コード“竜”14
夢の中、意識がハッキリする翔はなんとか脱しようと幾つも案を考える。
「頬をつねっても…痛くないけどダメか、顔を洗うか?」
呟きが聞こえたのか黒姫が目を覚まして扇情的な姿勢をして何事か聞いてくる。
「どうかしたのですか?」
「あー、いけませんよ!夢の中だからってそういうのは!」
慌てる翔の様子に訳も分からず黒姫は首を傾げて挑発するようにクスクスと笑う。
「あー!畜生!この煩悩がー!」
翔は自分に怒りながら壁に額を何度か打ち付け悲哀に満ちた感じに呟く。
「悪夢だ…」
悪夢とまで言われて黒姫は不満そうにベッドから降りて尋ねる。
「変な夢でも見たんでしょう?混乱するほどの」
「今見てるんだよ!ここは夢の中だ!どうすりゃ起きるんだ?!超ピンチなんだぞ!」
必死に危険のアピールをすると黒姫は困ったように頬に手を当てる。
「朝風呂にでも入りますか?」
「…それアレだろ多分起きたら漏らしてるやつ」
「こっちが現実でそのピンチが夢だとは思わないのですか?」
一瞬の沈黙、翔は冷や汗を流す。
「一番言われると困るやつをそうアッサリと…」
「私の現実はここですからね…」
同情を誘う言い方をされても翔は毅然とした態度を決める。
「甘く幸せでも逃げる訳には…って、こら!肌をチラチラ見せるな!下品だぞ!」
「でも昨晩はあんなに…」
「記憶にございません!」
半泣きになりながら翔はツッコミを続ける。
(誰か助けて!色々と死ぬ!)
現実、研究所入口では上位世界の研究員達の前に亜紀人が立ち塞がっていた。
「貴様…何者だ!?」
ボランティアの顔などわざわざ覚えていないのか亜紀人に敵意を向ける。
「そうか知らないか、好都合だ」
ブレードを手に取り構えると一人が箱を向けて叫ぶ。
「コード“竜”!理想の夢でも見ていろ!」
「へぇ、竜をそういう解釈したのか」
平然とする亜紀人に研究員達が驚き後退りする。
「き、効いてない!?ならば!コード“姫”!」
結界を張ろうとするが何も起きず亜紀人はため息をついて挑発するように指を振る。
研究員達は諦めずに叫ぶ。
「くそっ!コード“華”!武器を捨てろ!」
「…断る」
ブレードを軽く振ってニヤリと笑う。
「小者には興味ない、ボスを出しな」
「ほざけ!コード“斎”!」
小型魔物の群れを呼び出したのを見て亜紀人はまたため息を吐く。
「はぁ、その程度じゃ戯れにもならないぞ」
異質な亜紀人に怯え震える手で銃を構える研究員達、飛び出した魔物を一瞬で細切れにして亜紀人は不敵に笑う。
一人が引き金に指をかける。しかし、気付いた時には既に魔物は全てバラバラにされ研究員は一人を残して銃身と首と手足をバッサリ切り落とされていた。
「ヒィ!ば!バケモノ!」
生き残りは腰を抜かして尻餅をつきゆっくり後ろに這うように後退りする。
「バケモノは酷いな…データには無いが俺もお前らが作った神なんだぜ?」
亜紀人は威嚇するようにブレードの返り血を振り払い飛沫が生き残りの顔に付着しまた悲鳴を上げる。
「た、たた…助けて…助けてくれぇ!」
「っち、情けないな…コード“竜”を解除しろ、あとボスを出せ」
「む、無理だ!」
亜紀人は黙ってブレードを敵の脇にスッとあてがう。
「箱!発動者の箱を壊せば解除される!だ、だが…ボスは…我々の呼び掛けには絶対に答えない…無理なんだ!」
生き残りは絶望したように引きつった笑みを浮かべて箱を差し出す。
「あっそ、じゃあそっちの大将出るまで狩らせてもらうとするさ」
差し出された箱を研究員ごと一刀両断して辺りを見渡してブレードを納刀する。
「目覚めて顔会わせたら面倒だな…帰るか」
誰が聞いているわけでもないのに亜紀人は独り言を呟いてパッと飛ぶように消える。
少しして翔はぼんやりとした様子で寝言を呟く。
「だ、ダメだ黒姫…流石にそれは…ッハ!」
目を覚まして首を激しく横に振る。
(ああ、黒姫に会わせる顔が無い…じゃなくて!)
どこか満たされない感覚に不甲斐ないと苦虫を噛み潰したような表情をするがすぐに現在の状況を思い出して窓の外を確認する。
「…な、何があったんだ…?!」
惨劇の有り様をまざまざと見せつけられ呆気に取られる。
ゆっくりと入口から出て死体に近づきバラバラにされた人体に口を押さえて嘔吐く。
(こんなバッサリ…まさか!?)
もう一人の自分の可能性が真っ先に過り何故という疑問と躊躇無い殺戮に恐怖を覚えながら落ちている箱をとりあえず破壊していく。
(…そうだ!皆は無事か!?)
眠るように倒れている仲間達を思い出し死体の掃除は後回しにして翔はラウンジへ走り出すのだった。




