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食べる阿呆に見る阿呆

「誰が、最初に食べる?」


 そう言ったのが俺だということが原因なのか。

 俺が勇者だったからなのか。

 面倒ごとを押し付けるのに最適だったのか。


 その全てなのか、それは判らないが。


 とにかくその言葉を口にしたのは、先手必勝を狙って自分にお鉢が回ってくるのを防ぐためだったのだが、完全に裏目に出たのは言うまでも無い。


「俺食べますよ」


 釘付けになっていた視線が声のするほうに向けられた。


 声の主は女性。

 自分を俺と形容する不思議なキャラだが、最近は私と言えるように気を配っているらしい。


 しかし、今は気が回っていないようだ。


 きっと食べたくてうずうずしてるんだろう? きっとそうだな!


「俺も勇者にならせてください」


 そいつの言葉に、勇者はなるべくしてなるものじゃ無い、という以前のくだりが出てきそうだったが。

「おう、食え食え」とはやし立てるのは、俺にお鉢が回ってこないための自己防衛策だったと思う。


かくして新たな勇者(と書いてry)は鼻息荒く魔王に立ち向かった。



__の前に支度。

 バゲットに女性幹事の特製マッシュポテトを載せて

その上にシュールの中身を一切れ載せる。


 おお。こうやって整えると、わりと上品な食べ物に見えるじゃないか!


 そもそも、シュールは生魚を開き、簡単に内臓や骨をはずしてから詰めてあるもので。

 醗酵の進んでないこの段階では、魚がまだ原型のままで残っていた。

 いうなれば豪快な刺身の塩漬けみたいなものだ


 準備万端整ったのはいいが、この新勇者、どことなく頼りない。


 口元に持っていっては「くせぇ」と文句を言い離してしまう。


「がんばれ」

「食え食え」


 野次ったり励ましたりと反応はさまざまだが、ここで新勇者にがんばってもらえなければ、次はわが身とひしひしと感じているのだ。


 パクッ


「おおっ!!」


 見守るギャラリー

 一瞬固まる新勇者。


「ほれ、ふり!」


 これ、むり!


 口に物を入れたまましゃべるな。


「はひへいいへふは?はひへいいへふは?」

 出して良いですか?出して良いですか?


 シュール語を理解した隣の男性がすかさず鬼太郎袋を取り出す。


 ゲッゲッ ゲゲゲのゲ~♪


 はい、乙女の醜態を見ちゃだめですよー。



 結局、新勇者はその職務をまっとう出来ずに、魔王の前に敗れ去った。

 そしてその一部始終を見守った村人たちの間に戦慄が走った。

 魔王の恐ろしさを目の当たりにし一歩引いてしまったのだ。


 新勇者は解雇されたが、ラチがあいたのでおそるおそるみんなシュールに手を伸ばした。


 あるものはポテトにくるみ

 あるものは果敢に挑戦したが。


 結果は惨敗


 一人の男性は小指の先ほどの量をかじって、戦略的撤退。

 一人の女性はマッシュポテトに小片をくるんで飲み込んだが、それでは戦ったとは言えない。


 俺も食べたが……臭い!


 言い表すのは難しいが、「公衆便所」「体臭」「ドブ」っぽい匂いなんだ。


『食えないことは無い』

 という表現が俺には一番的確だった。


 みなの不甲斐ない戦いっぷりに、女性幹事か責任感を強く感じてか、バゲットに一切れ丸々載せた!


「Tさん動画お願い」


 その決心した目から、「私が死んだら家族に、勇敢に戦った私を見せてあげて」と伝わった。



 ような気がした。


「じゃぁいくよ」


 録画のボタンが押され、盗撮防止用に必ず鳴る設定の電子音が響いた。

 ソレと同時に女性幹事はバゲットの半分くらいまで一気に咥えた!


「んー、んぐんー!」


 叫びとも、タンスの角に小指をぶつけたとも判らない声が切実に漏れた。


 魔王はしゃべらず動かず、ただ異臭を放つだけだと思っていたが、実はひそかに致命傷を与える術を知っていたのだ。


 女性幹事が半分までくわえ込んだとき、パンもろともシュールを噛み切るのが困難だったのだ。


 今まさに、鼻先でシュールが異臭を放つ。

「公衆便所」「体臭」「ドブ」が鼻先にぶら下がっているのだ!


「ん~、んぅ~」

 こころなしか叫びに涙声が混じってきた。


「出していいよ!」

「無理しないで!」


 心優しき声が届く。

 既に撃沈している者達からの声だ。



__だが彼女はやり遂げた!!


 外に出ていたシュールの下半身やだなを一気に口に押し込んだ!

 そして四苦八苦しながらも飲み下したのだ。


 やった

 やりよった!


 歓声が巻き起こる。

 すばらしき幹事としての意地!

 お前のハート見せてもらったぜ!


 きらりと光る涙を拭きながら

 ウィニングロード(3歩)を凱旋し帰ってくる女性幹事。


 本当に良くやったよ。

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