コード“華”10
ラウンジにて翔達が神鳴の願いで食事をしていた。
「ホントに食欲ないのね、サンドイッチだけで大丈夫?」
神鳴が二人の食事を見て心配する。
「うーん、食欲消えてるから手が進まない…訳でもないんだが不思議な感覚だ」
「何かあった時のために栄養は取っておいた方がいいわよ」
神鳴はそう言いながらオムライスをガツガツと食べ進める。
「好物は別バラ…じゃないんですねぇ」
黒姫は神鳴のオムライスを見ても涎が湧かない事に首を傾げる。
「んじゃデザートは?」
「見ればイケるかもしれませんね!」
主食はダメだからとそれでも小さめのプリンを頼んでみる。
「デザートは栄養補給にならんだろ…」
翔は苦笑いしながら玉子サンドを無理やり押し込んでため息をつく。
遠目から新聞片手に珈琲を飲んでいたツムギにその滑稽な様子を笑われる。
「失礼しちゃうわね、まぁいいわ…それより結局呼び出しは何の用だったの?」
「朝のニュース見てなかったのか?」
何も知らない様子の神鳴に翔は呆気に取られて質問で返してしまう。
「んー、見てないわね…」
「敵の攻撃というのか…まぁ神華の力で人を操って大暴れさせてたって所かな」
「陰湿ね…まぁ地球くらいじゃない?それ通用するの、他は弱肉強食というかそういうのにはドライだし」
黒姫にプリンが届きついでにと神鳴もデザートを頼み始める。
甘味に舌鼓を打ちながら黒姫が思い出したように言う。
「そういえばカスパーが他世界にもばらまいてたって言ってましたね」
「まぁ神鳴の言葉通りに言えばたかだか武器一本振り回すようなヤツを仕留めるだけならウチ以外なら一瞬だな…」
神鳴も届いたデザートに喜んで食べ始める。
「あら、良いもの食べてるじゃない、甘味は別バラかしら?」
黒鴉がピョコッと顔を出してきてデザートを見てニヤニヤする。
「姉さん!もう終わったんですか?」
「あげないわよ!」
驚く黒姫とデザートを死守しようと抱え込む神鳴。
「取らないわよ、私も頼もうかしら、食欲なくてもデザートはイケる、賢いわね」
相席にドカッと座り珈琲とパフェを頼み翔と黒姫をチラッと見てやれやれと言いたげに首を振る。
「ったく、惚気を見せられて嫌になってさっさと来ちゃったわ、心配して損した気分よ…精神世界ねぇ」
「…入ったんですか?」
「ええ、色々懐かしい気分を味わえたし、過去の事を知れたわ」
テーブルを指でトントンと叩いて「ところで」と翔を睨む。
「神になったアンタを見たんだけど…どういうことかしら?一体ヤツは誰で神楽は何で向こうに残ったとかはぐらかすのかしら?」
翔がポカンとしていると黒姫が慌てて説明しようとする。
「えっとアレは…あの人も翔君です」
「…アンタら増えすぎよ!」
「向こうでちょっとゴタゴタがあって…翔君死んじゃって」
翔が吹き出して黒鴉が怪訝な顔をする。
「死んだぁ?コイツが?…じゃあこの浜松は偽物かなにか?」
「えっと、神鳴の力で無かった事にしました」
「…じゃあ何で分裂したのよ?そもそも何で神になったのよ?」
届いたパフェを受け取りスプーンで翔を指して黒姫に更に疑問をぶつける。
「えーっと…えーっと」
あたふたする黒姫だったが見かねたツムギが声をかけてくる。
「Kの死体を使って神を作ったねぇアルバートのやつ!…遺伝子情報だけじゃなくて肉体そのものを使えればリーズナブルだけど倫理的にアウトだったしー」
「アルバート?倫理的ってもう既に幾つもライン越えてるでしょうが」
黒鴉が吼えるとツムギは面倒くさそうに後は任せたと去っていく。
「アルバートは当時の研究所のリーダーです」
「…そいつの独断で浜松の遺体を辱しめた訳ね…」
「そうですね、ついでにその人がバキュンと翔君を…」
鉄砲に負けたと言うことを聞いて黒鴉がジト目になる。
「あはは面目ない…」
誤魔化して翔は笑うが黒鴉が睨まれ怯む。
「無かった事にされて何で存在してるのか…はぁ、アホらし…」
黒鴉がパフェから目を離したタイミングで神鳴が行儀悪くサッとクリームを横取りする。
「…このガキぃ!」
「隙を見せちゃいけないわよ?」
自分も翔を責められないと遠回しに神鳴から言われた気がして黒鴉が「ぐぬぬ」と唸る。
「もう、神鳴?食べたいなら頼んでくださいね?お行儀悪いですよ」
「はーい」
神鳴はトコトコと席を離れて別のところへ行ってしまう。
「アルバートももう一人の浜松も何か今回と関係あるのかしら…はぁ」
疑問が増えた黒鴉は何度もため息をついてパフェを食べるのだった。




