コード“姫”12
黒鴉と敵の男、結界内で対峙して睨み合う。
「殺し合う前に聞きたいことあるんだけど」
剣を変化させたキーホルダーを指でくるくる回しながら黒鴉は尋ねる。
震える手で銃を向けてくる男が無言で黒鴉を睨み続ける。
「何ビビってるのよ?別にお喋りくらいいいじゃない」
「な、なぜそんなに余裕なんだ!銃を向けられてるんだぞ!?」
黒鴉は男の言葉を聞いて高笑いする。
「あーはっはっは、こっちは神と戦ってて銃ごとき今更よ!」
大見得張る黒鴉だったが心中穏やかではなく冷や汗を流す。
(ほんとは銃は怖いけど…集中すれば覚醒者の瞬発力で避けれる…はず!)
男は目の前の相手が討伐対象の神と戦った事があると聞いて銃を下げてホッとしたように黒鴉に質問する。
「君は神と戦っているのか!?我々の味方なのか?」
思ってもいなかった反応に黒鴉は呆気にとられる。
「は?…あー、味方かぁ…うん、まぁ違うけど」
敵の男は黒鴉の返答に困惑しつつ銃をまたゆっくりと向けられる。
「何者なんだ?!」
「それはこっちの台詞なんだけど…まぁ知りたいなら答えてあげるわ!」
黒鴉はカッと目を見開き剣を取り出して掲げ高らかに叫ぶ。
「百戦百勝、神藤財閥のご令嬢!覚醒者を束ねて神殺し…とまでは行かないけど勝利を納めた神藤黒鴉!」
「…ご令嬢?…神殺し?」
男は黒鴉の堂々とした姿に後退りする。
「ちょっと!何よ?聞いたのはそっちでしょ!恥ずかしいじゃない!」
「いや、その…なんて言うか…」
「戦うの?やめるの?どっちよ」
黒鴉が剣を向けると男は両手を挙げる。
「自信満々になられると…勝てる気しないし…」
気迫で相手を打ち負かした黒鴉は内心ホッとするも強気の姿勢を崩すわけにも行かず悪態をつく。
「意気地無しめ…まぁいいわ、ほらアンタも名乗りなさいよ」
男は無茶苦茶な黒鴉に呆れながら名乗る。
「アレックスだ、特別な出自じゃないから他に言えることが…」
「戦う気無いなら解放して欲しいわね…皆がアンタみたいに話せる奴なら楽なのにね」
「…皆?皆って…いや、どうなったんだ…」
口振りから状況を察したアレックスが青ざめるのを見て黒鴉は少し考えてから脅すように答える。
「さぁ?知らないわ、でも皆倒したって言ってたわよ?あ、一人生け捕りにしたって聞いたわね」
「ひ、一人以外死んだのか…?…そうか、やはり我々は…分かった解除する」
死の恐怖に震えるアレックスは結界を解除する。
敵と二人で戻ってきた事にじっと待っていた黒姫が驚く。
「姉さん!?どうなって…」
「心配だった?口で勝ったわ、勿論戦っても私が勝つわよ?」
黒姫の前でキーホルダーに戻した剣をくるくる回してアレックスを見る。
「取り敢えず生き残りに会ってみる?というか色々聞きたいんだけど」
「あ、ああ…」
アレックスは頷き黒鴉が携帯を取り出す。
「やれやれよ…休みが無くなったわねー」
「姉さん?この人は大丈夫なの?」
黒鴉がアレックスの背中を叩いて大丈夫アピールする。
「食と住は担保されてるし身の安全も保証するから大丈夫」
「いや、そっちじゃなくて…」
黒姫が武装解除してないことを指摘しようとするとアレックスが自ら箱を黒鴉に渡す。
「先にこれを、テレボックスだ」
「あー、はいはい。いつもの箱ね…ん?テレボックスぅ?」
名前の珍妙さに呆れながら黒鴉が父と通話して車を依頼する。
折角のショッピングを台無しにされた黒姫は肩を落として文句を言いたげだったが進展が有ることを願い我慢する。
暫くしてすっかり専属の運転手になった便利屋担当の荻原が面倒臭そうに迎えに来てアレックスを見て身構える。
「な、なんか敵さん無傷に俺様びっくりなんだけど」
「ほら、さっさと行くわよ!」
黒鴉はアレックスを連れて行ってしまい黒姫だけ残されふと嫌な事に気付く。
「あ、母さんになんて言い訳しようかな…まあ怒られるのは姉さんだからいいか」




