だわぁ、どーせ自慢話とかされそう…)
食堂で待ち合わせをして先に縮こまって座っているとアキトが欠伸をしながら怠そうな目をしながら現れる。
「よっ、黒鴉一人か?ほれ、機能の…未来テック製みたいだな。使えるコードが色々と違うな」
「イジったの!?…もう、一応レンタル品なんだから丁重に扱いなさいよ」
「レンタルなのか?!捨てられてたから雑に使っていいものかと…」
場を和ませるジョークのつもりなのであろうが笑えないと黒鴉は白けた目を向けて箱を受け取る。
「何処で回収したの?」
「そこはー…真面目に語るべきだな」
冗談は通じないと悟りアキトは異世界モール近くの地下鉄の駅の魔窟と正直に答える。
「異世界モール…?」
「ああ、葛之葉がお客サン伝で聞いてな、俺が依頼受けたんだよ。ほら交通機関やられたら色々と面倒だろう?そっちも会社入れてるし」
納得出来る理由に黒鴉は大人しく頷いて肯定するとアキトもホッとして要件は終わりと席を立とうとする。
「ちょっと待ちなさい!」
「おっと?他の所も潰してくれって依頼なら高く付くぞ?」
「違うわよ!この箱の…持ち主、つまり犠牲者の遺体は?」
そっちかとアキトは頬を掻いて思い返す。
「胸糞だから聞きたくなかったら首横に振れ」
黒鴉は黙ってアキトの返答を待つ。仕方無いとアキトは話し始める。
「一人は死んだまま魔物の操り人形にされて俺を襲わせようとされてたよ。おっと損壊はしてないぞ?操り主だけブッコロ」
「悪趣味な敵もいるのね…!」
黒鴉は真剣な眼差しで話を聞いてヘドが出ると苛立った様子をみせる。
「もう一人は…分からないな。ただボスが恐竜みたいだったし食われたかもな…」
チームで挑んでいた可能性もあるが黒鴉はそれは語らずに遺族への対応を考える。
「…どっちも回収は?」
「出来なかったな。魔窟が消えるのと同時に元いた場所に俺だけ戻された」
厄介な話だと黒鴉は顔を顰める。
「MIA…作戦行動中行方不明…って事ね」
アキトは黒鴉の懐の箱を指差す。
「それがネームタグ代わりになる事を祈るよ。それじゃ…」
一人去ろうとするアキトをまた呼び止める。今度は何だと嫌そうな顔をするアキトに黒鴉は悔しそうに厄介な魔窟の報告書を見せる。
「…高く付くって言ったよな?」
「わかってるわよ…!でも犠牲者が出れば世間的にも士気が下がる…強者の協力が必要なのよ!」
ギリッと歯軋りする黒鴉を見てアキトはチラッと内容を確認する。
「都心部は粗方片付いているじゃないか…ゆっくり出来ないのか?」
「それについては…」
黒鴉が一つの魔窟を指差す。
「富士樹海、最初に魔窟化した一箇所、ココが今非常に危険性が高いのよ。東西に分断されそうな程に」
「北陸迂回しろよ…海もあるだろ」
「魔窟にルールは無いわよ…海上にも確認されてるわ」
そんな事は知るかとアキトは険しい顔をするが最大の魔窟と聞いて少し興味を示す。
「報酬次第だな。それで…」
ビジネス的な交渉に移ろうとした所でトウコが掃除道具を持って現れる。
「食堂の清掃を行います」
「今仕事の交渉中」
「まあアキト様が久し振りにお仕事を!?」
そのやり取りに黒鴉は理の外の地球ではどれだけ閑古鳥が鳴いていたのかとアキトの仕事を心配する。
アキトは苦い顔をして今でも色々と仕事していると言い訳みたいに口答えするがトウコはくすくすと笑い黒鴉にアキトの扱いを説明する。
「アキト様は出来高で仕事しますから。ちゃちゃっと送り出して構いませんよ」
「心配じゃないの?」
トウコのあっけらかんとした言葉に危険な仕事だと黒鴉はキョトンとする。
「アキト様が?…この程度の仕事で死ぬ様な人じゃありませんよ」
アキトの実力に妙な信頼を見せるトウコに自分の妹との大きな距たりを感じてどっちが人として正しいのか不安になる。
アキトはやれやれと首を振って黒鴉から箱を一つ借りると行ってやろうじゃないかと豪語し先に出発する。
その背中を目で追って黒鴉は少し気が抜ける。
「なんだかんだ言って仕事するのね」
「それがあの人ですから。ささっ、お掃除の邪魔ですよー」
黒鴉もトウコに尻を叩かれそうになりイソイソとかえるのであった。




