コード“楽”5
黒鴉が捕獲した捕虜からの情報を聞いた神楽は感心したように旅行鞄を取り出す。
「なるほどね、こっちの機能を参考にしたのね」
旅行鞄を開けて入るはずのない長さの杖を取り出してくるくる回して見せる。
実演を初めて見た博士達は手品を見たように拍手する。
喜ぶ観衆と違い神楽と直接戦った経験のある黒鴉は少しだけ後退りする。
「皆喜んでるけど必殺技は超怖いのよね…」
「あら、黒鴉ちゃんは何を怖がってるのかしらねーふふふ」
神楽はニコニコしながら杖を黒鴉に向ける。
「先生の本気をマジで見たの私くらいじゃない?あれは誰しも…ビビるわよ」
黒鴉の言葉にツムギが笑う。
「そんなに凄いの?へー、神が戦ったらどれくらい?」
黒鴉は腕組み考え神楽はニコニコし続ける。
「神螺を見たことないけど、慈悲を捨てたら最強なんじゃない?」
「うわーお、見てみたいや」
誉められて少し嬉しそうに胸を張る神楽に竜司が注意する。
「あまり調子に乗らない事だ、どうせ気軽に使える大技じゃないんだろうからな」
「う…知られてる?」
自身の作った戦いの舞台だぞと竜司は鼻を鳴らして呆れる。
「ああ、映像で見てたぞ」
話はだんだん逸れて行くのをヨロズが手をパンパンと叩いて軌道修正する。
「どうせ奴らに出来ない芸当よりもやってくる技に対策ないのか!?」
神楽はヨロズに苦笑いして答える。
「…あー、ごめんなさいね。…と言われても武器を取り出すだけなら無いんじゃないかしら」
「まぁ普通に出てきた武器なんてね…てか何処から取り寄せてるの?」
黒鴉が神楽に同意しながら素朴な疑問をぶつける。
「私のは私の世界の秘密の保管庫からよ?秘密のねー」
そこに敵の武器の調査を終えた神威がやってくる。
「やれやれ、材質から何まで普通の剣だったぞ、神楽のその秘密の保管庫とやらの代物かは知らんがな」
神威は報告書のファイルを投げて飛び出した武器の写真を神楽が拾い確認する。
「うちの子じゃないわね…」
神楽の「うちの子」という表現方法に博士達が渋い顔をしてひそひそする。
「対話してみましょう、ちょっとスペシャリスト呼ぶわね」
急遽呼ばれ、しかめっ面のアキトが得たいも知れない剣を前に面倒臭そうに神楽の指示を受ける。
「じゃあちゃちゃっと精霊と対話よろしく」
「…なんでお前がやらないんだよ…または翔、いやそこの黒鴉でも…はぁ」
ぶつくさと文句を言ってどうせ話は聞いてくれないと諦めて剣を握ってアキトは目を瞑る。
何をして居るのかと研究員達がざわつくが場の雰囲気が変わり皆息を呑む。
「何が…出るというの?」
黒鴉もゴクリと喉を鳴らす。しかし全員の期待とは裏腹にアキトの前には金色に光る何かが出るだけだった。
「ちっさ!」
刹那的にツッコミをする黒鴉、アキトは一仕事終えてふうと息を吐く。
「言語が通じて良かった」
観衆のがっかりした空気なぞ知らずにやりきった感を出すアキトに黒鴉は文句を言おうとするが神楽が感激の涙を流しながら叫ぶ。
「よくやったわー!これ新しい子?何て言うの?お名前はー?」
「おい、人任せにして何言ってやがる!」
アキトの文句に神楽は言い訳を始める。
「だって訳も分からない高位な存在だったりして精神的にダメージ負いたくないもの…」
「お、お前…そんな可能性あるのに人を実験台にしたのか!?」
そんな漫才を見せられながらもアキトが研究員達に精霊を説明する。
「コレが武器に憑いてる精霊、言わば付喪神、名前は失われて分かんないそうだ…まぁウィスプとでも呼ぼうか」
球がふよふよと周囲を漂い神楽の方に向かいチリっと音を立てて鼻先を掠める。不意の刺激を受けて神楽は鼻を押さえる。
「あっつ!」
「はは、嫌われたな」
アキトは神楽にバチが当たり満足したのか剣にウィスプを戻して机に置く。
「まぁ神楽のとこの産まれじゃなきゃそこまで強力なのは出ないだろうな」
「その剣私が貰ってもいいかしら?」
黒鴉がアキトの返答より先に剣に触れる。
「研究資料だろう?勝手に持ち出すなよ」
「良いじゃない!浜松だって二体も三体も使ってるのよ?私だって…」
チラッと父を見て渋々頷かせて小さな声で喜ぶ。
「せ、精霊とは仲良くするのよ?」
「先生よりはちゃんと出来る自信あるから!」
皮肉を込めて黒鴉は剣を装飾品に変化させて見せる。
「向こうから一杯武器取り寄せるのもありなんじゃないかしら?」
フフンと思い付いたように黒鴉は言うがまだダメだと博士達に止められるのだった。




