コード“餞”4
休日、お手伝いロボ関連の作業が無くなった翔と黒姫は暇を持て余して快晴の空の下で街に出て買い物を楽しむ。黒姫は翔の懐事情を心配そうにするが翔は大丈夫と笑う。
「気にしなくていい、ほら一応一月分の給料あるから」
「初任給の支給って今月末じゃ…」
翔は遠い目をして「退職金」と呟き黒姫は「あっ」と口を塞ぐ。
「その…ウィンドウショッピングしましょう」
「だから気にしないでいいって…」
気を使われて翔はほろりと涙を流す。気まずい雰囲気で二人で歩いていると過去に敵と何度も戦った駅前で足を止める。
「平和になったな…」
魔物も出なくなり未来からの攻撃も無くなり自分達の存在意義に疑念を抱く。
「翔君…本当にそう思いますか?」
「駄目だと分かってて、長続きしないって分かってて…それでも平和は皆願うんじゃないか?」
翔は続けて何処かで誰かが口火を切るのは分かっているが納得は出来ないと苦笑いする。
「…共通の敵が現れたら…あ、でもそれは平和じゃないですね」
「はは、絶対水面下で足を蹴り合うだろ」
翔は黒鴉の性格を考えてムリムリと手を振る。
「姉さんに厳しいですね」
「信頼というか信用というか、アイツなら絶対喧嘩するという自信がある」
黒姫はじっと翔を見つめる。真剣な眼差しに翔はたじろいでどうしたのかと尋ねる。
「翔君、私達姉妹は貴方が心の支えですから…素っ気ない態度はダメですよ?」
「支えとは…デカい話だな」
大胆な告白に翔は言葉に困りながら頬を掻く。
「姉さん立ち直れたのは翔君の存在大きいのですよ。だから…」
「だから…?」
黒姫は笑いなんでもないと誤魔化す。
「前々から黒鴉とくっつけようとしてないか?」
「…だって姉さん性格アレだから…世論が許すなら翔君位しか…」
「半ば押し付けじゃないか!」
二人はクスリと笑い、翔が一言ぼやく。
「黒鴉の心情無視して話進めるのは良くないな」
「そ、そうですね…」
くしゃみしていそうな遠くの黒鴉の話は止めようと沈黙が流れ、空気を買えようと同時に話を切り出そうとしてコテコテな展開に恥ずかしくなり照れる。
先程まで日が出ていたが急に雲が日を遮り不穏な空気を察して翔は黙ってポケットのキーホルダーに触れる。黒姫も気付き翔に呼び掛けて翔は分かっていると頷いて周囲を見渡す。
「戦いはいつもここから…だな」
周囲に湧き出る中型の魔物に久しぶりに感じる戦いに武器を構えた翔と黒姫は自分達の在り方を思い出す。
「神姫無しで行けるか?」
「私の本来の武器はナイフですから…!」
敵には見覚えのある魔物も混じっていて翔は気を引き締める。
「猪…背中と頭がカチカチだったな…」
一匹走ってくる猪に精霊を呼び出して焰鬼の一撃で姿勢を崩させて一度は苦戦した相手を一撃で屠り魔石になるのを見てギョッとする。
「こいつら!」
神斎の世界からの魔物だと気付いて渋い顔をする。
「突発的なものでしょうか…」
「どちらにせよ面倒事になる前に処理しないと!」
下手に散られる前に翔達は必死に食い止めようと突撃していく。
(魔石ってまだ金になるかな)
邪な事を意識してしまいながらも敵を一刀のもとに切り伏せていく。それを黒姫は横目で見て随分と差が開いたと感じつつ袖の下から暗器代わりのフォークとナイフのカトラリーを投げつける。注意を引いた敵の背後からデスの鎌で刈り取っていく。翔は黒姫の特殊な戦い方に目を丸くして背中を預けながら聞く。
「暗器なんてどこで教わったんだ?」
「アキトさんから…神姫の力使えないなら代用をって…」
チャキっと見せるまだ残ってるフォークに翔は「まさか…家の?」と尋ねると慌てて否定する。
「ち、違いますよ!?…その、百均の安物です」
「それ隠し持ってたのか…」
恥ずかしそうに黒姫ははにかむがデートにまでしっかりと武装している強かさに翔は色々と感じつつ敵を一掃するのだった。




