勇者無双と最後っ屁
惨劇を目の当たりにし、魔王の精神攻撃により、残りの一人は「食欲」をなくした。
おのれ魔王、よもやそんな術まで使えるとはな……。
結局のところ、普通に食えたのは俺と、俺の友人の二人だけだった。
しかものんきに。
「これ、食えるわ」
「塩味きついな」
「うん、量はいらんね」
とか普通の会話をしているという状態。
この段階で減ったシュールの肉片は全部で5枚とひとかけら。
だが缶の中にはぎっしり15枚近くの魚の開きが入っていたのだから先が長い。
「今日はこれ食うまで帰れねぇぜ☆」
と開ける前に言っていた女性幹事だが、
「過去に戻って自分をぶん殴りたい」
と言っていた。
そして食べる俺と友人。
……他の皆にはどう映っただろうか?
雨も降ってないのに雨合羽でしゃがみこむ俺を、沢山のその他がカメラを持って取り囲んでいるのを見てしまった一般人が、「何の儀式だ? 近寄ったら危ない!」と戦々恐々とするのと同じように俺ら二人を見たかもしれない。
数々の勇者を撃退してきたであろう魔王も、二人にかかれば酒の肴レベルに落ちていた。
そして尊敬と畏怖(まさにそのとおりの気持ちだったろうが)の念をこめて俺たち二人は真の勇者になった。
もう(犠牲者)とは付かない真の勇者だ!
結局その後女性幹事が少し行ったが、基本は二人で平らげてしまった。
他の者はシュールなどに目もくれず、チーズや生ハムをたべ、付け合わせだったはずのマッシュポテトだけを食べて宴会は進んだ。
シュールを食べたことは彼らにとってもかなりの意識変革になったようで、
「ただのマッシュポテトうめぇ!」
「生ハム考えたやつ天才!」
とはしゃいでいた。
底辺を知ることは上を知ることなのだ!
彼らは普通というのがいかに大事なことであるかを、身をもって知ったのだ。
もしかしたらシュールさんは、ソレを伝えたかったのかもしれない……
勇者二人で完全にシュールを平らげたところで、宴会は一旦お開きになった。
目的の達成というのもあったが、やはり冬の海岸の風は寒い。
みんな芯から冷え切っていた。
片付ける際に一番危ないのが、開けた時に使った缶きりとゴム手袋だ。
俺は厳重にビニールを数枚かぶせて匂いをシャットダウンした。
これで一件落着。
魔王は完全に滅びたし、女性幹事も二度と召還(商品クリック)ボタンを押すまいと硬く心に誓ったし、片付けも済んだ。
これでもうシュールの悪夢から開放された。
めでたしめでたし☆
というわけにはいかなかったりする。
平和もつかの間、見えないところで異変が……
女性幹事の容態が激しく悪化!
腹を破ってシュールの子供が飛び出さんばかりに苦しんでいる。
もともと体調も悪く、寝不足であったところにお酒……
そしてシュールが来たのだ、仕方が無い。
(でも勇者は6切れ以上食べたが平気)
やつらと来たら胃の中からも攻撃をしてくるのだ!
げっぷが出るたびにシュール臭がし、そのたびにこみ上げる。これは女性には酷だろう。
結局市内まで帰って来たところで、女性幹事は胃の中をすっきりさせにいった。
これほどまでにすさまじい破壊力を持っていたとは……
喫茶店で話をして
最終的に19時くらいに解散した。
まだゲップはシュール臭だが、だんだんと薄くなりつつある……
私はこのときを持って完全勝利を確信した!
皆と別れ、一人帰路に付く。
バスに乗って携帯の充電池を取り出そうとしたそのときだ。
プーン
「臭いっ!!」
ここにきてシュール臭がした。
何だ! 何が原因なんだ!
急いで鞄をひっくり返すとその理由が判った。
勇者の剣……いや、缶切りがビニール袋を裂いていて、中から少量ではあるがシュール汁が漏れ出していたのだ。
鞄、殉職。
新たに漂うシュール臭は清潔だったバスの空気を汚染し
俺の肩身を狭くしたのだった……
いかがでしたでしょうか?
10年前の出来事なのですが、再掲載という形で載せました。
他に真面目なやつも書いてるので、良ければお気に入り登録お待ちしております!