コード“鳴”14
誘い出した敵を探して走る翔、その目の前に待ち構えていたかのような佇まいの科学者と思えない筋骨隆々とした白衣の大男がいた。
「…これは…騙されたか」
翔はミレイへの恨み言を呟きながら敵と対峙し焰鬼の刀を構える。
「ガキかよ、本当にこいつが脅威か?」
翔は低身長ではなかったが敵の大男からしたら子供扱いされるようなサイズ感だった。男はニヤリと顔を歪めて懐から箱を取り出して翔に向ける。
「正々堂々と死合おうか!コード“姫”」
結界に捕らわれ否が応にも決闘のような形に持ち込まれる。
大男は更にコード“楽”により戦斧を取り出し軽く振り回す。
「ははは!怖じ気付いたか?まだまだ使うぞ!コード“斎”」
小型のゴブリンのような魔物を何体も呼び出して翔にけしかける。
「タイマンじゃないのかよ!?」
翔は飛び掛かってくる魔物を瞬時に切り捨ててしかめっ面をして敵を睨む。
「見てくれだけの刀じゃないか…ならば超加速だ!」
「…っ!雷怨!」
「コード“鳴”!」
敵の加速の言葉を聞いて即座に武器を切り替えて雷で周囲を一斉に攻撃する。
次の瞬間には周囲の結界が解けて痺れながら煙を出して壊れた箱を握りしめた大男がゆっくり倒れる光景が目に入る。
(当たった?!…まさか神鳴の力で加速してくるとは…電撃で箱が壊れなかったらヤバかったな)
紙一重の判断の差だったと肝を冷やしながら倒れた大男を見つめトドメを入れる為にジリジリと間合いを詰める。しかしサッと間に亜紀人が空から降り立って翔を片手で制止しながら大男の斧を破壊する。
「悪いがソイツの身柄は俺が貰おうか」
「…っな!」
亜紀人は大男の首筋にブレードを宛がい声をかける。
「起きてるんだろ?気絶したフリか卑怯者」
「むぐぅ…邪魔者が!」
翔がもう少し近寄っていたら斧による不意討ちを行えたであろう大男は悔しそうに悪態をつくが亜紀人は無視して質問を行う。
「アルバートは元気か?」
「…アルバートだと?あの口だけ野郎が…?」
大男は舌打ちして亜紀人を一睨みして嘲笑う。
「っは!情報が欲しいってか?」
「いや、十分だ…」
亜紀人は無表情でブレードを振る。切られると思っていなかった大男は呆気に取られた表情で首を跳ねられて絶命した。
「おま!何やって…!?」
「相手にする価値の無い奴だ、生かす理由は無かったな」
ブレードの返り血を振り払って亜紀人は下らないとため息をついて去っていく。
翔は一人残されて自分の実力不足を感じ苦い顔をしながら黒鴉を迎えに行く。
ほぼ無傷で戻ってきた翔を見てミレイは感心したように唸る。
「ほー、早かったね」
ぶん殴ってやろうかと翔は拳を握るが一仕事終えた黒鴉が現れて冷静になる。
「黒鴉様お疲れ様です」
媚びるような動作でミレイは黒鴉に近付くが黒鴉は何でいるのかと疑いの眼差しで牽制して翔に質問する。
「何でミレイが居るのよ?」
「無理矢理追いかけてきたようだ」
追跡装置の事は言わずに伝えると黒鴉は呆れつつ翔に戦闘した形跡を見て頭を押さえてため息をつく。
「敵出たのね…大丈夫だった?」
心配する黒鴉の優しさに気持ち悪さを感じつつ翔は余裕とアピールしておく。
「後でどんな敵だったか聞くわ、敵普通に居るならミレイは帰りなさい」
あしらうように手を動かしてミレイを帰そうとする。黒鴉の冷たい対応でも心配してもらって喜びながら翔に帰る手配をしてもらう。
「…迷惑な事してくれて反省しろよ」
タクシーを手配した翔の注意する。
「はいはい、ご苦労様K」
態度の悪いミレイに嫌われていると確信して翔もテキトーに研究所へ送り返す。
黒鴉はミレイが居なくなったのを確認して翔に普段の様子に戻ってジト目になる。
「何があったのかしら?端から見てもアンタ達おかしかったわよ?」
本当の事を言うべきか悩むが一つだけ話しておく。
「箱を使って敵を誘き出して他派閥の戦力削ろうと俺に押し付けてな…まぁちょっとギクシャクしてな」
「…わかった、箱は没収ね」
同意見だと翔は頷いて疲れた顔をする。
黒鴉がまた仕事でスタジオに戻るのを見届けて翔は携帯を取り出すと亜紀人からメッセージが届いていた。
『敵を見つけたら有無を言わさず倒せ、結界張られたら助けられないからな』
なかなかに常識破りな話に情報収集はと聞き返してしまう。
『自分達の心配をしろ、喋らせたら好き勝手されるぞ』
(そうだな…神鳴の力でいきなり加速されて一撃で殺られかねないよな…)
音声認識の魔法の箱を使わせるなと亜紀人は警告され反省するのだった。




