コード“華”5
暴走する黒鴉がピタリと止まり剣を手放し膝をついて座り込む。
「止まった…?っう…」
翔も激しい頭痛がして刀を持っていられなくなる。
「か、神威…何が起きたんだ!?」
インカムで呼び掛けると神威が少し苦しそうに答える。
『むぅ、敵の神華の力に対して神華の力をぶつけた…そっちはどうなった…?』
「止まった…止まったが…すごい頭痛がする…」
『止まったか!ははは!やはり我は天才だ!すぐに皆の確認をせねば!』
神威が急に元気になり翔が何度名前を呼んでももう応答しなかった。
(武器を持ってたら頭がおかしくなりそうだ…)
翔は刀をキーホルダーに戻す。武器を持たなくなった途端頭がスッキリして黒鴉に駆け寄る。
「黒鴉!おい!しっかりしろ!」
「浜ま…つ?わ、私は…」
うわ言のように「私は」と繰り返し翔が何と声をかけるべきかと思案するが黒鴉は謝罪し胸の内を吐露する。
「私は…貴方が羨ましかった…妬ましかった。お父様の…妹の寵愛を受けて…力もあって…私の欲しいモノ全てを持って…」
「黒鴉…」
「憎い、妬ましい…でも…嗚呼、少し疲れたわ…」
何かを言い淀んで黒鴉は意識を失い倒れそうになるのを翔は支えてスースーと寝息を立てているのを見て安堵する。
広い研究室で各地の覚醒者達と連絡を取っていたツムギ達博士は全員ボケーとしてやる気を失っていた。
「なんだろー、ヤル気が抜けるー」
「急がなきゃいけない…のに」
ヨロズが必死に受話器に耳を当てると各地で戦闘が強制的に止まった事を聞く。
「な、何が起きたの…」
神姫もぐったりとして何とか周囲を見渡し神威が居ない事に気付いて名前を呼ぶが返事がない。
「翔君…姉さん…無事でしょうか」
よろよろと黒姫は携帯を手から落として壁に寄り掛かる。
「この力…まさかな…」
カスパーだけ神華の力を感じ取り彼女が無事と悟り少し笑顔になる。
神威は自分の研究の成果に頭痛も忘れ狂喜乱舞し機械の中に居る神華に高らかに語る。
「やったぞ!少なくとも一体への関与に成功したぞ!神華!」
ガバッと重い鉄扉を開くがその中で力無くぐったりと椅子に座る神華を見て固まってしまう。
「神華…?…ッハ!しっかりしたまえ!」
必死に神華に呼び掛けをするが反応が無く神威はあたふたして上階のカスパーに頼ることを思いつき慌てて極秘の研究室を飛び出す。
慣れない運動に息を切らせながら博士達が居る研究室に飛び込み叫ぶ。
「カ、カスパー博士!どこに居ますか!」
神威はぐったりする研究員の面々に驚きヨロヨロと手を上げたカスパーを見つけ駆け寄り肩を貸す。
「神威…何があったんだ?」
「話は後、兎に角来てくれ!」
何とか引きずって神華の前まで連れて行き経緯を掻い摘まんで説明する。
カスパーはぐったりする神華にゆっくり近付いて手を取り謝る。
「…脈はある、しかしこのような…すまない」
「やはり無理があったのか…理論は間違っていなかったはず…」
「しばらく二人にさせてくれ」
カスパーの言葉に神威は黙って部屋を出る。
部屋の入り口には隠れてついてきた黒姫が立っていた。
「付いてきていたのか…」
「こんな所があったんですね…神華さん…」
話を盗み聞きした黒姫は俯いて神威に背を向けて先に去っていく。
神威も頭の後ろを掻いて「バレたけどまぁいっか」と言いたげにため息をついて上階に向かう。
上位世界、作戦が半ば失敗で終わり混乱が広まっていた。
「何が起こった!?」
モニタリング班が全員地球の研究員のように脱力していた。
「な、何が起きたんでしょうね…争いなんて下らないですよ」
口々に無意味な戦争だと愚痴るようにふにゃふにゃの面々に怒りを隠せない上級研究員達による粛清が始まりリーダーらしき者がため息をつく。
「やられたな…華の力を侮ったか…」
「まさか!?華はそこまで大規模な力は無いはず!」
博士達の間でどよめきが起きて一喝する。
「それが侮りだと言うのだ!時の流れ…いや神の相乗効果を舐めていた」
「…すぐに次の手を?」
「そうだな…いや、待て。用意周到に事を進めろ、残る手は向こうも把握して身構えているはずだ」
バタバタと博士達が動き出す中でリーダーは小言を呟く。
「内通者がバレるのも時間の問題か…へましてくれるなよ…」




