コード“界”6
神鳴が出発した翌日、少し寂しくなった浜松家。
ハケの脅し文句で不安になっていたのが嘘のように平和な一日で夕方になって暫く料理の勉強に来ていた神鳴が来なかったことを心配してアキトが様子を見に来る。
「おーい、神鳴。風邪でも引いたか?バカなのに珍しいな」
ボケを入れて神鳴から激しいツッコミが来るかなと身構えるが一向に姿を見せず首を傾げる。
「マジで不在か。玉藻と一緒にモールの方か?」
留守番して洗濯物を取り込んだ黒姫がアキトを見つける。
「あ!アキトさん、どうかしましたか?」
「ん?あー、黒姫か。神鳴が厨房に姿を見せなかったからな。親父とお袋が心配しててな」
アキトの言葉に黒姫はなるほどと頷きつつ現状を軽く伝える。
「あーらら…何だと?今なんつった?」
一度は笑って聞き流すが急に真剣な顔をして黒姫に詰め寄る。急なマジトーンに困惑した黒姫がもう一度説明する。
「で、ですから世界の昇華の為に神鳴は理の外の神鳴と記憶共有しに…」
「居なくなったのか?!記憶の共有ってあっちのと!?」
「は、はい…え?何かマズいのですか?ハケさんの話では今の神鳴なら耐えられるって…」
アキトは険しい顔で右往左往しながら何かブツブツと呟き頭を抱える。
「それもあるが…今の世界の管理はどうなっている?」
「…不在ですから守護は…その点は実力あるから大丈夫って…」
ハケの説明をそのまま鵜呑みにしてアキトに説明する。アキトは大真面目な顔をして怒鳴る。
「バカか!?神鳴が守ってたのは世界だけじゃない!お前ら全員の命も…あーもう!危機感完全に抜けてやがる!」
「え?どういう意味…あっ!」
黒姫はアキトの言いたいことを理解して青ざめる。
神鳴は世界の管理だけでなく仲間達の不幸を回避する為のリセットボタンでもありそれを暫く失い記憶の共有は必須イベントでその期間何が起きても無かった事に出来ないという事実に気付かされる。
「やっと気付いたか…」
「で、でも…今まで何とかやってこれましたし…」
「…本当にそう思うか?」
アキトの言葉に黒姫は返す言葉も無く頭を抱える。
「短時間のリセットなら神鳴もフィードバック少なく何とか痩せ我慢してたかもしれねぇ…不幸なんて知らない方が良いから当然報告もしないだろうよ」
「ど、どうすればいいですか?!」
実力と護身には自身のあるアキトは自分は大丈夫と言えるが他の皆はどうだろうかと悩む。
「下手したら交通事故レベルでも誰かおっ死ぬかもな?まぁ気を付けろとしか…」
「そ、そんなぁ…」
過ぎた事は仕方ないと細心の注意をしろとアキトは黒姫に背を向ける。
「あー、そうだ。本当に敵が現れても簡単に人は死ねるって事覚えておけよ?翔は理解してたが選手として皆死生観バグってるからな…」
更に不安にさせる一言を添えられて黒姫は立ち眩みしそうになるのであった。
皆が帰ってくるまで黒姫は葛藤に葛藤を重ねてこの情報を共有するべきか激しい頭痛と胃痛に悩まされる。
(こんな情報渡したら姉さんなんてメンタルやられそうだし一挙手一投足が石橋叩いて渡るみたいになりかねない!でも伝えないと危機感と緊張感が…というか私の精神がすり減る!)
一人で悩んでも仕方がないと少なくとも翔には話した方がいいかもしれないと震える指でメッセージを送る。すぐに黒姫の改まった書き方に何か感じ取った翔は返事をする。
『何かあったんだな?席外して通話するか?』
皆が帰ってきてからでは話が露呈すると考えて『よろしくお願いします』と返す。
緊張した声色の翔から通話が入りアキトから聞いたことを共有して胸中の重荷を下ろす。
『…そういう事か、確かに言われてみれば…だな。普段の生活してる分なら気にする必要ないって!気にしだしたら外出も出来ないし、ほぼ不死な玉藻前とアミラになら共有出来るんじゃないかな?』
「そ、そっか!うん、ありがとうございます。少し気が楽になりました」
『黒鴉には…やめとけ』
黒鴉に対してはやっぱり同じ考えかと苦笑いしてしまうのであった。




