コード“楽”6
敵の新技もあまり問題にならずにまた翔達は普通の生活に戻りつつあった。
黒姫と神姫は父と黒鴉の代わりに仕事をすることにも慣れて定時に翔を迎えに行く。
黒白の二人に向かえられて翔は周りに茶化されながら会社を出る。
「全く、社長令嬢なんだけどな」
いまだに黒姫を幽霊等と笑い者にする同僚達に翔はイラッとする。
「私達は気にしてませんから」
黒姫も神姫もピリピリする翔に笑いかけながらビルを出る。
両手に花なのは端から見れば羨ましく見えるが翔は二人の機嫌のバランスを取るように細心の注意をしながら会話をしながら歩く。しかし翔のそんな考えはすぐに見透かされ神姫に言葉でつつかれる。
「ワタシには気を使わなくても良いですよ…?」
その言葉に黒姫まで気まずくなる。
「暫く様子見てたが同じ記憶、経験、考え方ならやっぱり同一人物で間違いないんだよなぁ」
「奇妙な話です…翔君のクローンでも来れば円満ですかね?」
翔は「それは勘弁」と嘆くが黒姫は上位世界に残った二人を思い返す。
「向こうに残った神になった翔君と本物の神姫は今頃どうしているのでしょう…侵攻を知ったら止めていると思いますが…」
「俺は急展開に置いてけぼりであんまり覚えてないんだよな…もう一人の自分とかクローンじゃなくて存在出来てたり」
二人の言葉を聞いてクローンは首を傾げる。黒姫は慌てて補足する。
「あ、知らない事実ですもんね…ややこしいです!」
黒姫は頭を抱え説明に困る。
「神は不老であって不死ではないですから」
神姫はぼそりと呟き翔と黒姫を驚かせて神姫はすぐに言葉を付け足す。
「あ、いえ、そうだった…はず」
「まぁ実際三人倒してるからそうだけど…そうか失念してたな」
上位世界では既に二人が何らかの要因で死亡した可能性を示唆されて少し悲しくなる。
しんみりした空気を変えようと翔は神姫に既に竜司達にされているであろう質問をする。
「そういえば向こうのボスが誰とか知ってる?」
「いえ…情報を聞かれるだけで殆ど人と接していなかったので」
出てきた情報は既知の内容で話題が無くなりまた気まずくなる。状況が好転しなくて翔は顔がひきつる。
「参ったな…」
心の声がそのまま口に出てしまい翔は口を塞いで申し訳ないと頭を下げる。黒姫がそんな翔に対して一言呟く。
「別にもう翔君は気にする事は無いのではないでしょうか?…あくまでも一般人ですし」
「そうなのかな…変な使命感や責任感に動かされてるだけなのかな」
翔が肩と視線を落として歩き正面から来た見るからに危なそうな男性と肩がぶつかる。
「あ!す、すみません!」
「ッチ、気ぃつけて歩けや!」
威圧され喧嘩こそ起きなかったが翔は更に気落ちする。
「もうクッタクタだよ…」
二人の姫は翔の様子を見て物騒な事を呟いているが翔は勘弁してくれと心の中で叫ぶのだった。
翔達は研究所に戻ると収録等をさっさと終えて優雅に本を読んで余裕な黒鴉と目が合い自分との差をひしひしと感じ理不尽な世の中に愚痴る。
そんな様子の翔を見逃すはずもなく黒鴉は絡もうと声を掛けてくる。
「浜松ぅ!こら…拒否るな!いいから来なさい!妹達は帰りなさい、しっし」
「…なんだよ、疲れてるんだ」
ドンと翔が対面に座ると黒鴉は珈琲を啜って今の状況の話をする。
「敵の新機能は聞いたかしら?」
「ん…確か神楽先生の武器呼び出し…だったよな?」
「そうそう、気にならない?」
翔が「何が?」と言う前に黒鴉が新しい剣を見せる。
「新しい武器、私達にも呼べるなら皆新武器楽して手に入るのよ」
「そんな都合良くいくもんか、何か裏があるに違いないって…」
黒鴉はつれない態度にムッとするがすぐに平静になり続ける。
「そうよね、武器を既に二つ…いえ、三つもあるアンタには分からない話ね、いいわ、別の人に話すから」
焰鬼、雷怨、氷雨と名前を出してニヤニヤする。翔は黒鴉の独断専行だと理解して注意する。
「…許可貰ってないな?」
「だから?人類の為よ?試せるなら何でもやらないと」
黒鴉の言葉に使命感や責任感で揺れていた翔は危うい話だと知って監視するつもりで乗る。
「お前がそこまで人類の事考えてるとは思わなかった、だが念のため話は通しとけよ?」
「そう来なくっちゃ!んじゃ代わりに話通しといてねー」
黒鴉の態度を見て良いように使われたと後悔するが時既に遅く黒鴉はウィスプの剣を腕輪にして人差し指でくるくる回しながら席を立つのだった。




