コード“楽”2
二人の黒姫が洋食屋で何故か翔を見るように座ってオムライスを食べる。
翔もカレーを食べながら二人に質問する。
「なんでこの座り方?」
本物は質問する側で此方では?と言いたい翔に目の前の二人は首を傾げる。
「どちらかが翔君の隣は変でしょう?」
本物の言葉にクローンの気持ちを考えて確かにと翔は頷いてしまう。
「状況の説明だけど…クローンが何故作れたんだ?」
本物が少し考えて答える。
「神姫を作った時のデータ…でしょうか?医療データは提出してませんでしたし」
「その医療データ俺は提出してないよな?」
「上級職員扱いじゃないので…多分…」
もう一人の黒姫は自分がクローンだと言われ俯き呟く。
「私…存在しちゃいけないのですね…」
「ズルい言い方だな…君に罪はない」
翔はお冷やを飲み干して二人をもう一度見る。
「クローンか…黒姫のは想定外過ぎてなーんも思い付かない」
本物も同意見で難しい表情をしたのが口元だけでも見て取れた。
「父さんに相談するしかないですよね?」
「いや、本人が選ぶべきだ、現在の状況を教えて…」
食の進まないクローンは翔に禁断の質問をする。
「翔君…どちらが大切ですか?…いえ、分かってます。でも…」
クローンは過呼吸になりつつ翔をすがるように見つめる。
「同情抜きに本物が大事だ、だからと言って君を見捨てる気は毛頭ない」
本物もクローンも翔をじっと見る。
「…真面目に答えたのに精神的に追い詰めようとするのはやめてくれ」
二人は見合わせてオムライスをがつがつと食して「ご馳走さま」と声を合わせて言う。
「俺何か間違ったか?」
「「いえ、間違ってませんよ」」
また声が揃う。
「後は私達で決めます」
「そうですね、翔君は気にしないでください」
翔は心の中で「いや、気にするわ!」と叫ぶ。
少し間を置いて本物の方が翔に質問する。
「翔君、もし自分のクローンが出てきたらどうします?」
「あー…可能性低くてもあるのか…?嫌だなぁ…」
その言葉の様子を想像して身震いする。
本物は自分を選んでくれた事を小声で感謝する。
「どっち付かずの答えじゃなくて良かったです」
二人は時計を確認して邪魔にならないように席を立つ。
「午後もお仕事頑張って下さいね」
「状況はもう一人の私から聞きます」
去っていく二人に色々と葛藤を覚えて翔はまた頭を抱える。
クローン黒姫の存在を知った研究所の面々は時に困惑し、時に憤る。
状況を伝えられたクローンは絶望した顔をする。
「気付いたら拘束されて急に地球に戻されて…クローンと聞いて大方は予想していた通りです」
竜司がぼやく。
「娘が三人になったな、ははは」
ツムギもヨロズもしらけた目で竜司を見てクローンに優しく語りかける。
「まぁ気楽に行こう第二の人生さー」
「馬鹿!二人居たら気楽になんていられないよ!」
クローンは髪を白く変化させて全員に宣言する。
「ワタシは神姫として生きます」
本物の黒姫が動揺して力の存在を指摘する。
「なん…で?…そう…そこに居るのね」
ツムギもヨロズも黒姫イコール神姫の事に驚きの声をあげる。
「え?ん?どうなってんの?…そういえば神姫はチームの中に居なかったね」
「それは死んだものと思ってたけど…」
黒姫は神姫の成り立ちと事件後の話を博士達にする。
「えぇ…そもそも因果逆転してるじゃん…しかも本物の神姫は今も向こうで生きてるの?」
翔の事はもっとややこしくなるから黙って自身の説明だけした。
「再編前の私の遺伝子に神姫の情報も含まれてたなんて正直知らなかった…」
「これからは神姫として頑張りますね!でも…まだ彼諦めませんから」
「そ、そこは、そこだけは折れて欲しかったです…」
黒姫は肩を落とす。
「なんにしても新しい家族だ、まぁ翔君は胃を痛めるだろうがな!がはは」
竜司が大笑いするが周りは楽観的な竜司を冷たい目で見るのだった。




