コード“間”13
闘いに挑む事になった黒鴉、竜司が高笑いしながら去っていった後に黒鴉は自分の戦い方を変えることも出来ず自分はどうすれば良いのかと頭を抱える。
ふと気になる事があり翔に向かって呟く。
「もしかして…相手が選べない私って不利じゃない?」
「今更か、誰とどこで闘うか…覚悟はしておけ」
微妙な顔をして答える翔、悩み苦しむ黒鴉だったが黒姫がお茶を出しながらボソッと「修行すれば?」と言ってしまう。
「修行…?そうよ!どんな相手が来ても良いように特訓すれば良いのよ!」
「いつ対戦するのか分からないのに修行の旅とか言わないよな?」
「アキト辺りを相手させるわ」
有無を言わさず善は急げの姿勢で物置に向かう。
「ね、姉さん?!」
「私が居なくてもしっかりやるのよ?行ってくるわ!」
勢い良く飛び出していくのを見送った後に黒姫が呟く。
「姉さんが一人で生活する方が私は心配ですよ…」
既に聞こえない声に翔と黒姫の二人はため息をついて顔を見合わせてよく考えたら邪魔者居なくなって平和になったのではと口にはしなかったが思考が過るのだった。
押し掛けでアキトに特訓の相手をして貰おうと突撃してきた黒鴉、図書室の書類整理をしていたアキトは面倒臭そうに対応する。
「見て分からないか?書類棚の整理中なんだが?」
「ちょっと特訓に付き合いなさい!」
作業の手をピタリと止めてため息をついて理由を尋ねる。
「なんでまた特訓なんか…」
黒鴉は父親から受ける恐怖と武器を賭けた戦いに挑む為にと説明する。アキトは難しい顔をしながら作業を進める。
「成る程、竜の思い付きか…特訓の前に一つだけ忠告しとくぞ?」
「…な、何を?」
黒鴉はアキトの背を向けたまま威圧的な言葉に恐る恐る踏み込む。
「切り札、ウィスプは隠せ…バハムートをコントロールしろ」
「コントロール…?」
何をどうすればと質問しようとするがその言葉より先にアキトは冷たく突き放す。
「方法は自分で考えるんだ、新技が出来るまで俺はお前を相手しない…技術を磨くなら神楽と相談しろ」
黒鴉は言葉に詰まり悪態すらつかずに部屋を後にする。去る足音を聞いたアキトは一瞬だけ振り返り複雑な思いを巡らせて作業に戻る。
神楽が授業を終えて戻るまで剣の素振りをして汗を流す黒鴉、相棒として長く使ってきたバハムートを手放す訳にはいかないと強い思いを胸に振り続ける。
「わぁ、珍しー!」
小夜が顔を覗かせて黒鴉に話し掛けてくる。黒鴉は小夜を鬱陶しく思い手を止める。
「邪魔はしないでよ?私は真剣なんだから」
「…ジャマしてないよ?」
黒鴉は無心で素振りしたいのと伝えるが先日の翔と黒鴉の戦いを思い出した小夜は面白がって組み手をしようとぴょんぴょんと跳ねながら近付いてくる。
「勝負しよ?」
「…っ!」
素振りで振り下ろした剣を小夜が軽く掴み押し返してきて黒鴉はよろめいて唖然として激しく瞬きする。
「小夜強いよ?特訓するんでしょ?」
「…怪我するわよ?!」
口では警告しながらも素早く剣を横薙ぎする。小夜はニコッと笑ってピョンと飛んで黒鴉の頭上を飛び越して黒鴉のつむじの辺りを指で軽く押しながら背後に回る。黒鴉は冷や汗を垂らし呼吸を荒げる。
「まずはイッポンだね」
(…私が遊ばれてる?!)
小夜は楽しそうな顔をしながら肩をぐるぐる回して拳を振るおうとする。やられてたまるかと黒鴉は剣を構える。
「折っちゃうよー!」
やる気を感じる言葉に黒鴉は後ろに一歩引いて距離を取る。ウィスプのネックレスを手にしようとするがアキトの言葉を思い出して鋭い目付きをしてバハムート一本で勝負する覚悟をして呼び出す。
「出たなー!白いの!」
「バハムートよ、覚えときなさい!」
コントロールする。と何度も心の中で反芻して小さな水弾をばらつかせて撃ち込む。バシバシっと弾が小夜に命中するが少しよろめくだけでダメージが無さそうだった。
「あぅ!濡れちゃった…動きにくい」
まだまだ余裕そうな小夜の表情に苦々しい思いの黒鴉、手加減した訳じゃなくコントロールに失敗しているようだった。
「まだまだ!」
次弾の用意をするが小夜が素早く間合いを詰めて黒鴉の首元に手刀を寸止めで当てられて黒鴉は完敗する。
「小夜の勝ち!わーい!」
「…うっ!私の負け…ね」
無邪気に喜ぶ小夜に黒鴉は自分が如何にして戦うべきか見失い茫然自失していたのだった。




