コード“姫”10
神藤技術研究所の地下、捕らえた敵の構成員を尋問しようと黒鴉と神楽そして葛之葉がマジックミラー越しに敵を観察していた。
「なんで母狐も来てるのかしら」
人選に首を傾げる黒鴉だったが葛之葉は笑顔のまま答えなかった。
「神威は?」
神楽がキョロキョロしながら研究所にいるであろう神威の姿を探す。
「自分で『なぞを解き明かす、助けはいらん』なんて言ってまだ籠ってるわ」
呆れ顔の黒鴉を見て意固地になる神威を想像して神楽は笑う。
「始めます?質問表は?」
葛之葉の言葉に黒鴉は竜司から受け取っている書類を取り出す。
結構な量に面倒そうと三人は思いながらマイクを入れて敵に質問を始める。
「まずは名前ね、聞こえてる?」
返事はない。
「ちょっと何か言いなさいよ」
黒鴉がマイクをポンポン叩く。
葛之葉が黒鴉の見える位置で腕をクイッと上げる動作をする。刹那ボキッと鈍い音を立てて黙っていた女の左小指があらぬ方向へ曲がり悲鳴を上げる。
「ちょ、ちょっと!これじゃ拷問じゃない!良くないわよそういうの!」
「次は薬指行きますよ?」
黒鴉を無視して警告を発するとゆっくりと葛之葉は腕を動かす。
『言う!言います!ニーナ・マルクス』
葛之葉は腕を下げタメ息を吐く。
「さっさと言いなさいよ、名前位で損するなんてね」
神楽も黒鴉も拷問にドン引きしながらメモを取る。
「それじゃあ次の質問…」
「個人情報はいいわ、さっさと本題に入りましょう」
「わ、わかったわ」
黒鴉は葛之葉の言葉に動揺しながらページを捲って組織的な話に移る。
「えーっと、ニーナ、あなたの組織のボスの名前は?」
『し、知らない…本当!あたいら下っ端は何も聞いてない!』
黒鴉は葛之葉の拷問にジェスチャーでストップをかける。
「じゃあ組織の目的は?」
『…っ!…神を殺して世界の資源や全てを手に入れる、そう聞いたわ』
しらけた雰囲気で聞いていた神楽が質問表を無視して質問をする。
「武器は銃だけなの?魔法とか知ってるかしら?」
『魔法?なんの事よ?そんなものあるわけ…』
マイクをオフにして神楽が首を横に降る。
「下っ端は本当ね、多少の訓練された人か科学者なら神についての知識、つまり私の魔法を知らないとは思えないわ」
「じゃあ、あんまり情報引き出せないわね」
黒鴉もがっかりした様子で幾つかの項目にバツ印をつける。
「これ、聞いときましょう…帰る方法は?」
『目標達成したら…箱で通信して…サルベージしてもらう約束』
恐怖に震えた声でゆっくり答え黒鴉がふむふむと頷く。
「箱かぁ…通信機だったのね」
葛之葉が箱を壊した事を呟く。
「一つ怒りに任せて壊しちゃいました…」
少しの沈黙の後、また黒鴉が質問する。
「あとどれくらいあんたの仲間が来ているのかしら?」
『分からない、随時追加とか言ってた記憶がある…』
「はぁー、どうする?」
黒鴉の言葉に神楽は慈悲をかけるべきと伝え葛之葉も話に乗る。
「では帰還の実演をしてもらいましょう」
「そうね、ちょうど良いわ」
神威を呼び出し箱を持ってこさせ一緒に様子を伺う事にする。
呼び出しに応じて普段から痩せているが頬に更に凹みができた神威が現れる。
「箱を使う実演か、良いだろう」
ニーナは箱をロボットアームで手渡され震える手で箱を操作する。
『助けて、助けて…』
必死な訴えに黒鴉が見ていられなくなる。
「あー、私無理、ちょっと心痛む」
「まだまだ子供ね」
神楽に鼻で笑われて憤慨しそうになるが痛々しい雰囲気のニーナを見て子供で良いやと思い直す。
『どういう事よ!ピンチだから助けろって言ってるの!』
「どうやら交渉決裂したみたいね、消耗品扱いね」
神楽の言葉に葛之葉も同意する。
神威がモニタリングしながら怪訝な顔をする。
「一体どうやって会話を…誰と?我々には聞こえないな…」
『あああ!ふざけんな!』
ニーナが箱を床に叩きつけて壊す。
「ムカついたからって壊さないでよ!…まったく暫く身柄は拘束させてもらうわ」
マイクを切って黒鴉が疲れたと呟く。
「ふむ、データは取れたもう少し研究室借りるぞ」
神威は去っていき神楽と葛之葉も後は黒鴉に任せると伝えて帰っていく。
「もう!皆無責任じゃない!」




