コード“或”8
上位世界と違って貧相な研究所に思わずマークも苦笑いして、それを見て黒鴉がムッとして小声でぶつぶつと文句を呟いていた。
亜紀人が黒鴉をフォローするように話す。
「未来の施設や設備と一緒にされてもなぁ?」
「そ、そうね…これでも時代の最先端…とまでは行かないけど…」
一部特別な設備は国家レベルとまではいかなくともそれなりだとちょっと自信を失いながら黒鴉も言ってみる。
「姉さん大丈夫です。限定的な使い方する機械はここには不要でしょうし」
黒姫も苦笑いしてしまい黒鴉は少しションボリする。
「神田ぁ、最先端の機械とか集めちゃわない?」
「ダメです。幾らお金あっても元が取れません」
黒鴉の我が儘を慣れた様子であしらう神華の様子にマークが自分の知っている神の姿との違いに意外そうに瞬きをする。
少し散らかった作戦室にマークが入り顔見知りが何人もいる事につい声を出してしまう。
「ツムギとヨロズではないか!」
「うわ、ハゲだ!」
声をかけられたツムギが大袈裟に声を出してマークはお約束のように「スキンヘッド」を強調する。
「遅かったねぇ、どこ行ってたの?」
「…?ずっと向こうで作業してたんだが?」
「えぇ?!僕達さっさと捨て駒にされたんですけどぉ!?」
マークは不思議そうにヨロズとカスパーを見る。
ヨロズは軽く頷いて「そんなところ」と呆れ気味に答え、カスパーは首を横に振る。
「俺はメッセンジャー、まぁ神の研究情報だけ聞かれて録に作業もなくだから捨て駒も同じか…」
「お前達の状況を知らなかった…気を悪くさせたらすまんな」
謝罪を聞いて全員そんなに気にしてないと身振りする。
「で、この後どうするの?」
黒鴉が質問するとマークは箱を要求する。
「アルバートを呼び出す。テレボックス残ってないか?」
「あー、箱?そっちの翔持ってるんじゃない?」
亜紀人が指差されてしかめっ面になり存在に気付いたツムギが露骨に驚く。
「うわ!神の方のKだ!…なんでいるのさ」
「居ちゃ悪いか?…アルバートが来るなら葬る為に来た」
「なんか凄い私怨だね…殺気漏れてるよぉ?」
亜紀人とアルバートの因縁を知らない全員がドン引きする。
「知りたきゃ話すが?」
亜紀人の言葉にミレイが思い出したように黒鴉に耳打ちする。
「私箱用意してきますね、皆話聞いた方が良いかもしれませんし」
いそいそとミレイは返事を待たずに作戦室を出て懐から箱を取り出してホッとため息をつく。
亜紀人に対して自然と視線が集まりアルバートとの因縁について話しを始める。
「奴との因縁は神姫が作られて暫くしたある日だったな…呼び出しを受けて部屋に行った時だったな、奴の俺への嫉妬心が殺意になった」
自分のこめかみに人差し指押し付けてパンとジェスチャーする。
「んで死体利用されて出来たのが俺って訳」
ツムギが全員の反応を代弁する声を出す。
「うわぁ、人間改造ってエグゥ」
黒鴉が不思議そうに質問する。
「神って人間を改造したんじゃないの?」
「違うよぉ、人工生命体…ホムンクルスだっけ?デザイナーベビー?まぁ生きてる人間を素材にはしてないよ?」
ツムギがとんでもないと言いたげな顔で答えるが黒鴉は苦い顔をする。
「生命への冒涜ね…」
「倫理観の問題だねぇ、既にそのラインは越えてる世界だからね、寧ろデザイナーベビーで見た目も良く頭も良く…進化には必要だと思うけどね」
黒鴉とツムギの問答を他所にカスパーが首を傾げる。
「Kは何故二人になっているんだ?」
黒姫が説明しようとするがしどろもどろになる。
「それは…えっと…」
亜紀人は黒姫が自分の力について余計な事を言われないように先に説明する。
「そこも俺が話すさ、神鳴の力で死ななかった…そっちの俺とで分かれただけだ」
黒姫は「え?」と亜紀人を見るが言いたいことを察して一歩下がって翔の後ろに隠れる。
話が終わったのを見計らってミレイが箱を持って現れる。
「これで良いんですよね?」
マークは複雑な表情で箱を受け取り準備は大丈夫かと黒鴉と亜紀人に聞く。
「好きにしろ」
「何時でもどうぞ?」
二人の言葉にマークは頷いて通信を始めるのだった。




