コード“姫”4
仕事を終えた翔が帰宅すると晩御飯の用意をして何事も無かったかのように振る舞う黒姫だったが座る際にポケットに入れた箱を踏んで声を上げて取り出してしまう。
「ひゃう、イタタ」
「お前それ…」
翔はすぐに箱に気付き声を上げ黒姫が「しまった」と言いたげに口をあんぐりと開ける。
「敵の襲撃あったのか!?」
心配そうにする翔に申し訳なさそうに黒姫は謝る。
「すみません、迷惑かけたくなくて…」
謝罪を受けて翔は黒姫の無事な事に安堵して竜司の提案を真面目に考える。
「襲撃されたとなると二人でひっそりってのもキツいかもな…」
「そ、そんな…」
二人暮らしに水を差された事に黒姫はぶつぶつと恨み言を箱に向かって呟く。
翔は冷静になって黒姫にどんな敵だったのか尋ねる。
「敵はどんな奴だった?」
「えーっと、作業服?オレンジの…あと女性でした」
衣服の共通点に気付き翔は黒姫に自分の意見を伝える。
「俺の時も同じような服だったな…制服か何かかもな」
「オレンジは目立ちますね」
取り敢えずと携帯を持ち黒鴉にメッセージで報告を行い一息入れる。
「あの…私が戦った事伝えてます?」
「いや、黒姫が嫌ならまだ伝えない、そっちの実家に戻るかはゆっくり考えよう」
食事に手をつけながら黒姫は神姫の力についてポツリと溢すように呟く。
「結界の中なら私、力を使えるみたいで…」
「普段は神姫の能力使えなかったのか」
翔は知らなかった事実に驚き、黒姫は続けて語る。
「そうだ、結界に入れられてからでは武器が呼べませんでした!」
その事実に翔が青ざめ顔がひきつる。
「マジかよ…俺武器を出してなかったら死んでたのか」
黒姫もそれを聞いて声を出す。
「皆に共有しないと!素手で戦える人少ないですし」
「皆で武器携帯するのもな…神楽先生に相談してみるか?」
翔は取り敢えず黒鴉に情報共有しておこうと携帯を手に取る。
「そうだ…あいつら普通に一般人を襲ってるって言ってた…ごめんなさい情報小出しになってしまい…」
黒姫の怒りの籠った「あいつら」という滅多なことでは出ない言い方に翔も真剣になりメッセージを打つ手に力が籠る。
「久しぶりに退魔士として仕事するか?」
神藤の覚醒者に対抗して神鳴が命名した退魔士という名を口にして黒姫は一瞬だけ懐かしくクスっと笑い姉に任せる旨を伝える。
「武器の携帯手段出来るまでは姉さんに任せましょう。箱の研究もありますし」
「そうだな…いや武器の携帯は早急に対応しないといつ隔離されるか分からないぞ…」
異世界に連絡手段が無く翔は頭を抱える。
「父さんに頼むしかないですね…」
「仕方ないか」
食事を終えて色々と通話をして手筈を整える翔に黒姫は買ってきたスイーツを笑顔で持ち出して一緒に食べようと頬をつついてくる。
「今親父さんと話しててだな…」
イチャイチャの様子が聞こえたのか通話先の竜司が穏やかだが圧のある声色で言葉を投げ掛けてくる。
『翔君?分かっているね?娘に手出しは…?』
「はい、しません!…じゃあ神楽先生によろしくお願いしておいてください」
早口になりながら通話を切って悪戯に笑う黒姫にやれやれと言いたげに翔は後頭部を掻きながら座り甘味に浸ることにする。