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第16話 魔術

今日は朝から雨で、一般的にはあまり外に出たくない日だろう。

しかし、ギルド内から出ないオレにとっては、それもいいアクセントになるんだよな。


サイラスとの待ち合わせまで1時間あるし、久しぶりに生活用魔導具でも見に行くか。


『え~!?お金ないのに?』


……そうなんだよなぁ。そろそろ腕時計でも欲しかったんだけどなぁ。最近、耐水性のモデルが出たって聞いたし。見るだけでも。

『見たら触りたくなるでしょ?触ったら壊すでしょ?壊したら弁償だよ?』


オレをいつまでも昔のオレだと思ってるな?今のオレには―――弁償する金があるんだぜ?

『それサイラスに払うお金でしょ!?さっきお金ないって同意したよね!?』


冗談だよ。冗談。

『本心以外の何物でもなかったと思うけど、分かったならいいよ』


この1ヵ月で貯金は7万ゴルがせいぜいだった。

魔石の売却額はオレが受け取れるので1週間しか持たないわけではないが、それでも宿代や食費もかかるからいつまでも続けられるわけじゃない。


『じゃあ現実的な目安は最長2~3週間くらいかな?』

そのくらいだろうな。


『でも、意外だったよ。ヒョウなら面倒を避けたくて狩場を変えると思ったから』

確かにそうしようとしたんだが、成り行きでそうなったんだよ。


昨日のことを思い出す―――。




◇ ◇ ◇




森に入ったオレは、いつも以上にアリスの声に意識を割きながら進んでいた。


しばらくして、遭遇したのは赤い蜘蛛型のモンスター。

マッドスパイダーだ。遠距離攻撃の糸が要注意だと聞いている。


向こうもこちらに気付いている。


オレは角ウルフのように左右にステップしながら近づく。


すぐマッドスパイダーはこちらに尾を向け、糸を発射してくる。

あらかじめ予想して大きく避けておいてよかった。

糸は拡散するように飛んでくる。ギリギリで躱そうとすれば絡めとられそうだ。


連続して発射してくるので、とてもじゃないが、近付けない。


周りは木ばかりで走りにくいし―――それだ。

オレは木の陰に隠れて、糸を木に受けてもらう。

さらに、次の糸が発射されるまでのわずかな合間に次の木の陰へ入り、距離を詰めていく。


棒の間合いまで辿り着いた―――瞬間、振り下ろしを食らわせる。

まだ森のモンスターに適応されてないオレのレベルでも一撃で倒せたようだ。

マッドスパイダーが煙になり、オレのレベルが上がった―――瞬間、生まれ変わったかのような感覚に包まれた。


アリス!きたぞ!ジュディスの説明を聞いて以来、ずっと待ち望んでいた瞬間―――魔術の発現だ。


『おめでとう!名前は?』

〈重量増加〉だ。効果は実際に使ってみないと分からない。次のモンスターに使ってみよう。


十数分後―――

再度マッドスパイダーと遭遇したので、同じ要領で距離を詰める。


振り下ろしを繰り出す直前に―――


【重量増加】


振りの途中にもかかわらず、下に引っ張られる力が増し、棒の重さが一瞬で増したのが分かる。

マッドスパイダーに直撃した一撃はそのまま地面に突き刺さり、亀裂を入れた。

これは想像以上だ!


良い魔術を引いた、とテンションが上がったそのとき―――


『茂みに誰か隠れてる!』


アリスの警告に、心臓が大きく跳ね、頭は一瞬で冷えた。


「そこの茂みにいるやつ、出て来いよ」


そう言うと、出てきたのは小柄なネズミ顔の男。


―――全然気付かなかった。


男が言うには、ここは自分の狩場だ、と。

納得だ。確かにそれは荒らされたくないよな。


オレが狩場には近寄らない旨を伝えようとすると―――


サイラスが憐れみを誘う顔で口を開く。


「オイラ―――すごく弱いんです!お願いですから狩場を移していただけないでしょうか?」


土、土下座!?迷いもなければ淀みもないスムーズな土下座。

そこまでしなくてもオレはお前と揉めるつもりはない、そう言おうと思って―――気付いた。

右手に握った棒が……滅茶苦茶重いぞ?


さりげなく力を入れていくが、全く持ち上がる気配がない。


こいつは笑うしかない。


「アハハハハ」

「!?」


移動してやりたくても、すぐには無理だ。


「それはできないな。えーっと、オレには時間が足りない」

「ちょっと待ってください。あなたに協力しますから、オイラにも旨味をください」


協力?一緒に棒を持ってくれるってことか?

旨味…というのは金のことか?

そんなことで金をもらおう……だと!?


「……なにを言っているのか分からない」

「……オイラはギルド員に知り合いがいます。その方に間に立ってもらって、契約しませんか?オイラの効率的な狩りであなたに協力します。全てモンスターを狩って頂いて結構です。魔石もいりません。その代わりといってはなんですが、1日1万ゴルもらえませんか?あなたの実力ならきっとすぐ4級冒険者になれます」

「……」


小銭稼ぎに失敗して、割とマトモな契約を持ちかけてきたな。

しかし、未だに棒が重たくてそれどころじゃないんだ。


「分かりました。1日9千ゴル、それでどうか手を打ってください。ただ、契約外で狩場を使うのも、他の人に教えるのも禁止という内容で契約させてください。そうでないと、オイラの狩場を守ることにならないので」


何故かこちらにより有利な条件に変えてきたぞ?


……お?棒が軽くなった。本当に良かったぁぁぁ。

相棒とここでお別れは悲しすぎる。


オレはご機嫌になって男に返事を返す。


「じゃあそれでいこう。これからはお互い対等の立場だ。敬語なしでやっていこうぜ。今更だが、オレはヒョウ」

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