コード“姫”3
一人ビルを出て黒姫は深呼吸する。周囲を見渡して今日残り一日何をしようかと思案するも特に買いたい物もなく何かデザートでも食べて帰ろうと考えるのだった。
(こういう時だけ身軽に動ける学生が羨ましく思えます…翔君も仕事だし、甘えるのは良くないよね)
邪な考えを振り払って少しばかりの贅沢を買って帰宅する。
道中今はもう失っている自分の中にあった神姫の力を思い返しながら冷蔵庫に翔の分のデザートも詰め込み昼食の準備を始めようとする。
不意に玄関の呼び鈴が鳴り、間が悪いとタメ息混じりに黒姫は対応しようと玄関に向かう。
「はい、今出ます」
玄関のノブに手を掛けゆっくり開けると同時に扉の向こうから声がする。
「ふふ、コード“姫”、発動」
黒姫は驚き咄嗟に距離を取るように飛び退く。
既に空間は移り変わり翔が戦った空間と同じような場所に捕らわれる。
(…?!これが結界…ウソ、武器が呼べない!?)
黒姫が自身の武器のナイフが呼べない事に困惑するもすぐに幾つもの思考を投げ捨て敵の姿を見定める。
敵は翔の時と同じつなぎ服を着た女性でやはり拳銃を手に携えていた。
「あは!朝から追跡してようやっと一人になってくれた」
武器を持たない黒姫を見て見下すような表情で銃の安全装置を弄る敵にどう抜け出すか必死で考えながら黒姫が話しかける。
「私、一般人なんですけれど…?」
キョトンとした顔でその言葉を聞いた女性はすぐに腹を抱え爆笑する。
「あはははは、関係ないない、もう何人も疑わしいの消してるからさ!お前も消えちゃえっての」
外道な発言に黒姫は反吐が出そうになるが戦う術もなく冷や汗を流す。
「命乞いしなよ、考えてあげる」
ジリジリと銃を向けて寄って来る敵に時間稼ぎのつもりで素性を尋ねる。
「…あなた誰なの?」
「はぁ?今聞く?冥土の土産ってやつ?いいわ、ゾーラ、お前達出来損ないの遥か上の人間様よ」
(やっぱり上位世界…私はまだ死ねない、やりたいことだって…)
窮地に歯を食い縛りもう一度武器を呼び出そうとするもやはりナイフは出てこず翔と家族を思い返し先立つ不幸を謝ろうとする。
「命乞いはー?早く聞きたいな」
下卑た顔をする敵に憎悪が沸き立つ。
ふと気付くと黒姫は自分の中の懐かしい力を感じ勇気が出てくる。
(…そう、やっぱり神姫の力…諦めるのは早いよね!)
ぐっと以前自由に使っていた神姫の力の使い方を思い出しながら力を込める。
「お前、何して!?」
ゾーラが黒姫の髪色の変化に驚き銃の引き金に指を掛ける。
銃撃よりも速く光の球が銃に当たり腕ごと爆破しゾーラは苦痛に絶叫し悲鳴を上げる。
「神姫の本当の力の使い方も知らないで…」
色々な感情が込み上げてくるが汚い言葉を圧し殺し黒姫は利き手を失い床を這う敵を哀れみの目で見つめる。
「はぁはぁ、ちょっと…冗談じゃ…ひぃ化け物!」
「昔なら慈悲の一つもかけてあげたかもね…」
周囲に光の球を出現させながら呟いた言葉にゾーラが命乞いをする。
「た、助け…アタイらは命令されただけで…ゆ、許して」
「…私が許しても…神姫が許さないから」
球を投げつけ一斉に爆破し結界が解かれ黒姫は自宅の玄関に戻される。
(…覚えていても後味が悪い、忘れよう…ん?)
扉の先に転がる箱を拾い上げポケットに入れて昼食を作る所だったのを思い出し台所に向かうのだった。