魔界の扉が開くとき
満を持して、俺は装備を固めると冒険の旅に出た。
魔王討伐に出た勇者は、難なく魔王に出くわし(宴会場の中央に鎮座…というか祀られていたというか)その喉元に缶切りの刃をあてがったのであった!
まぁ缶ののどがどこなのかなんて野暮な質問は聞こえないが。
心境はそんな感じだった
勇者は単身乗り込み、魔王と一騎打ちになったのだ
だが現実は違った
他のメンバーたちは片手にデジカメや携帯を持ち、俺とシュールさんを取り囲んでいるではないか。
「よせ!近付くと魔王の返り血を浴びるぞ! 犠牲者は私だけでいい……」
そんな言葉に耳も貸さずに、早く開けろとばかりにアゴで促される。
なんという権力の無さだ、勇者の名が泣く。
やはりここは犠牲者と名乗ったほうがしっくりくるかもしれない。
などと考えていると、またアゴで催促されたので仕方なく持つ手に力を込めた!
ぷしゅ~……
「へ?」
あっけない音に対して
呆けた声が漏れる。
期待に反して飛び出る液は殆ど無かったし、空けた瞬間に鼻をつんざく(?)怪臭がすると思った俺たちはあっけにとられてしまったのだった。
よく考えてみればわかったはずなのだ
普通シュールさんの地元のスウェーデンでは8月に解禁令が出され、ソレまでは開けたりしないそうだ。
今は一月、発酵食品であるシュールさんは、まだ十分に醗酵しておらず、力不足の状態だったようだ。
何気に期待していただけ、軽い失望感はあったのだが(雨合羽は約1000円だったが一滴もかからなかった)これは噴出すのがすごいのではなくて、匂いがすごいのだということを思い直し、とりあえず缶きりで全部を切り開いた。
海から吹く風はかなり強く、洋服やごみ等は油断していると吹き飛ばされ、海のもずく(藻屑)と化してしまうほどの勢いだった。
そのためシュールさんから見て風上にいれば、ちっとも匂いがわからない。
風下のほうもまだそこまでは臭くないようだ……
「そんなに、臭くないな」
誰かがそう声を漏らす。
宴会場の真ん中に置きなおし、完全に宴会の体裁を作る。
「さて、誰が食べる?」
またもや犠牲者という名の勇者……いや逆か。
勇者という名の犠牲者を探す参加者たち。
俺がブルッと震えたのは、
参加者の多くが俺のほうを向いたからだろうか?
それとも寒い一月の海風が体温を奪ったからだろうか?