コード“威”9
(無性に腹が立つ…イライラする…)
黒鴉は自分を取り巻く環境と人達を思い返して仕事の楽屋の床を何度も踏みつける。
「あーちゃん大丈夫?」
周防が恐る恐る黒鴉に声をかけると黒鴉はハッとして作り笑顔をすら。
「だ、大丈夫、気にしないで…ふぅ」
軽くため息をして一部乱れた髪を正す。周防はそれでも黒鴉を気に掛けて水を持ってくる。
「はい、お水…お疲れですか?」
「ん…ふふ、まぁね、ありがとう」
仕事前に飲み過ぎ食べ過ぎは良くないと分かりつつも相方の気遣いに微笑み感謝し水を飲み干して少し落ち着いた目になる。
(切り替えなきゃ、仕事仕事…)
そこに久坂が様子を見に来る。
「お嬢、ミナさん準備は大丈夫か?」
「おはようございます先輩!私は大丈夫です!」
周防は元気一杯に答え黒鴉は気怠そうに手を上げる。
「おはよう久坂…センパイ」
「お嬢、無理しなくていいぞ」
黒鴉の固い先輩呼びに久坂の背筋に悪寒がはしる。
「あんたの顔見たら自分の考えが間抜けに感じてきたわ」
「お嬢の…考え?」
「浜松と黒姫と神華の馬鹿で阿呆であんぽんたんの事よ!」
久坂がその言葉につい笑ってしまいすぐに言葉を訂正する。
「ぷっ、いや、すみません…ご家族を悪く言うのは良くないですよお嬢」
「そうですよあーちゃん!」
周防も同意見を言うと黒鴉はムスッとして「もういい」と言って立ち上がる。二人は機嫌が悪くなった黒鴉に謝るが機嫌が戻ることは無く一人楽屋を出ていってしまう。
「まずったな…俺もまだまだ女心を分かってないな…」
「あれ先輩ってそういうキャラでしたっけ?」
「お嬢の機嫌損ねると後が大変なんだ…」
二人は黒鴉を気に掛けながら後を追うように楽屋を出る。
都内の某大学前、翔の学友の天然パーマで眼鏡な槍使いの青年河内智樹が携帯でニュースを見ながらメッセージアプリで猪尾とやり取りをする。
『週末遊ばないか?』
「下町の英雄は余裕だな?ニュース見てないのか?」
最初の魔物退治のニュースで映像に残った猪尾は周囲では英雄扱いであった。
『ばっか!パトロール込みだよ!英雄に休み無しさ!』
「全く、調子がいいな」
猪尾の返事が無くなり河内は得意気な猪尾の顔が歪むのを思い浮かべて笑ってしまう。
時間を確認してまだ受けるべき講義まで時間があると思い図書館にでも寄るかと歩く方向を変える。
(いい参考書あったら借りようかな)
戦いなんて忘れていた河内の前に箱を片手にキョロキョロする怪しい男が現れる。
(大学が学生以外にも解放されてるからって不審者は歓迎出来ないな…)
河内は関わらないように男と目を合わせないように横を通り抜けようとする。
「コード“姫”展開!」
結界に閉じ込められた河内は深いため息をつく。
「へへ、有り金全部出しな!」
「翔から聞いていたが…遂に僕の前にも現れたか」
「は、早くしやがれ!」
河内の余裕な態度に男は逆上して更に叫ぶ。
「後悔してもおせぇからな!コード“斎”起動!」
結界内に数体魔物が出現する。
河内はネックレスを外して槍に変化させる。
「後悔するのはそっちだ阿呆!」
更に精霊の竜であるウィルを呼び出し魔物達を文字通り一蹴する。
男は竜の姿にたじろぎ後退りする。
「っ!糞が!コード“威”!」
今度は結界内に機械兵が三機出現する。
「次から次へと!」
河内がウィルに指示を出そうとするが竜の姿を維持できず消えてしまう。
驚く河内を男がゲラゲラ笑いながら銃を取り出し向ける。
「ひゃは!金を差し出さないテメエが悪いんだ…な、なんだぁ!?」
機械の一機が間に割って入り男にゆっくりと近付く。
「バカ!オレじゃねぇ!アイツをっ!!」
四足の内の一足が大きく振りかぶられる。
二機を仕方なく槍一本で捌いていた河内が自分とは全く関係の無い所に放たれた銃声を聞き異変に気付く。
気付いた時には既に遅く男は機械に踏み潰され鮮血が舞い魔物も消えて元の大学の中の通りに戻り男を潰した機械と相対する。
「…っ!?なんだか分からないが破壊する!」
敵意を向けている機械を刺し貫き破壊して一息つく。
「最近の失踪事件とかもコイツらの…?参ったな…翔に聞くか」
図書館で読書どころじゃないなと肩を落として河内は携帯で翔に連絡を取るのだった。




